第三話:正体隠蔽
1話の長さは、大体1000~4000文字程度です。
この話の文字数:1922
10歳の誕生日を迎えたワタシ。
誕生パーティが終わり、家族で今後について話し合う。
「シエル、君はやっぱり目指すのかい?」
「うん、ワタシの夢だから。」
「俺は依然、反対だぞ。だって、危険じゃないか。」
「でも、兄様を守ってあげることもできるんだよ。」
「私はいいと思いますよ、「冒険者」も。」
ワタシが冒険者を目指すのに、父は中立、母は賛成、兄は反対の立場らしい。
「兄様が何と言おうと、これはワタシの目標だから。危険なことくらいわかってる。」
そして、ワタシの本当の夢は冒険者ではなく、その先だ。優秀な冒険者には称号が与えられる。「漆黒の魔剣士」だとか「純白の聖女」だとか。
ワタシも活躍してそんな称号を得たい!っていう幼い頃からの夢。
「兄様にだって、目標があるでしょ?王家直属の研究者になりたいんでしょ?ワタシは冒険者になりたいの。同じでしょ?だから、邪魔しないでよ。」
「うっ…。分かったよ。」
兄様は引き下がってくれた。自分の事を引き合いに出されたから、反論出来なくなったね。
「ワタシは明日から町に出ていく。まず第一歩を踏み出すために。」
「寂しくなるなぁ。」
「私に似たんでしょうか、まだ10歳とは思えない逞しさ。これならどこでもやっていけそうですね。」
母様は冒険者として「そよ風の癒術師」の称号を持っている。ワタシがこの道を歩もうとした切っ掛けも母様だ。
さて。
当面の食糧、財布、着替えなどの荷物を持ち、ワタシは家を発つ。勿論、キセキも忘れずに。
キセキの人型の姿は、結局自分以外には見せていない。彼女の正体がバレたら色々と大変なことになるから。
変身前の小鳥の姿では、ワタシの「魔力造形」では欠けた足を補う事は出来なかったから、隻脚のままだ。これで遥か遠くからワタシを探しに来たのだから、凄いと思う。
町は歩いて20分程度の場所に位置している。1日目の今日は、まず冒険者組合…つまりギルドに登録をしに行こうと思う。
「シエル様~?」
人型に変化したキセキが喋りかけてくる。特に理由が無ければ人型で居たいらしい(そりゃ、五体満足の方がいいだろう)。
「シエル様って、レベルいくつなんですか?」
「一昨年は17だったよ。その後は分からない。」
「はぇ~、それって高い方?ですよね?」
「同年代なら結構いい数値だったよ。伊達に冒険者目指してないから、それなりに鍛錬はしてたし。」
魔王の頃は文字通り桁が違ったけど…。それに、人間はレベルに拘り過ぎだ。レベルなんてものは身体能力を数値化しただけに過ぎない。技術やスキルを数値に反映していないから、レベルが3割、いや6割低い相手に負ける事だってザラにある。
あの時も、レベルでは勇者の方がかなり上だったが、何とか相打ちに出来たし。
「ちなみに私はレベル67です!あの頃から20も上がったんですよ!」
「…すごいね。」
「かなり頑張りましたからね!これならしばらくは私がシエル様を護る事が出来ます!」
レベルに拘るのは良くない、とは思っているが、レベルが低くていいことなんて何一つない。技量が相手と同じだとして、相手とレベルが1割違うと、それだけで勝率は半減するだろう。
今のワタシでは、キセキに勝てたら奇跡的と言ったところだろう。
「強くなったね。」
「え?」
「もうあの頃の未熟で貧弱な、絶望に満ちた小鳥ではないなぁって。」
「当然です!絶望なんてものは、魔王様に拾ってもらった時に捨てましたので。」
「いいねぇ。流石、魔王のお気に入りだ。」
「そうです!私は魔王様の、シエル様のお気に入りなのです!」
暫く進むと、町が見えてきた。
「そろそろ、小鳥の姿に戻った方がいいよ。」
「…イヤです!」
「え…。」
「魔王様から賜ったこの足をずっと使って居たいのです!」
「でも、その姿を見られたら色々と面倒じゃないの…?」
「大丈夫です!この10年で「正体隠蔽」のスキルを獲得したので!これで…」
キセキはくるりと一回転すると、その身体からは翼が消え、魔王作の右足も漆黒から肌と同じ色へ。そして毛色も黄色がかなり薄まり金髪に。
「どうでしょうか!これなら周りからも人間に見えますよね?」
「なるほど、それなら大丈夫かも。ワタシの付き添いというていで行けば…。」
実家に帰る事があったら一発でバレるけどね。まぁ、その時はその時で。
「でも、レベル測定でレベル67って出たらちょっと怪しまれるんじゃない?」
「その点も心配無用です。この姿の時はレベル半減です。少し強い人間程度ですよ!本来ならデメリットですが、今は都合がいいでしょう?」
「そうだね…じゃあ大丈夫かな。」
多少の心配はあったが、キセキにストレスをかけるよりはよっぽどマシだと判断した。
ワタシ達はそうして、町へと歩みを進めるのであった。
3/50話です。
家族の名前…考えるの面倒くさい…。必要になるまで、彼らには名無しでいてもらいます。
というか、兄様はともかく、両親を名前で呼ばせる機会が無いんです。どうしたら名前を自然に出せるか…今後の課題です。