第八話:キノコ狩り
1話の長さは、大体1000~4000文字程度です。
この話の文字数:2381
次の日。
ワタシ達は、再びギルドにやってきた。依頼を受けて、生活費を稼がなければならない。
勿論、昨日の少年も一緒だ。名は「エクラ」というらしい。
「先輩!どのミッションを受けるのがいいと思いますか?」
「あ、えーと…初心者はまず、採集系のものがいいかな。」
キセキはエクラの事を先輩と呼んでいる。年齢的にも実力的にもキセキの方が上だが、ワタシ達はまだ冒険者稼業のノウハウが無い。だから先輩と呼ぶことにしたらしい。
「じゃあ、採集系の…これなんかどうですか。」
ワタシが手に取った依頼書は「ダッシュマッシュのかさの採集 推奨レベル:18」。
「ダッシュマッシュ…逃げ足がとても速いキノコの魔物だね。ちょっと捕まえるのが難しいとはいえ、危険度は低い依頼だと思う。」
「推奨レベル的にもこれが一番いいですよね。」
「よし!これに決まりです!受付に持っていきましょう!」
受付に行くと、職員の女性が先に話し掛けてきた。
「エクラ君…昨日は大丈夫だった?」
「はい。この方達のお陰でなんとか…。」
「そっか。二人とも、ありがとう。」
「いや全然、私は私に出来る事をしたまでです…!!」
キセキは少し照れながらそう答える。照れた表情も可愛い。
「それはいいんですが。それより、このミッションを受けたいのですが。」
「あ、はい!すぐに手続をしますね。」
そうして、ワタシ達の初ミッションは始まった。
「南の森に入ると、すぐにダッシュマッシュの群生地があるんだ。大量に居るから、僕達が採集しようとする時に逃げ遅れる個体もいる…。でも、それを狙うんじゃなくて、逃げ足の速いやつを狙った方がいいんだ。」
「その方が素材の質が高いってことですか?」
「そう!その通り。値段にしたら、7~8倍は違うんだよ。」
「はえ~、そんなに違うんですね!じゃあ、速いヤツを狙いましょう!」
「…それで、ここまで来ておいてなんだけど、僕はあんまり役に立てそうにないや。」
「何故ですか?」
「いや、僕は魔法がほとんど使えないからさ…。どの属性にも適正がないんだよ。ダッシュマッシュを捕えるには遠距離攻撃がやりやすいけど、僕にはちょっとね…。」
「そう…なんですね。」
「ちょっと、シエル様?」
キセキが小声で話しかけてくる。
「どの属性にも適正がないって、あり得るんですか?」
「あり得る…というか、人間のだいたい七人に一人は無適正だよ。」
「そうなんですか?」
「…っていうのは、人間の知識。無適正ってのは、人間の認知している属性の中での話。人間は、火水木金土の基本5属性と、上位の属性として日がある、としか考えていないけど。そうじゃないのは知ってるでしょ?」
「そうですね。もう一つ「月」属性があります。って教えてくれたのは魔王様でしたけど。」
「そういうこと。無適正だと思われている七分の一は、実際は月属性に適正があるってこと。」
「じゃあ、先輩も?」
「だと思うよ。だから、魔法の詠唱とイメージさえ出来れば、月属性魔法が使えるはず。後でやらせてみようか。」
「というわけで先輩!先輩は月属性に適正があると思うんです。」
「は、はぁ…。それを何で君達が知っているのかは分からないけど…まぁ、アレを見たら信じるしかないか。」
アレとは、キセキの「半擬人化」形態の事だ。確かに、ただの人間があれを見たらそうなるか。
「まず、私でも使える超基本の月属性…「ムーンライト」を使えるか、試してみましょう!お手本を見せます!」
キセキはダッシュマッシュの群生地に突っ込み、慌てて逃げようとするキノコ達に魔法をお見舞いする。
「行きます!ムーンライト!」
キセキの掲げた右拳から光が放たれ、被弾したキノコ達の動きが少し鈍くなる。「ムーンライト」はいわゆるデバフ魔法だ。
「よいしょっ!」
キセキは動きが遅くなったキノコ達を次々に蹴り飛ばし、息の根を止めていく。どうやらキノコ達は打撃耐性は全然ないみたいだ。
「そして、これも難易度の割に有用なのです!シャドウレイ!」
影光線という、意味の分からない魔法名。しかしその効果は大きく、黒い光線がキノコ達を貫く。光線を受けたキノコは黒く萎びていき干からびる。
「あぁ、このキノコ、精神生命体なんだね…。」
精神生命体は魔物の種別で、精神と肉体が密接に関係している生き物だ。つまり精神の方を攻撃されると肉体も滅びる。シャドウレイは精神に効果大の魔法なので、精神生命体に対して使うと効果が大きい。
しかし、今回は素材の収集が目的なのに、素材の質を落としてしまっているのであまりよろしくない。
「あちゃー、今回はコレは封印ですね!」
「…これが僕にも出来るってこと…?」
「これ以外にも、月属性に適正があれば、月属性の最もスタンダードな攻撃魔法「ムーンフォース」や、変な所で行くと「ミラーリング」って魔法もあります…よね。シエル様?」
「そうだね。お手本があればいいんだけど…生憎、ワタシは日属性メインだし、キセキは金属性だよね。」
「そうですね、私が最も得意とするのは金属性、あと日属性も結構。その他は基本の基本しか…。」
「へぇ…って、2属性持ち…?」
「あー、分かってると思うけど、キセキは人間じゃないから、別に複数属性に適正があっても特別な事ではないよ。本来の属性は金で、日属性は元々種族単位で強いだけ。でも、人間からしたら珍しいから、キセキには金属性の魔法はあんまり使わないでって言ってあるよ。」
「お手本…とりあえず私が出来る範囲の月属性魔法を先輩に伝授するので、明日から特訓しませんか?」
「ワタシもそれがいいと思う。ただ、ゆくゆくは教師が欲しいよね…考えておくね。」
「特訓…教育…僕のために?」
「勿論。ワタシ達の仲間になる人間は、もう少し頼りにならないと困るから。今までどうされていたかは分からないけど、ワタシ達は教育を施す。いいかな?」
「分かった。明日からお願いします!」
8/50話です。
今更ですが、この物語の世界は「一日」「一か月」「一年」などの長さが、地球とほぼ一緒です。
名付けに日本語を使っている時点で世界観設定はアレですが、そういうのはあまり気にしていません。
元々、この物語を書き始めたのは、言葉遊びをしたかったからです。主人公の名前も、シエル・アルカン…Arc-en-ciel (アルカンシェル)つまり虹、という意味があります。
こうやって命名に魂を込めているので、主人公の家族の名前が決まらなかったりするんです。ユルシテ