第九話:憎しみ
1話の長さは、大体1000~4000文字程度です。
この話の文字数:2974
特訓を始めてから3か月。
エクラは最初とは見違えるほど頼りになる存在となった。まだ月属性魔法を3つしか使えないが、スキル抜きならワタシより強くなってしまったのではなかろうか。
レベルで見ると、最初は20だったのが25まで上がったらしい。ワタシも21から24に上がったけど…抜かされてしまった。
何故そこまで急激に成長したか…そりゃあ、ちゃんと食べさせているからだよね。腹立たしい話だ。キセキの言うように、あの男にはお灸を据えてやらないといけない。
そして今日、機は訪れた。
「あ…。」
その日も依頼を探しに、掲示板を眺めていると、キセキが肩を叩いてきた。振り向くと、キセキは遠くを指差す。そこには例のパーティが。
「ついに来たね、のうのうと来やがったね。」
「先輩の事をあんな風にした奴ら…許すわけにはいきませんよね。」
「…ねぇ、本当にやるの?僕のために、そこまでしてくれなくても…。」
「別にエクラくんの為じゃないよ。ワタシもキセキも、怒ってるんだよ。仲間を傷つけ、捨てたその行為に。」
「さぁ、行きますよ!決戦の時です!」
ワタシはリーダーの男と相対し、こう突きつける。
「「銀の鎖」の皆さんですね。決闘を申し出ます。」
「あ?決闘…?俺に挑もうってんなら…待て、あー、お前、名前なんだっけ?」
「エクラです。」
「あーそうそう。お前がこのチビを差し向けたんだろ?粘着するのはやめろよ。俺達はもうお前を捨てたんだよ。それっきり。おさらばなんだよ。」
「逃げるんですか?ワタシのようなチビが怖いと?」
「は?」
「勝つ自信がないから逃げるんですよね?」
「…お前らなんか捻り潰してやるよ。」
「受けてくれるんですね?では、条件を。ワタシ達が勝ったら、貴方達は冒険者を辞め、二度とギルドに姿を見せない事。貴方達が勝ったら、この「掛け金」を全て差し上げます。」
「な…こんな金、お前、貴族のガキか。」
「そうですが。条件、よろしいでしょうか?」
「…いいぞ。受けて立ってやる。」
ワタシ達は闘技場へ移動する。
「キセキ?」
「何でしょうか、シエル様?」
「手加減しなくていいからね。全力で叩きのめそう。」
「あの…本当に僕なんかで勝てるのかな…。」
「ここ3か月の特訓に比べたら、あんな奴ら、屁でもないよ。」
闘技場に、ワタシ達3人と、銀の鎖のリーダーの男、メンバーの男女が並ぶ。
試合開始の鐘が鳴り響く。
開幕、速攻で動いたのはキセキ。魔法の詠唱を開始しようとした右の女に超速の飛び蹴り。
「ぐあっ!?」
女の推定レベルは40といったところだろう。今のキセキは38、さらに力を少し解放しているので46程度はある。キセキの一撃は重く、女は大ダメージを受けてダウン。
キセキはそこから更にリーダーの男に対して魔法攻撃を仕掛ける。
一方、左の男はエクラの魔法で翻弄されている。「シャドウレイ」連打で相手の精神にダメージを蓄積させ、再起不能の状態にしている。ワタシが伝授した「ハメ技コンボ」だ。ただし、再起不能にしただけではダウン判定にはならないので、ワタシが男の顔を殴打し、ダウンさせた。
残るはリーダーの男のみ。しかし、こいつは少し格が違う。レベルは推定64。白と黒のレベル75には遠く及ばないが、そこそこの実力者だ。
キセキが金属性魔法「アイアンスピア」で攻撃を仕掛けるも、それらは悉く弾かれ、ほとんどダメージにならない。
「クハハ。俺の仲間達を倒したのは褒めてやる、だがこの俺を倒せると思うなよ…!」
めちゃくちゃ悪役っぽい台詞を吐く男。確かに、普通にやったら三人がかりでも負け濃厚だ。
しかし、三対一の状況にするために横の二人を瞬殺したのだ。ここからのことも勿論考えてある。
と、ここで、観客からの声援に気付いた。
「お嬢ちゃん!俺達を倒したお前なら、絶対勝てるって信じてるぞ!」
ワタシ達がボコボコにした赤服、青服の二人組だ。
「が、頑張って!応援してるよ!」
初回から毎度お世話になっている受付のお姉さんも見に来てくれていたようだ。
そして…。よく見たら「白と黒」の二人まで見ている!これは…
よそ見をしていたら、顔面に男の攻撃をまともに喰らってしまった。痛い!
