第4話 いざ王都へ!少女の目的
幽霊と少女の珍道中、久しぶりに人と話すから会話の仕方を忘れてしまった。
何を話すべきなのだろうか?
「そうだ、自己紹介がまだだったな。俺はアルだ。生前は騎士をしていた」
「騎士のアル?あの最強と言われていた?」
「俺のこと知ってるのか!」
「当たり前でしょ。あなたの名は世界中に知れ渡っている。あなたの事件のことも」
「事件?」
「ええ。あなたが魔族の討伐に向かってからもう三年も行方不明になってるのよ」
「三年⁉あれからもう三年もたったのか⁉」
信じられん。
今日この日まであっという間に時間は過ぎたように感じたが、もうそんなに経っていたとは。
腹も空かないし、疲れも感じないから時間の流れに鈍感になってしまってんだろう。
「そう。にもかかわらずいまだ帰らないどころか目撃情報もない。だから今はアル失踪事件としていろんなところで語られている。どこかのダンジョンに潜り込んでるとか、修行してるだとか。でもやっぱりほとんどの人は死んだって言ってる」
少女は表情を変えず淡々と語った。
三年も行方不明となれば死んだことにされて当然だろう。
俺が死んだとなれば国はどのように動いているだろうか。
あの魔族に対抗できるやつは俺の知る限り数人、いや、そいつらでも敵うかどうか。
何か手を打たなければ近い将来国は滅んでしまうだろう。
しかし、いくら幹部とはいえあの強さは異常だ。
今まで幾度と魔族と戦ってきたが、けた違いの強さだった。
何か納得いかない。
俺の感がそういっている。
家族のほうも心配だ。
長い間どんな思いをさせてきたか、考えただけでも胸が苦しくなる。
一刻も早く帰らねば。
「お嬢ちゃんのことも教えてくれよ。なんで俺のこと見えてんだ?」
少女は俺のことをじっと見つめ、少し悩んだ末、口を開いた。
「私はマーリン。アンデッドや幽霊に関する魔法を研究している。あなたが見えるのは幽霊を見る魔法を使っているからよ」
「ほう。そんな魔法が使えるのか。でもどうやって俺の場所まで来たんだ?」
「あの森を通ってたらたまたまペンダントを見つけたの。家族写真があったから大事なものだろうと思ってペンダントについている魔力をたどってきただけ」
「そうか。マーリンは優しいんだな」
「別に、私のやるべきことをやっただけ」
静かに言い放ったが、そのクールな顔つきに赤らみが見えた。
「ほかにも幽霊の魔法はあるのか?」
「もちろん。霊を呼び出したり、実体化させたりすることができる。それで一緒に戦ってもらっているの」
「だったら俺を家族のところで実体化してくれよ。息子に謝らないといけないんだ」
「それは嫌!」
急に大声で拒絶され、気軽に進めていた足を止める。
「この魔法はかつての英雄や屈強なやつらをこの世に呼び出すことも可能。たとえ人間でも魔族でも、もしこの魔法が誰かに見つかったら厄介になるのは目に見えてる。だからむやみやたらに使いたくないの」
怒りをあらわにしたしかめっ面とは裏腹に、マーリンの目からどこか冷たいものを感じた。
確かにこの魔法は誰もが欲しがるだろう。
マーリンの言った通り、名を残したやつらが共に戦ってくれたらどれだけ心強いか。
だが、逆にこの魔法欲しさに魔族から狙われるか、使わせないために殺されるだろう。
この魔法一つで戦況が大きく変わるとなれば、容易に晒したくない気持ちもわかる。
「悪かった。こうなったのも自分のせいだ。無理に使ってくれとは言わない」
「わかってくれてありがとう。でも、どちらにせよあなたを実体化させるのは5秒が限界よ」
「そうなのか。しかし、そんなすごい魔法、どうやって覚えたんだ?」
「この魔法は元々パパが作り出したものよ。小さいころ、私はパパがやってる研究が気になって研究部屋に入り込んで研究本を勝手に読んだの。それでこの魔法を覚えたわ。全部できるようになったわけじゃないけど」
「お前のお父さんすごいな。よほど名のある魔法使いなんだろうな」
「そうね。昔は戦場に出て活躍してたらしいけど。もしかして知ってるんじゃない?パパの名前はモーガンっていうんだけど」
「モーガンだって?だったら知ってるぞ。あいつは戦いは好まないらしくて、もう何年も会ってなかったが、そんなことをしてたのか」
モーガンは昔共に戦った凄腕の魔法使いで、あの魔族に対抗できるやつの一人に入る。
あいつに頼んだら、なんとかなるかもしれない。
「モーガンは今なにをやってるんだ?」
「それは…」
一瞬言いにくそうに口を紡いだが、その後ゆっくりと話し始めた。
「私が住んでた町が魔族に襲われて、その時パパは町を守るために戦ったんだけど、私が人質に取られちゃって…パパは私を助けるために魔族に連れていかれたの。パパが使ってた魔法が欲しいって」
だからさっきあんなに拒絶してたのか。
そんなことを経験したならなおのこと使いたくないだろう。
「そうか…それは残念だったな」
「ええ。でも死んだわけじゃない。私はこの魔法を使ってパパを探して助け出す。そのために王都に向かってるの」
「だったら俺も力になってやるよ。恩を返すのにぴったりだ」
「ええ、その時になったら助けてもらうわ」
俺が笑って見せるとマーリンの辛そうな顔が少しばかり緩んだ。
この年でずいぶんたくましいな。
モーガンもいい子どもに恵まれたもんだ。
しかし、せっかくの旅が少ししんみりした空気になってしまったな。
どうしたものか。
よし、ここからは俺の武勇伝でも語ってやろう!