第十八話:メシア
1話の長さは、大体1000~4000文字程度です。
この話の文字数:1772
視点:モネ
私はすぐに行動に移った。
多分、地上に戻ったあの人間は、仲間を連れて戻って来るだろう。でも、あの「非人」の相手を出来る人間はそうそう居ないと思う。
死人が出ようが、私にとってはどうでもいいが、「非人」にとってはそうではない可能性がある。あの「非人」は何故か、奇しくも私と同じ、月属性魔法を使うのだ。そして、月属性魔法の中には、死体をアンデッドとして復活させるようなものも幾つか存在する。
はぁ…あの人間、帰らせなければ良かったかも?まぁそれはそれで、あの人間を捜索しに来る他の人間が居るかもしれないか。
まだ人間達は来ないだろうと考えた私は、現在の縄張りの外まで巣を拡張する事に決めた。42階層から下へ、下へ。
結果、奴の居る最下層、50階層まで巣を伸ばす事に成功した。
「ルナスライム」であるエミルスは、月属性の魔力を含んだ粘液を出せる。それを私の巣の裏側に置いておく事で、補給地点を作る。粘液を喰えば私は魔力を回復出来る。
「私の為に頑張らせちゃって…ごめんね。」
「結構大変だけど…まだまだいけるぜ!ボス戦は準備を整えてから挑まないとな!」
人間達が来るまで、あと二日くらいはありそうだが…。余裕は持っておきたい。そもそも、この暗いダンジョンの中では、時間感覚も微妙に狂っているから、あと二日というのも怪しい。
早めに、攻撃を仕掛けたい所だが…。
一方で、エリサも準備を進めてくれている。私の巣とは反対側のダンジョンの壁に沿って根を伸ばして、拠点を作っているのだ。最下層の中心に位置する、奴の縄張り。それを両側から挟み撃ちで攻撃することで、一気に攻め落とそうという算段だ。
…完璧な作戦だと思っていた。その時までは。
「何の音…?」
嫌な予感がして、私はエリサの居るダンジョンの反対側の端へ向かった。
「マサカ…魔物ゴトキガ儂ヲ倒セルトデモ思ッタノカ?」
音の発生源は、立ちのぼる炎だった。
「嘘…エリサ!?」
最下層は、気付けば炎に包まれていた。植物系であるエリサは火に弱い。すぐに救出しないと…
「待って!私は大丈夫です!燃えた部分は根ットワークから切り離したので!でも、最下層への繋がりは絶たれてしまいました…!」
二階層くらい上からエリサの声が聞こえてくる。良かった、彼女は無事なようだ。しかし、エリサはもうこの最下層まで戻ってこれないだろう。となると、私とエミルスで…。
「フハハ…イズレ貴様等ガ攻撃ヲ仕掛ケテ来ル事ハ分カッテ居タノダ…。貴様等ヲ返リ討チニシテ、コノ迷宮ノ覇権ヲ握ッテクレヨウ…。」
多分、今私達に向けて語っている、あの異形の者が「非人」であろう。元はもっと人間に近い、いや、最初は人間だった。何がどうしてあの異形の姿に…。
「助けを待っておくのも、一つの策だったかもしれないわね…。」
ビキビキと音を立てながらこちらに寄って来る「非人」。右手らしき場所には赤黒く染まった杖のようなものを持っている。
あれは…魔法を使う時に触媒にする為に持っているのか。魔力の籠った杖は、魔法を使う時に効果を増幅させる効果がある。それで、あれだけの炎を生み出したのだろう。
石が落ちてきた。あの炎を何とかしないと、ダンジョンが崩壊してしまうかもしれない。しかし、私にはあれだけの炎を止める手段が無い。
魔法を放とうとする「非人」。私は奴の顔めがけて糸を飛ばす。詠唱を止めてしまえば魔法は発動できないから、物理的に口を塞いで詠唱を封じようとしたのだ。しかし、私の糸は奴の大量に生えた腕の一本に防がれてしまった。
三つの目でこちらを見る「非人」。その異形の顔には薄ら笑いが浮かんでいる様に見えた。私は慄きながらも、奴の腕に引っ掛かった糸を手繰り寄せ、奴に急接近する。近距離から月属性の精神魔法を撃ち込めば、流石の「非人」であろうと、大きなダメージが入るはず…!
「えっ…!?」
「ルナブレイク!!」
「非人」の方が、先に魔法を準備していた分、一手早かった。そして、そうだ。奴も私と同じ月属性魔法の使い手なのだ。私はモロに攻撃魔法を喰らい、反動で吹き飛ぶ。大きなダメージを負った私だが…。
まだ…終わってはいない。この身体が動く限り。私がここでやられてしまえば、エミルスは、エリサは…。そんな事には絶対させない。
でも…勝機が見えない。あぁ、こんな時、魔王様は…?
視点:???
「魔血召喚。」
18/50話です。
この話には、一つギミックを仕込みました。縦読みです。モネ視点の各段落の1文字目を繋げて読むと…。
こんなネタを仕込む回も面白いかな~と思ったので入れてみました。
さて、ピンチにヒーローは駆けつけるのか。次回へ続く!