ワタシは床を蹴って一回転し、ギリギリ着地。これはスキルとかではなくただの技術だ。それも、今世のワタシの。
「シエル様!?」
キセキが駆け寄って来る。「後ろ!」叫ぼうとしたが間に合わなかった。
「アースクエイク!!」
男の魔法、あれは土属性魔法だ。奴の最も得意とする魔法。地震を起こし、周囲の地形をぐちゃぐちゃにする大魔法。
床に足を着いたキセキはバランスを崩し、生成された岩山に…!
私は咄嗟に魔法でキセキを護る。
「ライトバリアー!」
キセキの周りに光のバリアが展開され、彼女を包み込む。キセキはバリアーで守られ、致命打を回避できたようだ。良かった。
「ワタシは大丈夫だから!敵に気を向けて!」
「…はい!」
このやり取りを見て、男はワタシを注視し始めた。ワタシがこのパーティの核だと気づいたのだろう。
ワタシに向けて大槌を振るってくる。ワタシは「絶対視認」で回避。
でも…男の攻撃は止まない。さっき一撃貰ったせいで、痛みで集中力が持たない。
「絶対視認」からの「会心反撃」のコンボも決めてみたが、相手の防御力が高すぎて致命打にならない。
あー、口の中が血の味がするよ。頭もくらくらしてきた…。
でもね…
ワタシは囮なんだよね。残念ながら。
「ヘルゲート!」
ふふっ…エクラの方を全く見てなかったでしょう?ずっと。彼がただの無能だと思っていたから。
でも、本命はそっちだよ。大魔法「ヘルゲート」の準備をしてたんだ。特殊な儀式が必要な魔法だから、警戒されるとほぼ成功しない。でも男はワタシに釘付けでエクラに注意を向けなかった。
地獄への入口、ヘルゲート。無数の手が男を掴み、扉の中へ引きずり込む。
「何だこれは、うぁ、ぐあぁぁぁ!?」
扉は閉じ、暫くすると男は再び空いた扉から吐き出された。
いくら身体の防御力が高くても、精神的苦痛に耐えるのには限度がある。
「さて、全員ダウンで私達の勝ちです。負けを認めて下さい。」
「あ…ぐぁ…。」
ヘルゲートに放り込まれてなお意識を保てているこの男は、大したものだ。仲間をぞんざいに扱うその腐った性根がなければ、仲間に誘ってもよかったと思う。
「俺は…。あきら…めねぇぞ…!」
!まだ倒れないのか。だが男はもうまともに立ち上がる事すら出来なそうだ。これはワタシがトドメを…
「悪魔…召喚…」
なに…!?悪魔召喚!?
「この俺の身体が贄だ…!あいつらを…!焼き尽くせ!」
男はヘルゲートにやられたせいか、完全に頭が狂ってしまっている。自分の身体を贄にする、すなわち自分の人格は消え、中に悪魔が入るようなものだ。それすなわち死。
そして、その召喚に応える悪魔が居なければ召喚は失敗する。しかし…。
男の身体に黒い靄がかかり、その身体には紋章が刻まれていく。悪魔召喚は、成功だ。
「ショウカンシャノ…メイレイヲジッコウ…。」
私達を焼き尽くす気だ。
ワタシには、流石に連戦を戦う力は残っていない。大魔法を使ったエクラも同じだろう。
ワタシを捕捉した悪魔。ワタシは覚悟を決める。
だがその時、ワタシの前に二つの影が現れた。
「こいつは俺達に任せて貰おうか。」
「「白と黒」の名にかけて、この悪魔を討ち滅ぼしましょう。」
9/50章です。
ボス戦です。
戦闘シーンの描写は苦手です。手っ取り早く終わらせてしまいたい所。
シエルの「大男の顔面パンチを喰らっても、戦闘を継続できる耐久力」…。書いていて時々忘れそうになりますが、この子、10歳の女の子なんですよね。この世界では、独り立ち出来る年齢ではありますが。