第一話:真名
1話の長さは、大体1000~4000文字程度です。
この話の文字数:1555
その日、ワタシは小鳥を拾った。
ワタシが歩く先でうずくまっていた小さな黄色い鳥。
その薄汚れつつも美しい毛並みは、ワタシの目にはとても魅力的に映った。
日課の散歩の途中だったが、その子を抱きかかえ、来た道を戻る。散歩と言っても広い庭を一人で歩くだけの退屈な時間だったから、変化が起こった事が嬉しかった。
そんなことより、ふわふわで気持ちいい。早くこの子をお風呂に…
「あっ」
兄様だ。抱いている小鳥を見られた。
「なんだ、それ?」
兄様は比較的優しい人だけど、動物が苦手なのをワタシは知っている。
「これは…。」
「それは…?」
ワタシは意を決して、兄様に事情を話す。
「あの、お散歩してたら、小鳥を拾ったの!」
「小鳥…。」
あちゃ、やっぱりダメだった?
「いいんじゃないか?放っておくのも可哀想だしな。」
「いいの?」
兄様はそれ以上特に何も言う事無く去って行ってしまった。
あの動物嫌いの兄様が?
違和感を覚えつつも、ワタシは浴場へと足を進める。
浴場に辿り着くと、じいやが床の掃除をしていた。
「おや、お嬢様、こんな時間からご入浴ですか?」
「ううん?ワタシじゃなくて、この子を洗いたいの!」
台所で洗うわけにも行かないし、温かいお湯を使える所と言ったら浴場だ。
「黄色い小鳥…ですか。この辺りでは見ない種のような気がしますね。少し弱っている様ですし、熱めのお湯で温めてあげるといいかもしれません。」
「分かった!ありがとう。」
お湯の蛇口を捻り、桶に水を溜める。そこに小鳥を突っ込む。
小鳥はとても大人しい。急に熱いお湯に入れられたら暴れたりしそうなものだけど?
ワタシは小鳥が動かないのをいいことに、揉み洗いをする。
数分後、小鳥は綺麗な金色のボディを取り戻した。
洗っていたワタシも、まさかここまで美しくなるとは思っていなかった。
「おぉ~っ!」
思わず感嘆の声が漏れた。
でも、さっき洗っているときに気づいたんだ。この子、右足が欠けてる。丸ごと全部。
父様と母様に、この子を飼ってもいいか聞こうと思ってたけど、父様はダメって言いそう。完全主義の父様はこれじゃ許してくれなさそう。
でも、黙っているよりはいいよね。
意を決して、父様の書斎へ突入!
「父様!」
「んー?何だい?」
「小鳥を拾ったの。でも、この子、足が片方無くって…。」
「ほう…。ちょっと見せてみな。」
父様に小鳥を手渡す。握り潰したり…しないよね?父様はそんな酷いことはしない人だと思ってる。
父様はまじまじと小鳥を観察している。
「この子をどうするって言うんだい?」
「えっと…飼えないかなって。」
父様は表情を変えずにこちらに目を向ける。怒ってる?
「お世話はワタシがするから…その…」
ワタシの声は段々と小さくなって行ってしまった。これでダメって言われたらどうしよう…?
「いいんじゃないか。」
「…本当?」
「たまには、色々経験してみるのもいいことさ。でもな、不完全なものを完全なものと同じように扱ってはいけないよ。この子は不完全だ。すぐに壊れてしまうかもしれない。」
「うん。大事にするから…。」
「よろしい。でも私は手伝わないからね。覚悟があるなら、自分で育てるように。」
「分かった!」
意外にも、とんとん拍子で許可を貰えてしまった。母様には父様から話をつけてくれるらしい。
ワタシは台所で麦を貰ってから自分の部屋に戻って、小鳥にご飯をあげる。
「美味しい?」
返事は無いが、小鳥は夢中で麦をついばんでいる。
可愛いなぁ…。
そうだ、名前をつけてあげよう。
黄色で…隻脚。まぁ、略したらこうかな?
「キセキ。」
小鳥はこちらを振り向く。
「アナタの名前、キセキ、でどう?」
すると…
小鳥の身体から眩い黄色の光が放たれる。
「えっ、えっ?」
そして…。
目を開けると、目の前には翼の生えた女の子が…?
「魔王様…!」
その子はワタシに向けて、そう言った。
突然、自分の文章を他人に見て欲しいという衝動が起こって、作品を投稿してみました。
2000字前後×50話で終わらせる予定です。
なかなか書く時間が取れないので、ゆっくりの更新になると思います。