第十一話:増える食費
1話の長さは、大体1000~4000文字程度です。
この話の文字数:2296
その後は色々と大変だった。
事の顛末は白と黒の二人がギルドに伝えてくれた。男の仲間だった二人は、無理やり従わされていたという判断になり、無罪放免になったようだ。
そして、ワタシ達はヴァイスさんに食事に誘われ、質問攻めを受けた。月属性魔法について、キセキの正体について、隠し持っている力について…。
全て答えたわけではないが、気づいたらワタシ達がシュヴァルツさんに月属性魔法を教える流れになっていた。まぁ、この二人なら悪用はしないと思うから多分大丈夫…。
そんなわけで、私達は夜中1時くらいに宿に帰ってきた。眠い…。けどまだやることがあるのだ。
「シエル様、この魔塊、何に使うのですか?」
私はキセキに頼んで、あの悪魔の魔塊を持ってきてもらったのだ。
人間にはあまり知られていないが、魔塊には観賞用以外にも2つの使い道がある。
一つ目は「悪魔を殺す」こと。魔塊を破壊すると、その魔塊を落とした悪魔は死ぬ。ただし、魔塊を完全に破壊するにはかなりのパワーが必要だ。魔王でもギリギリと言ったところかな。
二つ目は「悪魔を再召喚する」こと。魔塊を持ったまま悪魔召喚の儀式を行うと、その魔塊を落とした悪魔を再び召喚出来る。しかも贄は通常より少なくて済む。
ワタシがやろうとしているのは勿論二つ目。
「あの悪魔を再召喚しようと思って。」
「えっ!?何故そんな事を?」
「まぁ、やってみたら分かるよ。」
エクラは疲れからか、既に寝てしまっている。まぁ、悪魔召喚に気付かれないならそれはそれでいいかな。
不思議そうな表情をするキセキを横目に、ワタシは早速召喚の儀を行う。
「悪魔、召喚。贄は…そうだなぁ、後でいっぱいご飯を奢ってあげるよ。さぁ、拒否権は無いからさっさと出てきて~。」
「我を…後払いで呼び出すだと…!?貴様…!」
「ごめんごめん、今、真夜中でさ。君が喜びそうな美味しいモノがすぐに用意できないんだよね。」
「な…我の趣向を何故知っているのだ、人間が!?」
「…なんでだと思う?まずは自分の姿を見てみたらどうかな?」
悪魔は自分の身体を見回す。そして気づいたようだ。
ワタシより二、三歳くらい年上の女の子の姿。悪魔らしく両掌には小さな口。
「…!この悪趣味な姿、我にこんな姿を取らせるのは、一人しか居ない…っ!貴様、いや貴方はまさか…。」
「悪趣味って、失礼な。可愛いでしょう?それに、アイデンティティの三つの口もちゃんとあるんだからさ、ねぇ、七色第六席、「口」のミロちゃん?」
「あああああ!だから…だからあの時お前が居たのか、「七」のキセキ!!」
「貴方、「口」のミロだったのですか…!くっ、気付きませんでした、気付いていたらもっと高火力の魔法で消し炭にしていたのですが…。」
「どういう意味だよ!?」
「いやー、ワタシは気付いていたんだけどね。たまたまミロちゃんの魔塊が手に入ったもんだから、召喚しちゃったよ。ほんとよかった、誰かに壊されたりしなくて。」
「ああ…我とした事があんな下賤な召喚者に呼び出されてしまうとはな…。贄も不味かったし、あんな気持ち悪い姿にはもうなりたくないし。唯一褒められる点は頑丈だったことくらいだ。」
「さて、もう分かってるよね?ワタシが魔王の転生体だってこと。」
「信じがたいが…魔王様がこのような子供になってしまったとは。」
「ワタシの中に魔王の力と記憶が宿っているって感じなんだよね。ワタシ自体は魔王でもなんでもない、ただ冒険者に憧れる人間。だから、かつての上司としてではなく、人間としてミロちゃんに契約をするよ。」
「くっ、召喚された以上、我に拒否権は無い…。何を契約するのだ…?」
「まず一つ。人間に危害を加えない事。魔王ではなくワタシ「シエル・アルカン」としての命令。
二つ目に、人間を護る事。ミロちゃんの実力なら、大抵の脅威は問題ないでしょ?こっちは成功報酬として追加の贄も用意するよ。
そして、この二つを守ってくれれば、後は何をしてもいいよ。何でこんなことを言うかって、ミロちゃんにも人間の良さを知ってもらいたくて。ずっと人間を敵だと思ってたでしょ、ミロちゃんは。でも、共生の道もあると、ワタシは思うんだ。だから、姿も人間に近い方がいいよね。
それで、期限はワタシが死ぬまで。その間は定期的に贄をあげるから安心して。」
「くっ…目前に人間が居るのに、殺戮出来ないのは鬱陶しいが…。魔王様らしい好条件だな。まぁ、どのみち我は逆らえないのだ。」
「だからって酷使する事はしないよ、ワタシは。でもね…もうちょっと条件を付けようかなぁ?」
「…何を…?」
「なーに、大したことじゃないよ。まず、「魔王様」はやめて。ワタシはただの人間なの。魔王の頃とは違って名前もある。ワタシの名はシエル。シエル・アルカン。だからシエルと呼んで。」
「はぁ…。シエル様のお望みとあれば。」
「あと!その口調もなんとかしてもらうよ!ミロちゃんはこれから人間の女の子として生活するんだから、「我」とか古臭い一人称もやめて。もっとお嬢様っぽく「わたくし」とか…。ほら、もっと可愛く、「わたくしはミロといいますの。よろしくお願い致しますわ。」とか、言ってみてよ…?」
「くそっ…シエル様は歪んだ趣味を持っていらっしゃいます…わね…!」
そうして次の日。
どこからともなく現れた、牛飲馬食を極めるお嬢様。その存在は、町の噂にまでなっていた。
「わたくしはミロ、15歳ですの。好きな事は食べる事。嫌いなものは食事を邪魔するもの。今日から、古い知り合いのシエル様の誘いで、冒険者になろうと思いますわ。まだ人間社会のことがよく分からないのですが、色々と教えて下さると有難いですわ。」
11/50話です。
というわけで、七色の二人目、参戦です。
この子の過去編はやるかはまだ未定です。
11話でやっと二人目を回収していて、この調子で、50話までで七人回収してエンディングまで行けるか不安です。やりたい事が多い!!