表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/15

第七話:本当に怖いのは何か

1話の長さは、大体1000~4000文字程度です。

この話の文字数:2814

視点:キセキ


名もない、自分が何者かも分かっていない、そんな時。

私は独りぼっちだった。気づいた時には。

私は捨てられたのだ。今となっては、理由は分からない。


私は常に追われ続けていた。

「縁起物」だの「幸せを呼ぶ」だの言われて。私自身はそれで不幸なんだから皮肉な話だ。

何十年と逃げ惑う生活。その中で、魔王の領域へ入ってしまったのだ。でも、そんな事は知識のない私は分からなかった。


周囲は黒い霧に包まれていて、薄暗かった。あまり覚えていないが、とても怖かったと思う。

歩く、飛ぶ、そのくらいしか行動の選択肢のない私。だが、ひたすら飛ぶと霧が薄くなっていった。

その先に見えたのは、禍々しい城のような建物。

私はそこで地面に降り立った。正面には入口のような場所が。私は恐怖を抑えながらも、好奇心を抑えられずその入口に向かっていった。


「やぁ。そこの君。」

突然、声を掛けられ、振り向く。が、誰も居ない。

「そうそう、君だよ、小鳥ちゃん。」

私は会話を試みようとするが、細い鳴き声しか出ない。

「ん、君はもしかして「半擬人化」の使い方を知らないのか?君の種族なら出来るはずなんだけど。ちょっと、自分の身体の構成を意識してさ…。」

身体の構成を意識…?まず自分の身体がどうなっているのかも分からない。

足、翼、頭、嘴、胴…。意識したらちょっとずつ分かってきた。

「で、それを変化させるんだ。いや、僕は「半擬人化」を使えないから、簡単なアドバイスしか出来ないんだけど…。」

今なら、出来る。私は言われた通りに、「半擬人化」を発動する。

私の身体から光が放たれ、身体の形が変化する。

「おー、出来たじゃん。いいね。」

「あ…あぅ…ありがと、ございます。」

「礼はいいよ。で、君は何しに来たの?うちの大将に会いに来たの?」

「大将…?いえ、私は…気づいたら、ここに居て…。」

「迷子なの?いや…こんな所で迷子?…まぁいいや。うちの大将に頼めばしばらくは面倒を見てくれるよ。」

「あ…ありがとうございます。…あの、貴方のお名前は?」

「ん~?僕は「シン」だよ。君は?」

「私ですか…?私……。」

「あぁ、名無し(アンネームド)か。こりゃ本格的に…いやなんでもない。うちの大将も名無しなんだよね。だから僕は大将って呼んでる。さ、行こうか。」

姿の見えない声に案内され、私は城の中へ入っていく。




辿り着いたのは、城の最上階の小部屋。「大将」は黒づくめの小柄な人物だった。

「其方がシンの言っていた…。ふむ。」

「大将」は私の肩に手を置き、語り掛ける。

「深くは追及せぬが…其方は苦労してきたのであろうな。」

何か変な感覚がして、私は一歩後ずさる。

「あぁ、余が怖いか?」

怖くないと言えば嘘になる。

「怖い…です。」

「まぁ、余は魔王であるからな。恐怖を感じても…」

「えっ?」

私はもう一歩退く。魔王の手が離れる。

「ん?まさかシンの奴、余が魔王ということを伝えておらぬのか?」

「魔王…!?」

私は気づいたら逃げ出していた。圧倒的な恐怖心の前に。

階段を駆け下り、廊下を突っ走る。玄関を出て、橋を渡る。

「ちょ、ちょっと…!」

シンの声が聞こえたが、私は無視して黒い霧の中を走る。走って、飛んで、全速力で…。




黒い霧を抜けた。

結局、魔王は追ってこなかった。

私は考える。魔王というだけで逃げてきてしまったが、魔王が悪い人物だったかは分からない。私に対して友好的だったかもしれない。肩に手を当てる。魔王が触っていた部分だ。

