第十二話:恋の芽生え100パーセント
1話の長さは、大体1000~4000文字程度です。
この話の文字数:3350
視点:ミロ
「はぁ、なんでこんなことになったんだ…じゃなかった、なったのでしょう…。」
我…じゃなかった、わたくし、ミロは悪魔です。今はわけあって人間に近い姿をしています。
ちなみにこの手袋は手のひらの口を隠すためにしていますの。人間に見られたら驚かれてしまいますわ。
主であるシエル様からは「とりあえず冒険者になっておけば怪しまれないと思うよ」と言われております。冒険者っていうのは実力主義で、身分など関係なく実力で示すものらしいのです。だから、どこからともなく湧いてきた謎の人物でも大丈夫と。ただ、流石に身分証は発行して貰いましたけど。
【ミロ
会員ランク:D
レベル:38】
勿論、レベルは偽装してありますわ。レベル76なんてそのまま出したら、人間の中でも最高峰レベルになってしまいますから。
早速ギルドに登録して、最初の依頼を受けましたが、「街道の清掃」…冒険者ってこういうこともやるんです?なんでも屋的なものってことでしょうか。
現場に来てみましたが…おびただしい量の落ち葉が地面を覆いつくしていました。
これは確かに危険ですわね。これだけ量があると、足を滑らせて怪我をする可能性もありますし、もしかしたらこの落ち葉から魔物が湧いて出てくるかもしれない。その危険性を考えたら、劣悪な環境にも慣れていて、魔物の扱いにも長けているであろう冒険者に依頼を出すのも納得ですわね。
わたくしは抜かりなく、ギルドで箒と塵取りを借りてきていたましたが…この量を箒で…?
否。わたくしには魔法がありますわ。
「アクアウェーブ!」
地を這うように水魔法を設置。その流れで、街道に散らばっていた落ち葉を端に寄せる事に成功しました。
でもこの大量の落ち葉、どうしましょう…。
…夜中ですし、誰も見てないですよね?
我は左手の手袋を外した。そして魔王様から授かった特殊スキルを発動する。
「暴食」
大層な名前のスキルだが、今やってることはただの掃除機だ。このスキルならなんでも喰らってしまえる。
そして、吸い込み続ければ、吸い込んだ物を即座にエネルギーに変換出来るため、実質ノーコストで使用できる攻撃方法としても重宝した。今も落ち葉をエネルギーに変換して我は魔力を回復している。
え?なんで左手でやってるかって?それは、味覚がないからですわ。顔にある口は味覚があって、落ち葉なんて食べたくないですからね。あと、右手も食事の時に使うので、やはり有象無象は左手で吸収するに限りますわ。
そして、手袋を付け直して、一件落着です。
さて、片付きましたが…。本当にこれだけでいいのですか?
水魔法で流したので、地面に落ちていた細かいゴミも大体流せていますし…
…え、これで仕事終わりですか???
いや、いけないいけない。仕事の難易度が悪魔基準になってしまっていましたわ。人間の仕事はこのくらい簡単なものなのかもしれませんわ。
…とりあえず、シエル様の元に戻ってみましょうか。
…道に迷いましたわ。不覚。
街道はギルド本部の正面に位置するので、ギルド本部までは戻ってこれましたが…。シエル様の宿、どっち方向でしたっけ?
まぁ、ここで待っておけば、いずれ進展があるでしょう。シエル様がここに来るかもしれませんし、朝まで待てば誰かが道を教えてくれるかもしれません。
暫くはここで待ちましょう。わたくしは悪魔なので睡眠は必要ないですが、人間達は今は寝静まっているはずなので、静かに…。
というか、天使である「七」も睡眠は必要ないはずなのですが、何故彼女はシエル様と一緒に…?
思えば、今までの幾度とないわたくしの召喚の中で、わたくしを仲間として迎え入れてくれたのは魔王様だけでしたわね…。仲間…仲間。
この人間としての生活の中で、シエル様達以外の仲間を見つけられればいいのですが。
なーんて、深く考えていたらいつのまにか日が昇ってきそうですわ。
ギルド本部が営業開始するまでまだ暫くありますから、辺りを散策してみましょう。
まだ空は薄暗いですわね。道行く人の姿も見えません。
と思ったら、向こうから少女が歩いてきましたわね。シエル様より少し年上くらい、今のわたくしと同程度でしょうか。
…妙な胸騒ぎがする、というか、わたくしの「危機察知」スキルが働いていますわ。わたくしに、ではなく、あの少女に危機が降りかかるのかもしれません。シエル様からの命で、「人間を護ること」と言われているので、あの子の危機も見逃さない方がいいですわね。上手く行けば追加報酬も…?
