第3話 立ち上がれ!俺の使命のために!
足音が近づいてくる。
獣ではない。
「いた。こんなところに」
少女だ。
少女が俺の死体を見つけた。
こんな森に人が来るとは。
まあ、いまさら人が来たところでこの状況が変わるわけがない。
「ひどい状態ね。早く処置しないと」
処置?ああ、墓でも作ってくれるのか。
気のいい奴もいたもんだ。
「ちょっとあなた、聞こえてるでしょ?顔をあげて」
……ん?俺か?
俺に話しかけてるのか?
さび付いたように固い首を動かし、上を見上げる。
「お前…俺が見えるのか?なんで…」
「そういう魔法を専門としているもの。それよりあなた、やっぱりアンデッド化しかけてる」
「アンデッドか……俺にはそれがお似合いかもな」
「だめよ。そう卑屈にならないで。あなたの名前は?生前なにしてたの?」
「名前……」
……思い出せない。
俺はなにをしてたんだっけ…。
誰かと戦って…そして負けた。
何のために?
わからない。
だが、戦わなければという念が俺を支配している。
「そうだ…戦わなければ」
戦う衝動に駆られ、おもむろに剣を抜く。
強くならなければ……勝たなければ……
誰だろうと殺さなければ…
「だめよ。自我を忘れないで。これはあなたのじゃないの?思い出して」
少女の手から何かがぶら下がっている。
なんだあれは?
薄汚れた首飾り…ペンダントか?
ゆっくりと回る中の写真と目が合った。
……モールド……ネヴィ……
その言葉が頭ではじけた。
「それをどこで…?」
「この森の反対側に落ちてたわ。大事なものなんでしょ」
少女はペンダントを死体の上に置いた。
なぜ忘れていたんだ。
俺の家族、俺の宝。
俺の守るべきもの。
そうだ。
俺はアル。
俺が戦ってたのは勝つためでも強くなるためでもない。
守るためだ。
誰かを傷つけるためじゃない。
俺は少女に向けていた剣を納めた。
全身の力が、黒く燃え上がる心が静まっていく。
このペンダントが俺の心を浄化してくれた。
俺の進むべき道を明るく照らしてくれた。
おかげで俺がなぜ死んでもなおここにいるのかわかった。
戻らなければ。
「ありがとう、ここに持ってきてくれて。おかげで自分を取り戻すことができた。礼をしたいところだが、生憎この身でしてやれることがわからん」
「気にすることないわ。これが私の役目だから」
「そうか。迷惑かけたな。俺は王都に戻らなければならない。この恩は次会った時に必ず返す。その時まで元気でな!」
別れを告げ王都に向かって歩き出す。
気のせいか身が軽い。
幽霊だから当たり前か。
「ちょっと待って」
「ん?どうした?」
「王都はそっちじゃないわ」
急に足が重くなった。
そういえばここがどこなのか、どっちが王都なのかわからない。
「私も王都に行くところなの。道がわからないなら私が連れてってあげる」
「ほんとか⁉それは助かる。また恩を借りることになるな」
「たまたま行き先が同じだっただけよ。人助けじゃないわ」
「そう謙遜するなよ。この道中で俺にやってほしいことを考えといてくれ。まあ、話すことぐらいしかできないがな」
「じゃあそれでいいわ。ちょうど退屈してたから」
無表情な少女はため息をつきながらあきれ気味に答えた。
俺は少女と共に森の中を進み始めた。
モールドと死ぬ気で生きて帰ると約束した。
その約束はまだ破られていない。
息子との約束を果たさぬままだと、俺は死んでも死に切れん!