第七話:本当に怖いのは何か
1話の長さは、大体1000~4000文字程度です。
この話の文字数:2814
視点:キセキ
名もない、自分が何者かも分かっていない、そんな時。
私は独りぼっちだった。気づいた時には。
私は捨てられたのだ。今となっては、理由は分からない。
私は常に追われ続けていた。
「縁起物」だの「幸せを呼ぶ」だの言われて。私自身はそれで不幸なんだから皮肉な話だ。
何十年と逃げ惑う生活。その中で、魔王の領域へ入ってしまったのだ。でも、そんな事は知識のない私は分からなかった。
周囲は黒い霧に包まれていて、薄暗かった。あまり覚えていないが、とても怖かったと思う。
歩く、飛ぶ、そのくらいしか行動の選択肢のない私。だが、ひたすら飛ぶと霧が薄くなっていった。
その先に見えたのは、禍々しい城のような建物。
私はそこで地面に降り立った。正面には入口のような場所が。私は恐怖を抑えながらも、好奇心を抑えられずその入口に向かっていった。
「やぁ。そこの君。」
突然、声を掛けられ、振り向く。が、誰も居ない。
「そうそう、君だよ、小鳥ちゃん。」
私は会話を試みようとするが、細い鳴き声しか出ない。
「ん、君はもしかして「半擬人化」の使い方を知らないのか?君の種族なら出来るはずなんだけど。ちょっと、自分の身体の構成を意識してさ…。」
身体の構成を意識…?まず自分の身体がどうなっているのかも分からない。
足、翼、頭、嘴、胴…。意識したらちょっとずつ分かってきた。
「で、それを変化させるんだ。いや、僕は「半擬人化」を使えないから、簡単なアドバイスしか出来ないんだけど…。」
今なら、出来る。私は言われた通りに、「半擬人化」を発動する。
私の身体から光が放たれ、身体の形が変化する。
「おー、出来たじゃん。いいね。」
「あ…あぅ…ありがと、ございます。」
「礼はいいよ。で、君は何しに来たの?うちの大将に会いに来たの?」
「大将…?いえ、私は…気づいたら、ここに居て…。」
「迷子なの?いや…こんな所で迷子?…まぁいいや。うちの大将に頼めばしばらくは面倒を見てくれるよ。」
「あ…ありがとうございます。…あの、貴方のお名前は?」
「ん~?僕は「シン」だよ。君は?」
「私ですか…?私……。」
「あぁ、名無しか。こりゃ本格的に…いやなんでもない。うちの大将も名無しなんだよね。だから僕は大将って呼んでる。さ、行こうか。」
姿の見えない声に案内され、私は城の中へ入っていく。
辿り着いたのは、城の最上階の小部屋。「大将」は黒づくめの小柄な人物だった。
「其方がシンの言っていた…。ふむ。」
「大将」は私の肩に手を置き、語り掛ける。
「深くは追及せぬが…其方は苦労してきたのであろうな。」
何か変な感覚がして、私は一歩後ずさる。
「あぁ、余が怖いか?」
怖くないと言えば嘘になる。
「怖い…です。」
「まぁ、余は魔王であるからな。恐怖を感じても…」
「えっ?」
私はもう一歩退く。魔王の手が離れる。
「ん?まさかシンの奴、余が魔王ということを伝えておらぬのか?」
「魔王…!?」
私は気づいたら逃げ出していた。圧倒的な恐怖心の前に。
階段を駆け下り、廊下を突っ走る。玄関を出て、橋を渡る。
「ちょ、ちょっと…!」
シンの声が聞こえたが、私は無視して黒い霧の中を走る。走って、飛んで、全速力で…。
黒い霧を抜けた。
結局、魔王は追ってこなかった。
私は考える。魔王というだけで逃げてきてしまったが、魔王が悪い人物だったかは分からない。私に対して友好的だったかもしれない。肩に手を当てる。魔王が触っていた部分だ。
そんな考え事をしていたのが命取りだった。
突然、全身に衝撃が走った。
「がっ…!?」
声が漏れて気づいた。「半擬人化」を解除し忘れていた。今の私の姿なんて、人間からしたら格好の的なのだろう…。
空中で制御不能になり、私は建物の3階ほどの高さから墜落した。
痛い。そして身体が動かない。さっき受けた攻撃のせいだ。それを放った人間達が近付いてくる。
「へへっ、どうだい?「エレキショック」の威力は。」
「う…いぁ…。」
声が出ない。身体が痺れ、反撃する事も、逃げる事も叶わない。そのまま私は意識を失った。
そして次に目が覚めた時には、薄暗い部屋に居た。
右足が鎖で床に繋がれていて逃げられない。この状態では「半擬人化」も解除出来ない。外からさっきの人間達の声が微かに聞こえる。
「ま…か完全…状態の………をほ………きるとはな。」
「貴族に………大金……るだろ…な。一生あ…………らせる程の。」
このままでいたらどんな目に遭うか…大体想像は出来る。
完全…完全だからいけないの?どこか欠けてたら見向きもされないの?