そんな考え事をしていたのが命取りだった。


突然、全身に衝撃が走った。

「がっ…!?」

声が漏れて気づいた。「半擬人化」を解除し忘れていた。今の私の姿なんて、人間からしたら格好の的なのだろう…。

空中で制御不能になり、私は建物の3階ほどの高さから墜落した。

痛い。そして身体が動かない。さっき受けた攻撃のせいだ。それを放った人間達が近付いてくる。

「へへっ、どうだい?「エレキショック」の威力は。」

「う…いぁ…。」

声が出ない。身体が痺れ、反撃する事も、逃げる事も叶わない。そのまま私は意識を失った。


そして次に目が覚めた時には、薄暗い部屋に居た。

右足が鎖で床に繋がれていて逃げられない。この状態では「半擬人化」も解除出来ない。外からさっきの人間達の声が微かに聞こえる。

「ま…か完全…状態の………をほ………きるとはな。」

「貴族に………大金……るだろ…な。一生あ…………らせる程の。」

このままでいたらどんな目に遭うか…大体想像は出来る。

完全…完全だからいけないの?どこか欠けてたら見向きもされないの?

思考が闇に染まる。今考える事は、ここから逃げ出す事だけ。

私は魔法の詠唱を始めた。私が唯一使える攻撃魔法。

「光よ…我が意思に応えよ…。」

私は少し迷っていたが、詠唱を始めた時に覚悟を決めた。

「七つの力よ、集まれ…一筋の光となれ…」

日属性では、金属性には効果が薄い。金属は光を反射して効力を分散させてしまうからだ。だから…。

「プリズムレーザー!!!」

私が攻撃するのは…私自身。鎖に繋がれた右足。

足一本くらい無くても、私には翼がある…自由に羽ばたける。

「うああああっ…!」

激しい痛みと共に、私は解放された。後は逃げるだけ…

そう思った時だった。

血溜まりから、黒い霧が発される。戸惑う私をよそに、その霧は形を変え…。

「…其方の行動は、無茶がすぎるのではないか?」

現れたのは「魔王」。彼は扉の方へ歩いていき…




私が覚えているのは、私を捕まえた人間達の悲鳴、爆発音、それだけだ。

そして魔王は私に歩み寄る。

「人間とは愚かなものだ…。其方もそう思うだろう?」

「あの…どうして助けに来て下さったんでしょうか。」

「…余の判断ではない。シンの要請だ。シンは其方の事を、あの後ずっと監視していたのだ。だが、あいつの能力は植物のある場所でしか発動しない。だから余に報告したのだろうが…。余のスキル「魔血召喚」は血を媒体としたテレポート能力。其方が血を流した事で余のスキルの条件が満たされ、こうしてここに来れたというわけだ。」

「えっと…。」

「あぁ、何故助けた、と聞きたいのか?それは余の気まぐれとしか言えんな。」

のちに、実際は、「集光魔眼」で私の素質を見抜いたからだと言っていたが…。

「それと。余は仲間が一番大切なのだ。仲間が困っていたら手を貸すのは当たり前だろう。」

「仲間…シンさんの事ですか。」

「まぁ、余に今現在、仲間と呼べる者はシンともう一人しかおらぬが。」

「私も…貴方様の「仲間」になれたら…なんて…。」

「其方が、か?」

「駄目でしょうか…。」

魔王は顔を抑えながら、高らかに笑う。怒らせてしまったかと、私は恐れる。

「願ったり叶ったりだ。其方を我が命の続く限り、仲間と認めよう。」

「あ…ありがとうございます!」

「だがまずは、その傷を何とかせねばならぬな。接合は厳しいだろう…。余が代わりを作ってやるから、少し待っているがよい…。」


こうして、私は三番目の魔王の仲間として迎え入れられた。

7/50話です。

回想シーンはあまり入れたくはない(私が読むの苦手なので)のですが、これは流石に入れたくて。

新キャラクター「シン」が登場しましたが、こいつはこの後第25話付近まで登場しないと思います。キャラクター設定がすでに固まっているので、先行して登場しました。(キセキの回想に必要だったからでもある)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