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SF作家のアキバ事件簿208 奪われた音波銃

作者: ヘンリィ

ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!

異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!


秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。

ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。


ヲトナのジュブナイル第208話「奪われた音波銃」。さて、今回は工事現場からコンクリート漬けのメイドの死体が発見されます。


検視の結果、メイドは音波銃で射殺された事がわかりますが、その際に使われた音波銃は、連続殺人鬼がヲタッキーズから奪った銃だと判明して…


お楽しみいただければ幸いです。

第1章 音波銃を追え

アキバに登る太陽はオレンジ色をしている。秋葉原ヒルズを染めるオレンジ色の朝焼け。そんな朝は、舌にザラリとした感触が残る。今日も…嫌な朝だ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


早朝の工事現場にコンクリートミキサーの到着だ。現場に掘られた穴にコンクリートが流し込まれる。作業員が黙々と混ぜる。波打つコンクリート。


「おや?」


引っ掻き棒に何か絡む。カチューシャ?さらに、女の手、そして…コンクリート漬けのメイドの死体w


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


工事現場が殺人現場に早変わりだ。路地裏にパトカーがサイレンを鳴らして2台、3台と集まって来る。


「スキムミルクの無糖ラテ、バニラシロップ入り」

「心を読まれたみたい。ありがとう」

「手術の痕が痛むの?」


差し出したコーヒーを受け取りながら、微かに顔を歪めたラギィ。彼女は万世橋警察署の敏腕警部だ。


「ええ。低気圧が近づくと引き攣る感じがスル」

「…狙撃された瞬間の記憶は未だ?」

「何も思い出せないわ…あら。今年の秋の流行はセメントのコート?」


ストレッチャーの上に、コンクリートを塗りたくったような(恐らくメイド服のw)遺体が横たわる。


「どうやら、射殺されたってコトはわかった。9ミリHzの弾痕を2発分見つけた。後頭部を撃った後、もう1発撃ってトドメを刺してる。恐らく、予め穴は掘ってあって、後からコンクリートで埋め殺しをしようとした。コレはプロの殺し屋の手口ね」

「仕上げのセメントは、早朝にミキサー車が来るコトを知っていたコトの証だ。多分ストリート系のマフィアだね。その財布は?」

御屋敷(メイドカフェ)のパスが入ってた。ジェン・ハフル」


写真付きのパスをマリレが示す。金髪美人。因みにマリレもメイド服。何しろココは秋葉原だからね。


「なぜメイドがこんな事件に?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


メイド殺人事件だ。万世橋(アキバポリス)に捜査本部が立ち上がる。ヲタッキーズのマリレが駆け込む。


「音波痕の分析結果は、急がせたから今日中に出るわ。遺族に連絡は?」

「母親が来るって。ジェンは一人っ子だったそうょ。ルームメイトも見つけた。実家に帰ってるけど明日には秋葉原に出て来るわ」

「なぜこんな事件に巻き込まれたのかしら」


頭をヒネるヲタッキーズのエアリ&マリレ。因みに2人ともメイド服だ。だって、ココは…(以下略)


「ジェンは事件当日、家庭教師のバイトの予定があったけど、妙なのは朝になって全部キャンセルしてる。真面目なセンセだったから、全部ドタキャンなんて初めてで、みんな驚いてる」

「キャンセルの理由は何?」

「大事な用が入ったとか何とか。恐らく何らかのトラブルに巻き込まれたのカモ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の検視局は地下にアル。コンクリート漬けのメイドの遺体が運び込まれる。


「死亡推定時刻は昨夜の22時から24時。ソレから右腕に、恐らく犯人に掴まれた時に出来た痣がアル。あと彼女のメイド服から"覚醒剤"が検出されたけど、彼女自身の薬物検査はシロで、ドラッグもお酒も出なかったわ」

