第二話:魔王を宿す女
1話の長さは、大体1000~4000文字程度です。
この話の文字数:2130
「まおう…?」
「はい、貴女様は魔王…の生まれ変わり。」
…頭がくらくらしてきた。
何かが身体の奥底から湧いてくる。
ワタシ…いや、余の記憶だ。
「あぁ、思い出したよ。」
封じられていた記憶が蘇った。余は魔王。
「七色の「七」のキセキ。よくぞ余の元へ戻ってきてくれたな。」
「はい…思い出してくれたんですね。」
魔王であった余には7人の部下が居た。いや、部下と認めていなかっただけで付き従う者は多数居たが。
この少女には「キセキ」の名、そして「七」の称号を与えた。七色の中では末席だったが、忠誠心は誰よりも強い奴だった。
「最初は、本当にこのか弱い少女が魔王様なのか、疑いましたが…魔王様と同じ名前を付けようとしたので確信しました!この方は、間違いなく我が主であると。」
「余も今の今までそんなことは忘れていた。ただの一介の人間に過ぎなかった。いや、今も魔王の魂を持つだけでワタシはただの人間…。」
「ただの人間でも魔王様は魔王様です!」
「…あー、魔王様はやめてくれない?ワタシはただの人間なの。魔王の頃とは違って名前もある。ワタシの名はシエル。シエル・アルカン。」
「はい、シエル様とお呼びしますぅ!」
「えーと、泣かなくてもいいよ。」
「うぅ、我が主に再び会えた事が嬉しくて…。」
何故、キセキがこんなにも忠誠心が強いかというと、魔王だった頃もさっきみたいに彼女を拾った事があるからである。その後、ワタシ…いや、余は彼女に全てを与えた。名前も、居場所も、失った足も。
「その足、不調は無い?あれから10年経っているはずだけど。」
「はい!シエル様から頂いた魔力はとても身体に馴染んでおります!」
魔王時代に持っていた50のスキル、そのうちの一つ「魔力造形」。自分の魔力を物体に変えるスキルだ。これでキセキの足を造形して、補完した。術者が死んでも効果が切れていなくて良かった。
「それにしても、どうやってワタシを見つけたの?」
「そんなもの、愛の力に決まってます!」
「愛、重すぎる…。」
「ちなみに他の七色には教えてないです!」
「なんで?」
「魔王様を独り占めしたかったからですよ!現にこうして二人きりになれていて、最高です!」
……やはり愛が重い気がする。
「まぁでも、よく来てくれたねぇ。ここは多分、魔の領域から遠いでしょ?」
「はい、休み休みですが30日程はかかりました。もっと早くシエル様の存在に気付けていれば、もっと早く…10年も待たずに済んだんですけど。」
「いいよ、赤ん坊の頃に来られても何もできないどころか会話すら危ういから、丁度いいタイミングだったと思うよ。」
ワタシは5日後に丁度10歳となる。ようやく一人での外出が認められ、自由に活動が出来る。ワタシはその時を長らく待ち望んでいた。
そう、魔王の記憶を取り戻してもワタシはワタシ。ただの子供。精神が魔王の頃に戻ったわけではない。多少は感性が変わったかもしれないけど。だから…
「…ねぇ、キセキ」
「はい、なんでしょう!」
「ワタシは人間を滅ぼす気はもう無いけど、それでもワタシに着いてくるの?」
「…それは、どういう意味でしょうか?」
「ワタシはもう魔王じゃない。ただの人間。だから人間として生きる。魔王じゃないから、人間を攻撃したりもしない。それでもワタシでいいの?」
魔王として生まれ、魔王として生きた「魔王」は、人間を滅ぼす事を目標とし、人間を嫌っていた。だがそれは魔王だったからである。
「私は人間が嫌いです。」
「うん、そうだよね。」
「でも、それ以上に魔王様、シエル様が好きです。」
「…つまり?」
「シエル様が何をしようと、私は着いていきます。私は。」
「ありがとう。キセキはそう言ってくれると思ってた。でも、他の七色はそうもいかないよね。」
「そうですね。最初に来たのが私で良かったですね。「口」や「女」は明確に人間を敵視していましたから。」
「口」「女」は他の七色の称号だ。勿論、「七」のキセキは末席なのでそれより序列は上。
「ワタシは今、明確な目標が出来たよ。」
「何ですか?」
「七色を全員回収すること。あいつらは放っておいたら人間を滅ぼすかもしれないでしょ?勇者も死んだ今、あいつらに対抗出来る存在はそんなにいないだろうし。」
そう、魔王と勇者は相打ちしたのだ。その戦いは勇者の仲間によって世に広まり、今では人間なら誰もが知る伝説となっている。
しかし魔王は死んでいなかった。50のスキルの一つ「不滅ノ魂」により、こうして転生を果たしたのだ。
そのことは、魔王本人と、部下であった七色だけが知る。
「自分が勇者を殺した、その尻拭いをしないといけないのは不本意だけど。総合的に見て、新しい勇者が生まれるまでは魔王軍残党が人間よりも強力な戦力を持ってる。あいつらは、勇者がいない間に人間を滅ぼそうとするはず。そうなる前にワタシが止める。最悪、かつての部下を殺すことになっても。」
「…そこまでの覚悟がおありで。」
「記憶と一緒に、かつての力も少し戻ってきたからね。」
「私も微力ながら、お手伝いをさせて頂きます。」
「ありがとう。こんなワタシについてきてくれて。」
力が一部戻ってきたとはいえ、今のワタシでは七色には…末席のキセキにすら勝てないだろう。
まずは、力を蓄えるべきだ。
2/50話です。
キセキの称号「七」には色々意味があります。
「七」は字形が人型に近いですが、人に当てはめてみると片足が欠けています。キセキは片足が欠損しているので…。
あとは、第七席なのでそのまま「七」。
そして、「七」は単純に縁起のいい数字ですね。
主人公、シエルは魔王の記憶が戻った時の衝撃で精神が多少なり揺らいでいます。
一人称がブレたりしているのは許容してあげて下さい。