第1話 戦え!俺には死ねないわけがある
「なあ、そんなに拗ねるなよ」
旅立ちの日、雲一つない澄んだ青空の元、みんなが街の門の前で見送りをしてくれている中、息子のモールドはずっとうつむいていた。
「だって、いつ帰ってくるかわからないんでしょ?」
「そうだな。かなり険しい旅になりそうだな」
近年、昔倒されたはずの魔王が復活し、魔族の活動が活発になってきた。
俺はこれから騎士としてその力を抑制するために魔王の幹部がいるという砦に向かうことになった。
「心配することないわ。なんたって最強の騎士なんだから!」
妻のネヴィがモールドの頭をやさしくなでた。
「そうだぞ!俺は最強の騎士、アル様だ。見ろ、この鍛え抜かれた体を!」
俺はモールドの前でマッスルポーズをして見せた。
すると、モールドの顔はだんだんほぐれてついにはふっと息が漏れた。
「いいか?俺は何があっても絶対に帰ってくる。約束だ」
「ほんと?絶対だよ!」
大切な妻と息子とハグを交わし、軍を率いて広大な大地に足を踏み出した。
この俺が負けるはずがない。
そう思っていた。
目の前に広がるは炎の壁、見るに堪えない仲間の姿。
まさに地獄。
相手は一人。
血の一滴も落ちていない。
俺は片膝をついたまま重くなった頭を支えるので精一杯だ。
最悪の結末が脳裏に色濃くこびりつく。
「人間どもも所詮こんなものか」
幹部は堂々と俺の前に立っている。
深い闇のように冷たい目でこちらを見つめてくる。
まさか、ここまでなのか…。
その時、首から下げた家族写真入りのペンダントが俺に向かって光った気がした。
そうだ。
俺には破るわけにはいかない約束があるんだ。
ゆっくり立ち上がり、再び剣を敵に向ける。
「休憩は終わったか?その求刑は苦痛を延長させてるだけだがな」
「これしきの苦痛、なんともないわ!」
力を振り絞り、剣を振る。
だがそれも当たり前のようにかわされてしまった。
「威勢だけはいいな。ここに攻め込むというのだからどんな強いやつが来たのかと思っていたが、期待外れもいいところだ」
「俺も期待外れだ。あの冷酷な魔族ともあろうものが、油断しすぎじゃないか?」
「俺にとってこの戦いは命の取り合いではない。ただの遊びでちょっとした力試しだ。もっとも、ここまで力が上がっているとは思っていなかったが。おかげで戦えずじまいの部下たちの機嫌を損ねることになってしまった。ここまで弱り切ったお前を部下にやるわけにもいかない。誠に残念な結果だ」
「まだ…まだ終わってないぞ!」
悲鳴を上げる体を無視し、重い剣を全力で振る。振る。振りまくる。
しかし、そんな攻撃を嘲笑い、遊ぶようにギリギリのところで避けている。
「さすがにこのおもちゃで遊ぶのも飽きてきた」
そう聞こえたと思ったら、目の前から消えた。
どこに消えた⁉
「後ろだ。のろまめ」
振り返り、とっさに防御の構えをとる。
が、だめだった。
剣、鎧、背後にある木までも一撃でいかれてしまった。
口から息の代わりに血が噴き出る。
もはや痛みなど感じない。
だが、どれだけ力を入れても動かない。
重力に逆らうことができない。
視界がぼやける。
まだだ…
まだ俺の意志は切られていない!
息子と交わした約束をこうもあっさりと破るわけにはいかないんだ!
頑張って……目を………開け……ろ……