「殺害現場に行く途中で犯人のモノが付着したのカモしれない」

「ソレと…どうやら、彼女は死ぬとわかってたみたい。殺された時にコレをギュッと握ってた」


あ、コレは超天才ルイナの"リモート鑑識"だ。車椅子の彼女は自分のラボにいる。証拠品袋が回って来る。


「十字架?」

「殺す前に被害者に最後に祈らせるなんて、プロの殺し屋ぽくナイわね」

「顔見知りによる犯行カモ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


先ず母親が駆けつける。娘と同じ金髪に染めてる。


「昨日の夜、電話がなかったから絶対におかしいと思ってたの。毎晩欠かさズに電話して来てたのに」

「娘さんが昨日のバイトを休んだ理由に何か心当たりはありませんか?」

「家庭教師以外のコトはしてなかった?バイト関係でトラブルに巻き込まれたとか」


激昂スル母親。瞬間湯沸かし器w


「何が言いたいの?!」

「娘さんのメイド服に"覚醒剤"が付着していたんです。体内からは検出されなかったんですけど」

「娘は"覚醒剤"なんて使わないわ」


アキバに開いた"リアルの裂け目"の影響で腐女子がスーパーヒロインに覚醒する例が後を絶たない。

アキバの地下で売られる"覚醒剤"は覚醒を焦る腐女子に売りつけられる麻薬で廃人化の恐れがアル。


「しかし、そーゆー仲間がいた可能性はあります。犯人はおそらく顔見知りです」

「ソンな…娘は、5ヶ月前に別れたけど"ストリートの人"と付き合っていました」

「"ストリートの人"?」

「不良です。私と目を合わせないし、喧嘩して娘のカラダに痣をつけたコトもありました」

「彼の名前は?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ホワイトボードに"不良"の写真を貼るマリレ。


「フィン・バマク。通称フィン。"覚醒剤"の所持で服役してるわ」

「OK。"覚醒剤"が付着していたのは、ソレで説明がつくわね…不法侵入に暴力行為?音波銃に関する前歴はなさそう」

「でも、犯行が凶悪化(エスカレート)してる。今、何処にいるのかしら」


マリレが、ファイルを覗き込みながら答える。


「ソレを聞いたらビックリょ。奴の保護観察官に聞いたら、東秋葉原の西98丁目645番地で働いている。建設現場ょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の取調室。事情聴取されるフィン・バマク。


