第十六話:Cランクへの挑戦
1話の長さは、大体1000~4000文字程度です。
この話の文字数:3025
…?
「あれ?ワタシ…寝てた?」
「シエル様~~っ!」
…デジャヴだ。
「シエル様、廊下で倒れていらっしゃって…」
「あー、そうだった。急に眠気が来てさ…。」
どうやら、栄養失調ではなく、寝不足で倒れてしまったようだ。でもそれはそれとしてお腹も空いている。
「ぐるる…」と腹の虫が鳴く。ちょっと恥ずかしい。
「シエル様…パニャのパン屋から買ってきたパンがありますわ。それを食べて回復してくださいまし。」
「え…あの食いしん坊のミロが人に食料を譲る…!?」
「こんな時くらいは譲りますわよ!わたくしを何だと思っていらっしゃるんです!」
そうして、パンを食べて復活したワタシは、意気揚々とギルドへ足を運ぶ。
「すいませーん。下水の清掃が完了しました。」
「もう終わったの?お疲れ様。調査員を派遣して、どんな感じになったか見させて貰うね。時間がかかるから、どこかで時間を潰しておいて。」
「あ、それなら。同時に二つの依頼を受けるのは無理でも、試験を受ける事は可能ですよね?」
「え、まさか、もうCランク昇格試験を受けるの?」
「受けます。」
「そ、そうか~。じゃあ、手続はしておくから、向こうのアリーナへ行って。センセイが待ってるから。」
「分かりました。ありがとうございます。」
「で、君達が試験を受けるって?」
「そうです。」
私達はギルドカードを提出する。
【シエル
会員ランク:D
レベル:33】
【キセキ
会員ランク:D
レベル:39】
「二人とも、推奨以上のレベルは持ってるな。まぁ、受かるだろうが…加減はしないぞ。」
「はいっ、センセイ!」
「それじゃ、あそこの円の中に立って。俺が召喚する魔物を倒すんだ。二人で協力してもいいぞ。人にはそれぞれ役割があるから、協力してナンボだ。」
「はいっ、センセイ!」
私とキセキはアリーナ中央の円の中に立つ。
「それじゃ、試験スタートだ。」
周囲の地面に多数の魔法陣が現れる。そこから出てきたのは、小型、中型の魔物が何匹かと、大型の熊の魔物が一匹。
「ワタシが前衛をやる。キセキは後ろから支援して。」
「承知しました!」
Cランク試験はレベル30前後推奨のはずだ。見た目上レベル39のキセキが居る限り、なんならワタシ抜きでも余裕、そう思っていたのだが。
あの熊の魔物、だいぶ手強そうに思える。取り巻きは大したことが無さそうだから先に片付けて、二対一にしてしまいたい。
「ホーリーブレード。」
ワタシは近接戦闘をするため、光魔法で剣を生成。更に、
「ライトバリアー。」
キセキを保護する用に防御魔法を展開。自分の分は…魔力切れも心配だし、いいか。ワタシ、実は割と頑丈だし。
さて、やるか。
飛び掛かってきた兎の魔物に剣で斬り付ける。
背後から狼の魔物。「ライトニングアロー」で仕留める。
上から梟の魔物が…
「レーザー!」
キセキがアシストしてくれた。
そして、熊を含めあと三匹。蛙と虎と熊。
蛙が舌を伸ばし、キセキを絡め捕ろうとするが、ワタシの「ライトバリアー」に防がれる。
虎の方はワタシに引っ掻き攻撃。一歩退いて回避。虎はすぐにターンしようとするが、隙だらけだ。
「スパーク!」
キセキの日魔法で広範囲攻撃。虎と蛙はダウン。だが熊は多少ダメージを受けた程度で、平気なようだ。
だが目くらましの効果はあったようだ。熊が視界を失っている間に、ワタシは熊の間合いの内側に入り込み、斬撃をお見舞いする。
…硬い!
そしてワタシの身体は横に吹き飛ぶ。位置を覚られた為、熊の反撃をモロに受けてしまったらしい。
痛っ…このダメージ、エクラの元上司のあいつより…強いかも。
「ローヒール!」
キセキが回復魔法をかけてくれる。全回復とはいかないが、だいぶ楽になった。
でも、さっきの攻撃ではあの熊にはほぼ通用しない事が分かったね。本気で行こう。
「ホーリーブレード・改。」
魔王のスキルの一つ「魔法改良」だ。どんな魔法でも、その上位版を作り出せる。
ワタシは再び、熊の隙を作るため、日魔法を放つ。
「スパーク・改。」
熊は両手で目をおさえる。多少のダメージにもなったようだ、さすが「改」。
そして隙だらけの熊の腹に光の剣で斬り付ける。
「グォォォッ!?」
熊は突然の出来事に混乱し、叫びを上げる。そこに追撃を入れる!