思考が闇に染まる。今考える事は、ここから逃げ出す事だけ。
私は魔法の詠唱を始めた。私が唯一使える攻撃魔法。
「光よ…我が意思に応えよ…。」
私は少し迷っていたが、詠唱を始めた時に覚悟を決めた。
「七つの力よ、集まれ…一筋の光となれ…」
日属性では、金属性には効果が薄い。金属は光を反射して効力を分散させてしまうからだ。だから…。
「プリズムレーザー!!!」
私が攻撃するのは…私自身。鎖に繋がれた右足。
足一本くらい無くても、私には翼がある…自由に羽ばたける。
「うああああっ…!」
激しい痛みと共に、私は解放された。後は逃げるだけ…
そう思った時だった。
血溜まりから、黒い霧が発される。戸惑う私をよそに、その霧は形を変え…。
「…其方の行動は、無茶がすぎるのではないか?」
現れたのは「魔王」。彼は扉の方へ歩いていき…
私が覚えているのは、私を捕まえた人間達の悲鳴、爆発音、それだけだ。
そして魔王は私に歩み寄る。
「人間とは愚かなものだ…。其方もそう思うだろう?」
「あの…どうして助けに来て下さったんでしょうか。」
「…余の判断ではない。シンの要請だ。シンは其方の事を、あの後ずっと監視していたのだ。だが、あいつの能力は植物のある場所でしか発動しない。だから余に報告したのだろうが…。余のスキル「魔血召喚」は血を媒体としたテレポート能力。其方が血を流した事で余のスキルの条件が満たされ、こうしてここに来れたというわけだ。」
「えっと…。」
「あぁ、何故助けた、と聞きたいのか?それは余の気まぐれとしか言えんな。」
のちに、実際は、「集光魔眼」で私の素質を見抜いたからだと言っていたが…。
「それと。余は仲間が一番大切なのだ。仲間が困っていたら手を貸すのは当たり前だろう。」
「仲間…シンさんの事ですか。」
「まぁ、余に今現在、仲間と呼べる者はシンともう一人しかおらぬが。」
「私も…貴方様の「仲間」になれたら…なんて…。」
「其方が、か?」
「駄目でしょうか…。」
魔王は顔を抑えながら、高らかに笑う。怒らせてしまったかと、私は恐れる。
「願ったり叶ったりだ。其方を我が命の続く限り、仲間と認めよう。」
「あ…ありがとうございます!」
「だがまずは、その傷を何とかせねばならぬな。接合は厳しいだろう…。余が代わりを作ってやるから、少し待っているがよい…。」
こうして、私は三番目の魔王の仲間として迎え入れられた。
7/50話です。
回想シーンはあまり入れたくはない(私が読むの苦手なので)のですが、これは流石に入れたくて。
新キャラクター「シン」が登場しましたが、こいつはこの後第25話付近まで登場しないと思います。キャラクター設定がすでに固まっているので、先行して登場しました。(キセキの回想に必要だったからでもある)