「信じられないよ。ジェンが死んだなんて」

「最後に会ったのはいつ?」

「何週間か前さ」


見た目は太々(フテブテ)しいが根は良さそうなフィン。母性本能くすぐり型。


「じゃ4月に別れた後も会っていたの?」

「だって、俺は彼女のTO(トップヲタク)だったからな。色々相談にのったり…金も貸したりしてたから、返してもらったりもしてた」

「ジェンがお前に借金を?ねぇねぇ貴方が彼女を悪い世界に誘ったりはしなかった?」


即座に首を振るフィン。


「彼女が違法なコトに手を出すハズがナイ。犯罪に手を染めたりはしないメイドだった」


その時…


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


取調室の隣室。マジックミラー越しに取調べの様子を見ていたラギィのスマホが鳴動。


「…ウソでしょ?ソレは確か?間違いって可能性はナイの?」


傍らの僕は、いぶかしげな目でラギィを見る。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


取調室。


「…俺はこんな男だ。いきなりは変われない」


供述の途中でマジックミラーがドンドン叩かれる。取調室の外に出て来るヲタッキーズのメイド2人。


「あの野郎、も少しでゲロるわ」

「ラギィ、どうしたの?」

「遺体に刻まれた音波痕の分析が終わった。ジェンを撃った音波銃が判明したわ。凶器は、桜田門(けいしちょう)のデータベースに登録されてる"グロク17"だった」


顔を見合わせるヲタッキーズ。


「良かったわ。朗報ね?」

「マリレ。貴女が前に使っていた音波銃だった」

「…冗談でしょ?」


すがるようなマリレの視線。真っ直ぐ見据えるラギィ。


「間違いナイわ。ジェン・ハフル殺害の凶器は、貴女が"X2K"に奪われた音波銃ょ」


絶句するマリレ。


第2章 疑惑のパイレストラン


メイド系スーパーヒロイン専門の連続殺人鬼(シリアルキラー)"X2K"。万世橋(アキバポリス)のプロファイリングでは、X染色体が2つアル未覚醒の腐女子とされる。


推定年齢は25〜45才。


「なぜ?何でなの?」


東秋葉原の交通の交差点の喧騒の中でマリレは、唇を噛み自問スル。落ち着きなくウロウロと歩く。


「殺された時、彼女は十字架を握ってた。きっと救いを求めていたの。でも、犯人は無情にも引き金を引いた…私の音波銃の引き金を」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


SATO司令部の司令官室。マリレ、と逝うかヲタッキーズが呼び出されて司令官自らが"事情聴取"。


「去年、連続殺人犯(シリアルキラー)X2K(ダブルXK)"の捜査で容疑者の自白を取りにテリィたんとホテルへ向かいました」

「え。テリィたんとホテルへ?」

「あのさ、都合の良い(悪い?)ワードだけ抜き出すなょ。その時、マカス・リンデがホテルにいたんだ。別の容疑者が自分がX2Kだと自白したので、そのコトを話しにホテルへ逝った」


コンパクトに弁解スル僕w


「でも、実はそのマカス・リンデとやらがX2Kだったワケね?」

「はい、司令官。ソコで不覚をとった私は音波銃とバッチを奪われました。全て私の責任です」

「今は、過去事象の責任所在より、事態の収拾を優先します。先ず、マカス・リンデを見つけて。一刻も早く逮捕して身柄を拘束しなさい」

「ROG」


司令官室を追い出される僕達。マリレは…下を向いて唇を噛んでいる。


「大丈夫か?」

「マカス・リンデを捕まえたらね」

「捕まえるさ」


相棒のエアリがささやく。


「殺されたメイドの元TO、フィン・バマクは、犯行時刻には東秋葉原のパイレストラン"アンナミラージュ"で目撃されてるわ」

「やれやれ。有力容疑者だったのにな」

「ラギィは、今頃釈放してるわ」


溜め息をつくマリレ。


「マリレ。今回の犯人がX2Kなら動機の説明がつくぞ。殺されたジェンは、彼のタイプだ。若くて金髪の美人メイド」

「でも、テリィたん。X2Kの手口は常に絞殺ょ?なぜ今回は音波銃を使ったの?」

「アイツは地下に潜る前に、自分を全部作り変えると逝ってた」


エアリの問いに答えたが、マリレはまた溜め息。


「全部私が失神してる間の会話ね」

「(え。失禁?)マリレ。君は何も責任を感じる必要は無いンだ」

「アレは、秋葉原特別区(D.A.)が私に支給した音波銃ょ。ソレを私が喪くし、メイドがその音波銃で殺されたんだ。責任を感じる必要がナイ訳ナイ。ジェンのアパートで聞き込みしてみる。もしかしたら、マカス・リンデを見た人がいるカモ。ジェンのルームメイトにも連絡しなきゃ」


司令部を飛び出して逝くマリレ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同時刻。万世橋(アキバポリス)に立ち上がった捜査本部。


「ラギィ警部。制服組の聞き込みによると、昨日、ジェンはズッと地底超特急のグランド末広町ステーションにいた模様です」

「銀行の"捜査協力"により、被害者がグランドセントラル周辺の3つのATMから現金を引き出してたコトがわかりました」

「え。合計したら全部で100万円じゃナイの。メイドさんは、貯金をおろすために家庭教師のバイトをキャンセルしたのかしら?何か裏がありそうね」


しばし考え込むラギィ。


「グランド末広町ステーションで、マカス・リンデ、通称"X2K"の目撃者を探して。奴は、ストーカー気質で人を尾行する癖がアルわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