その一太刀は、熊の首を見事に斬り落とした。腹は硬かったけど、首回りは防御が手薄だったね。
ワタシ達の勝ちだ。
…ついでに、残滓も吸収しておく。これでワタシのレベルが33から37まで上がった。ギルドカードで即座に確認できるので便利だ。
「いや~、まさかあの熊を倒しちゃうとはな。合格だよ。」
「ありがとうございます、センセイ。これでワタシ達もCランクの仲間入り…」
「え?君達、もしかして、試験の事、よく知らないで来たのか?」
「え?」
「俺が召喚したのは、Cランクでも倒せる、討伐推奨レベル20くらいの魔物を何体かと、Cランク相当では厳しい、推奨レベル40くらいの魔物だ。Cランク級を全部倒せばCランク合格、それを越えてすべての魔物を倒したら、飛び級でBランク合格なんだよ。成長の速い冒険者の成長を阻害しない為の制度なんだけどさ。」
「え、じゃあワタシ達は…。」
「Cランクを飛ばしてBランクに合格だ。」
「えっ!やりましたねシエル様、目標達成じゃないですか!」
「…そうだね。」
…だからあの熊はあんなに強かったのか。スキルを開放しなければ確実に負けていただろう。
「行くんですか?「暗闇の洞窟」へ。」
「勿論。」
ワタシは既にワクワクしていた。モネは元々矮小な魔物だったのだが、ワタシが可愛がって色々与えていたら、突然「進化」したのだ。その後も進化を続け、ついには七色の一角として相応しい強さとなった。
魔物は「進化」するのだ。10年もあれば、モネも更に何度か進化を重ねているのではないだろうか。ワタシはもう、それをこの目で見るのが楽しみで仕方がなかった。
視点:モネ
「そこの人間さん?ここは私の縄張りなのだけれど。どうしてこんなダンジョンの奥深くまで来たのかしら。」
「うっ…俺は喰われるのか?」
「喰わないわよ、人間なんて美味しくないし。質問を質問で返さないで。貴方は何故こんな所まで来たの?」
「…最近、ダンジョンの上層で魔物が異常発生しているんだ。うちの上司は、下層部で何か異変が起きてるんじゃないかって疑ってる。それで俺が調査する事になったんだよ。答えはこれでいいか?」
「下層部での異変…はぁ。多分アイツだわ。厄介ね。」
「あいつ…とは?」
「このダンジョンの最下層には、人間が一人、棲み付いているのよ。最近は私の縄張りにまで手を出してきてたから、面倒くさいとは思ってたけど…。あっちこっちで問題を起こしてるのね。厄介なやつ。」
「…人間?どんな奴なんだ?」
「どんな奴…うーん、正確に言うなら「元・人間」かしら。彼は私達、会話が出来る魔物達からは「非人」と呼ばれているの。「人に非ず」で非人。なんでも、住処の近くの魔物を捕まえては実験を繰り返し、ついには自分の身体を改造し始めて…まぁ、一言で言うなら変人ね。」
「そんな奴がいるのか…。」
「さ、もういいでしょ?解放してあげるから、帰って。次、私の巣に引っ掛かったら、貴方を玩具にしてあげてもいいのよ。」
「は、はいぃ!」
その人間を解放した後…私はエミルスと共に巣を離れ、隣人に意見を求めに向かった。
「エリサちゃーん?居る~?」
「はぁーい!何か用ですか?」
「ちょっと相談なんだけど…。そろそろ「非人」を始末したいなと思って。」
16/50話です。
今回は若干長めです。というか、モネ視点パートが入ってるのに普段と同じくらいの長さだった14,15話が短すぎです。
今回は二人の新キャラの登場です。
「センセイ」は本名かつ愛称です。彼自身は結構お強い元冒険者らしい(仮)。
「エリサ」は…次回、紹介があった気がします。モネのお友達です。若干ネタバレですが、名前の由来は「〇エ〇リ〇サ」←〇にそれぞれ違う平仮名1文字ずつを入れて出来る生物の名称 です。この名付け方、結構便利なので多用していきたいです。
私事ですが、風邪をひきました。この時期(6月中旬)に…。なんでやねん…。