わたくしは、その少女を追跡することにしました。
そして、事件は起きました。
少女が、あの街道のように大量の落ち葉が堆積した道に差し掛かった時…
「きゃっ!」
足を滑らせ、転倒する少女。いや違う、あれは何者かに転ばされた…。
次の瞬間、落ち葉が少女を包もうとする…!あれは「ユニオンリーフ」ですわ!落ち葉に魔力が籠って、魔物と化した怪物…落ち葉の中に身を潜め、通りかかった人や魔物を捕獲して食べてしまうのです!
「させませんわ!」
わたくしは一瞬で照準を合わせ、
「アクアブラスト!!」
的確に落ち葉の塊を狙って水魔法を撃ち込みました。もしあと数秒遅れていたら、あの塊は少女を吞み込んでしまい、攻撃したら少女ごと傷つけてしまう事になっていたでしょう。まぁ、その場合は「暴食」を発動してなんとか…という感じでしたわ。
どうやら、先の一撃でユニオンリーフは倒せたようですわね。元々あの魔物は奇襲と潜伏に特化していて、防御力はあまりないはずですわ。
それより、あの少女は無事でしょうか。
「お嬢さん、お怪我はないかしら?」
「あ、はい…!」
「人気のない時間帯は、こうやって危ない魔物が出現する場合がありますわ。今回はわたくしが見ていたからよかったですわね。次からは気を付けてくださいまし。」
「あの、お名前は…」
「わたくしですか?わたくしはミロと申しますわ。貴女は?」
「私はパニャといいます。あの…助けて下さって本当に、ありがとうございました…。何かお礼を…。」
「お礼…ですか。うーん…。そういえば、貴女、いい香りがしますわね。」
「私の家はベーカリーなんです。それで、今日はパンの材料が切れているのを忘れてしまっていて、買いに行く所だったんです。この時間に空いているお店はこっちの方にしかなくて…。」
「なるほど。じゃあ、買い出しも手伝いますので、パンを少し安く買わせて貰えれば大丈夫ですわ。生憎、わたくしは今少し金欠でして…。」
清掃依頼の報酬はまだ受け取っていないので、わたくしは今、シエル様から貰った最低限のお金しかもっていないのです。
「それだけでいいんですか?もっと何か…」
「いいんですわ。わたくしの一番の楽しみは、食べる事ですの。」
視点:シエル
おかしいな。
朝7時30分になってもミロが現れない。どうせ「ご飯を下さいまし!」とか言ってやってくると思っていたのに。
どこかで餌付けされてるのかな?戦闘も出来て、頭脳も明晰で、知識も豊富で、一見完璧に見えるけど、食べ物には滅法弱いのがミロの弱点だからなぁ。
と思っていたら、ワタシ達が出掛ける数分前、8時20分になってミロはやってきた。
「シエル様、只今戻りましたわ!」
「うん、で、そちらのお嬢さんは?」
「わけあって仲良くなった、ベーカリーのパニャ様ですわ。」
「なるほど、パンで手懐けられたと…。」
「シエル様、わたくしの事を何だと思っていらっしゃるのですか!?わたくしはしっかりパンを購入しているんですわ。ですわよね、パニャ様?」
「あ、はい!私が魔物に襲われていた所を助けて貰って…。だから割引価格で売らせていただいています。」
「パニャ様が、わたくしの仲間である皆さんのことを一目見たいと言うので、連れて来たのです。」
「おー。ワタシはシエル。よろしくね。」
「エクラです!こんにちは!」
「私はキセキです。よろしくお願いします。」
視点:キセキ
あの二人…。
パニャちゃんは、明らかにミロに対して好意を抱いていますね。
ミロはまだよく理解していないでしょうが、人間は窮地を救ってくれた者に対しては、運命的な繋がりを感じるものです。それはどこかの段階で恋に昇華して…。
どうなるか見ものですね。
と、ニヤニヤしていたらシエル様に怪訝な目で見られてしまいました。フフフ。
12/50話です。
1か月くらい別の物語を書いていて、こちらは完全にほったらかしにしていたので、自分もストーリーを復習しないといけなくなってしまいました。50話まで到達するのはいつになるのやら。
ちなみに、パニャちゃんの名前の由来は、panya(パン屋)をそのまま読んでパニャです。我ながら安直。
ちなみに本文には書いてないですが、ミロが戻ってこられたのはギルド本部で道を教えてもらったからです。ギリギリまで姿を見せなかったのは、食べる事に夢中になっていたからではなく、道が分からなくて帰れなかったからです。