御屋敷(メイドバー)のバックヤードをスチームパンク風に改装したら居心地良くて常連が沈殿。経営を圧迫中だが…


「ミユリさん。この1年間、いつマカス・リンデと再会スル日が来るかと恐れていた。常に頭の片隅で奴のコトを考え、奴の思考を読み解こうとしてた…でも、何の手がかりもなかったのさ」

「テリィ様。ソレは、私達ヲタッキーズのビジネスではありません。ヲタッキーズは、SATO傘下の民間軍事会社(PMC)です。警察ではありません」

「ラギィの相棒になれたらと思わないでもナイが、今日みたいな日は所詮は偽物だと気づかされるな」


カウンターの中でミユリさんは微笑む。彼女は僕の推しで"潜り酒場(スピークイージー)"のメイド長だ。平時は。


「仮にテリィ様が偽物でも、ヲタッキーズは、今まで何度もアキバを救ってきました。そのヲタッキーズのCEOは、テリィ様です」

「そーだっけ?」←

「そして、マリレは私達の部下でアル以前に、先ずヲタ友でしょ?ヲタ友として彼女を支えてあげなきゃ。ソレだけで大きな力になれます。私の言うコト、信じていただけますか?」


僕のカクテルグラスに勝手に乾杯スル。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


翌朝。秋葉原ヒルズの高層タワーの谷間をオレンジ色の太陽が昇って逝く。


「ごめんなさい。知りません。同居して未だ半年なの。でも…彼氏カモ」

「ジェンの彼氏?」

「YES。ジェンは秘密にしたがってたけど」


捜査本部の会議室。金髪美人メイドは、ルームメイトまで金髪美人だ。事情聴取するマリレ。


「なんで秘密にしたがってたのかな?」

「彼氏の方に問題があるって言ってました。余り堂々とは付き合えないとも…最初は既婚者かと思ったの。でも、6週間位前から彼女の様子が変わった」

「と言うと?」


身を乗り出すマリレ。


「深夜に何度も電話が来るようになって、彼女はスゴく動揺してました」

「電話があった日時、覚えてる?」

「木曜日にありました。23時頃だと思うわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


SATO専属?ハッカーのスピアがPCを示す。


「キャリアをハッキングした。木曜の夜の電話は、東秋葉原にあるパイレストランの公衆電話からだったわ」

「公衆電話?昭和がウリのパイレストランなの?」

「今は、本業の肉まん屋さんで儲けてる。被害者は6週間前から週2のペースでかけてるわ」


ニヤリと笑うマリレ。


「ソイツだわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


東秋葉原のパイレストラン"アンナミラージュ"。


「彼女なら何回か見たわ…そうそう。確かセィスの連れだった」

「セィス?この男?」

「いいえ。違うわ」


店のメイド長にマカス・リンデの写真を示すが言下に否定される。ソンなに違うのかw


「ねぇよーく見て答えて。大事なコトなの」

「常連の顔ぐらい覚えてるわ…待ってれば?奴なら毎日来るから」

「毎日?何をしに?」


メイド長は、フランス人みたいに肩をスボめる。


「ヤタラ公衆電話をたくさん使ってお友達と会ってたわ。普通はスマホなのにね…仲間だと言っては、胡散臭い連中と会ってた。で、その時にね…」

「(お約束の合いの手w)どーしたの?」

「セィスのジャケットが風でめくれ、ベルトに音波銃を差してるのが見えたわ」


声を潜めるルームメイト。ヲタッキーズは、それぞれメイド長に声をかける。


「"覚醒剤"の売人ポイわね」

「セィスが来るのは、いつもいつ頃?」

「15時頃ね…ね。私は仕事に戻ってOK?貴女達は店にいても良いから」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ヲタッキーズのメイド達はスーパーヒロインなので空を飛べるが、張込み捜査には車が最適だ。長時間路駐した車内で息を潜めても誰も怪しまない。


「マリレ様子はどうだ?」

「テリィたん。私は恐竜が絶滅した彗星激突を経験した妖精ょ。でも、今でも低空飛行の爆音にもビビる時がアルわ。でも、マリレは違う。あの子は、いつだって立ち向かうわ」

「だょな」


うなずく。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


僕達が張ってるパイレストラン"アンナミラージュ"の中にはラギィとマリレがいる。仲良くソファ席。


「なぜ"覚醒剤"の売人の手に私の音波銃が渡ったのかしら」

「マカス・リンデが売ったか、捨てたのをセィスが拾ったのかもしれないわね」

「ラギィ、違うわ。ソレは"X2K"らしくナイわ。彼は常に計画的なの。セィスは、彼の捨てゴマかもしれない」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


常連が入って来る。


「よぉセィス。元気か?」

「ボチボチだ」

「来たわ」


メイド長がラギィに目配せ。中肉中背の男だ。


「本人確認スル…万世橋警察署(アキバP.D.)ょ」


セィスの前に立ち、バッジを示すラギィ。瞬間、息を飲んだセィスは、途端に回れ右して走り出す。


「逃げたわ!裏口ょ」


無線に叫ぶラギィ。車をスタートさせるエアリ。裏通りを全力疾走するセィスの目の前にFPCが飛び出す。


「ヲタッキーズ。止まれ!」


ドライバーズシートから音波銃を突き出すエアリ。ラギィ達が追いつく。男を路面に組み伏せる。


「おとなしくして。バッグを見せて…あら?軍用音波銃の"グロック17"だわ。最近の売人は、ヤタラ重武装ね」

「車に手をついて。許可証あんの?」

「おい…」


男は声を落とす。


「私は、関東信越厚生局、麻薬取締部のセィス・ガバァだ。潜入捜査を台無しにする前に、俺をサッサと連行しろ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部の会議室。麻薬取締官(まとり)が吠えてる。


「メイドさん、当ててやろうか?ジェンのママや女友達は、まるで彼女は天使のような子だったと言っただろう?」

「あら。違うの?」

「信号無視で車を停めたら、車内に"覚醒剤"があったのさ。コッチこそ良い迷惑だ」

「ウソね。彼女はドラッグはヤラないわ」

「だが、車に隠していたコトは事実だ」


ははぁ。そーゆーコトか。


「でも、その後で立件された記録が無いナイけど」

「見送った。"覚醒剤"をベン・パーにもらったと聞いてね。コレは使えると思ったワケさ」

「ベン・パー?」

「おいおい。知らないのか?クフ・パーの息子だ。クフ・パーはハン・イ・トンのボスで、拠点は東秋葉原のチャイナタウンにあるレストランだ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


取調室をマジックミラー越しに見る隣室。僕は傍らのラギィに尋ねる。


「ハン・イ・トン?」

「トンは、中華社会の商売を仕切る組織のコト。モチロン、マフィアの隠れ蓑になってる」

「クフ・パーって言うのは、ソコのボス?そのボスを逮捕スルのに女子大生メイドを潜入させたの?」


色めき立つメイド達。取り合わない麻取(まとり)


「大陸系の中華人は、子供の教育となるとヤタラと熱心だ。クフは末っ子のベンをアキバ工科大学を卒業させるため手を尽くした」

「ジェンはベンの家庭教師だったわょね」

「YES。週2回だ。そこで、俺は"覚醒剤"所持を見逃す代わりにクフの組織の情報を寄越せと言う取引を提案した。彼女はソレで罪が消えるならと喜んでいたさ。結局バレて殺されちまったがな」


平然とうそぶくセィス・ガバァ。


「ソレだけ?」

「コレ以上何を言えと言うんだ?」

「真実ょ。何年も追ってた連中に潜入させる情報提供者がタマタマ現れた?あのね。私達は、いくつもシンジケートを潰してきた。ヲタッキーズをナメないで」


逆に物知り顔になるセィス。


「メイドさん。まさか、俺に言いがかりをつける気じゃないよな」

「アンタは、ジェンをマークして車に"覚醒剤"を仕込み、協力を強要した。チャイナタウンの危険な組織にメイドを1人で送り込んで死なせた」

「俺のせいじゃナイさ。おい、そーゆーアンタこそ何だ?聞いたぞ。使われたのはメイドさんの音波銃らしいな。音波銃を失くすナンて、ソレでもヲタッキーズか?」

「何ですって?!も1度言えょこの野郎!」


立ち上がり麻取の胸ぐらを掴むマリレ。隣室からラギィが飛び出して来て割って入る。


「ヤメなさい!私達は仲間ょ。OK?」

「だっけ?済んだならもう行くぜ」

「ええ。時間を取らせたわね」


ヘラヘラ笑うセィス・ガバァ。


「何、気にスルな」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「どーゆーつもり!警察と麻取の関係が微妙なのは知ってるでしょ?そもそもヲタクの司令官はどーなの?マリレ、大目玉を喰らうわょ。頭を冷やして」


飛び出して逝くマリレ。外で待ち構えてたエアリが力づくでギャレーに推し込む。

とりあえずパーコレーターの熱いコーヒーに砂糖をタップリ入れマリレに勧める。


カウンターに腰掛けクスクス笑うエアリ。


「嫌な奴だったね」

「エアリごめん。未だミユリ姉様に拾われる前、私は何もわかってない小娘だった。"覚醒剤"シンジケートを一斉摘発した時、聴取を取るんで、チンピラどもが順番を待ってて、もう動物園みたいだったわ。そしたら、麻薬取締部の副部長にアシャっていう子から電話があった。私は大声で叫んだの。副部長、アシャから電話です!」


ラギィも加わり、笑い転げる。


「極秘の情報提供者の名前を、チンピラどもの前でバラしちゃった。摘発の糸口を作った大事な情報源なのに…私は必死になってアシャを探した。昼も夜も必死で秋葉原を探したわ。シンジケートに報復処刑される前に」

「で。見つかったの?」

「YES。無事に保護出来た。即、証人保護プログラムを適用。アレは最低なヘマだったわ…でも、マカス・リンデに音波銃を奪われたのは、もぉ最悪。セィス・ガバァはクソ野郎。でも、私は…反論出来ないわ」


ラギィは、黙ってマリレの肩に手を置く。エアリがしっかりと抱き寄せる。


「セィス・ガバァが正しいコトを言ったのは、ベン・パーのコトだけ。きっとベン・パーがジェンに秘密を漏らし、口封じのために殺したンだわ」

「今からチャイナタウンに行く?」

「あ、マリレもラギィも待ってょ。事件当日ジェンは、ヒルズ駅近くの私書箱センターで私書箱を借りてた。センターの受付が覚えてたンだけど、コッチが先でしょ?」

「ゴメンね、エアリ。先着順ょ。テリィたん、貴方は?来る?」


僕は、ギャレーのイスに座ったママ振り向く。


「実は、考えてた。もし、犯人が中華マフィアだとして、マフィアに音波銃を渡したのは"X2K"、つまりマカス・リンデじゃないかな」

「逆に、犯人はマカス・リンデを知ってるってコト?居場所とか知ってるかな」

「でも、テリィたん。そもそも、マカス・リンデと中華なマフィアは接点がナイの」


ラギィのもっともな指摘。


「接点がナイとは言い切れナイ。中華マフィアの犯人が、マカス・リンデと蔵前橋の重刑務所で出会ってた可能性がアル。とゆーワケで、この…」


僕は、積み上げた書類箱を指差す。


「刑務所記録の中に答えがある。マカス・リンデの蔵前橋の服役期間は4年間。かなり大量の記録を読まなきゃならない」

「その書類の山を誰が読むの(私は嫌w)?」

「もちろん(スーパーヒロインに変身したミユリさんとw)僕さ」

「わかった。それぞれの道を行きましょう。神と共に」


みんながマリレの肩を叩き、出掛けて逝く。


第3章 チャイナタウンの闇


東秋葉原のチャイナタウン。赤いネオンサインが頭上まで張り出し、魚や豚や…何だかワカラナイ肉が店先に吊るされた店。奥の円卓を囲むファミリー。


チャイナドレスの女が上席に耳打ち。バッジを示すラギィ。アフリカンな用心棒が上席を見ると、構わないと言う仕草だ。円卓につくラギィと…マリレ。


「刑事さん。どうぞ座りたまえ…って、とっくに座ってるか。ジェンの件か?」

「ジェンは家庭教師として雇われていたの?」

「YES。ベンの勉強のためだ。ココにいる4人は、全員私の息子だ」

「ベン。最後にジェンと会ったのはいつ?」


マリレが突っ込む。ベン・パーが答える。


「先週だね。一昨日も会うハズだったけど、キャンセルされた」

「どこで勉強してたの?」

「図書館や…この店だ」

「ジェンは、先生としてはどうだった?良い先生だったの?」


微かに言い淀むベン。


「…普通だ」

「しつこいな。もういいだろう?」

「フィリ」


声を荒げる次男。父親が制する。


「ジェンに関して、貴方のシンジケートが困るような情報が入って来たわ」

「彼女が情報提供者(スリーパー)だったコトか?」

「え。」


潜入捜査はバレてた?


「1ヵ月前。ジェンの方から打ち明けてくれた。ジェンは言ってたよ。悪い麻取(まとり)にハメられて、協力するしかなかったとね」

「ソレで、ジェンには何て言ったの?」

「心配するなと言った。我々は真っ当なビジネスをしているだけだとね。結局、不幸な結果となってしまったがな」


不敵に笑う上席。彼がクフ・パーなのか。


「何のコトかワカラナイけど、セィス・ガバァ氏なら事件があった夜の22時から0時までアリバイがあるわ。で、真っ当なビジネスマンの貴方は何処にいたの?」

「家で家族全員でサブスクで山田省吾のライブを見てた。確認したければ、使用人に聞いてくれ」

「そうするわ」


立ち上がるラギィとマリレ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その夜の"潜り酒場(スピークイージー)"。


「おかえり。その箱は何?」

「刑務所の記録だ。マカス・リンデがマリレの音波銃を誰に渡したかを調べてる」

「で、順調なの?まさか…」


常連のスピアだ。手伝わされるのを警戒してるw


「干し草の中で針を探す気分って奴だ。誰かがマカス・リンデと繋がってるハズなのに、全然見えて来ない」

「お手伝いしたいけど…苦情処理で忙しいの。資料の大量速読ならミユリ姉様にスーパーヒロインに変身して読んでもらえば?」

「苦情窓口のバイトでも始めたのか?」


見るとカウンターには書類の山だ省吾。


「いいえ。ヲタクと特別区(アキバD.A.)を結ぶ連絡主任になったの」

「ソレ何?ヲタク専門の民生委員?」

「テリィ様。スピアは、連絡主任をやると、AO入試に有利になるから頑張るコトにしたのです」


カウンターの中から、メイド長で僕の推しのミユリさんが微笑む。彼女のメイド姿は絶品ナンだ。


今宵はヘッドドレス。もう最強。


「今まで、連絡主任はチェル・シィラがやっていて、私も手伝いたいと言ったら、連絡主任の仕事を変わるってスンナリ譲ってくれたワケ」

「良い子だな。チェル・シィラ、最高」

「ちっとも。何時間もひたすらヲタクの愚痴を聞く仕事だった。多分チェル・シィラは嫌になって私に推しつけたンだわ。てっきりヲタ友だと思っていたのにプンプン」

「悪い子だな。チェル・シィラ、最低」


評価を180度変える。人の評判ナンてこんなモノ。


「残念だったな。マンマとハメられたな」

「全くょ。チェル・シィラにハメられたわ」

「待てょ…ヲタ友にハメられる?」


何かひっかかる僕。一方、ミユリさんは思案顔。


「テリィ様。私、変身はしますが、ヘソ出しメイド服でなくても良いですか?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部。ホワイトボードに中華な兄弟の写真を貼り並べるマリレ。


「パー家の使用人全員が口を揃えて、一家は事件の夜、全員でTVを見ていたと言ってたわ。まぁ予想はしてたけど。セントラル末広町ステーションの方はどうだった?」

「コレを見つけたよわ。ジェンが持ってたって言うバックょ。ニセブランドの安物」

「スゴい。どこにあったの?」


得意顔のエアリ。


「例の私書箱。このバッグと現金10万円が入ってた」

「私書箱をロッカーとして使ってたの?」

「みたい。男物の服や洗面用具が入ってた。あと半島行きの飛行艇の航空券が2枚分。明らかに、事件の夜、誰かと一緒に秋葉原から高飛びしようとしてた」


ビニールの証拠品袋に入った航空券を見る。


「名前がナイ。もう1人は誰かしら?」

「恋人じゃない?何かの問題を抱えた彼氏がいるってルームメイトが言ってたわ」

「セィス・ガバァから逃げるにしても何で半島?」


ソレはワカラナイ。韓流?


「あと喘息の吸入器があった。ジェンのモノじゃない。処方箋は無いけど、容器にバーコードがアルから製造元に問い合わせてみるわ。ソレから何か写ってるかと思って、私書箱センター近くの街頭カメラの映像を借りたけど、見る?」

「モチロン…STOP。止めて、ジェンょ」

「誰?あの男?」


PC画像をポーズ。


「フィン・バマクだわ。ジェンの元カレ。取調べでは、何週間も会ってナイと供述してたのに」

「ジェンは彼と半島へ高飛びしようとしてたの?」

「うーんバックに入ってた服は男物だけど小さいサイズだった。恋の逃避行の御相手は、もっと小柄な男だと思う」


画像の中は痴話喧嘩シーンだ。メイド姿のジェンの手首を掴み、力任せに引き寄せるフィン。


「あらあら。ずいぶん乱暴ね。引き止めようとしてるみたいだけど。彼女の痣はコレで出来たのね」


しかし、フィンの手を振り解き、走り去るジェン。頭を抱えてしゃがみ込むフィン。


「フィンの腰の辺りを見て」

「あら。軍用の大型音波銃だわ」

「恐らく"グロック17"ね」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の取調室。フィン・バマクの目の前にビニール袋入りの"グロック17"をドンと置くラギィ。


「アパートのマットレスの下にあったわ。この音波銃、何処で手に入れたの?製造番号は削られてるけど、ジェンを撃ったのと同じタイプの銃ナンだけど」

「俺の銃じゃない。俺は殺してない。ソレに事件の夜だって俺にはアリバイがあっただろ?」

「チャイナタウンなら金さえ出せば、アリバイなんていくらでも買えるわ。でも、映像はウソをつかない。ジェンが秋葉原を出ると知ってたのね。新しい恋人がいるコトも」


その時、取調室のドアをノックする音。


「何?やってないって言い張ってるけど、アイツ、絶対に犯人だわ」


取調室から出て来たラギィは断言スル。


「ラギィ。音波銃の分析結果が出たわ」

「私の音波銃じゃなかった」

「え。」


このタイミングで能天気に現れる僕w


「犯人がわかっちゃったぁ!」


後から、書類箱を持ってるミユリさん、いや変身してるからムーンライトセレナーダーだ、が現れる。


因みに、作者の趣味でヘソ出しメイド服w


「ミユリ姉様、テリィたん…今、ヲチャラけてる気分じゃないの。説明はいいから、さっさと名前を教えて」

「おいおい。モノゴトには順序ってモンが…」

「名前だけプリーズ」


ニベもナイ。ナゼかウレしそうなミユリさん、じゃなかったムーンライトセレナーダーもケシカラン。


「OK。じゃ名前だけだ。ジンコ・リー・チャン」

「え。やっぱり最初から」

「だろ?あのさ。そもそもX2Kがマリレから奪った音波銃を友達に渡すハズがナイ。ナゼなら、ソンなヤバい銃は災いの元だからだ。でも、敵対勢力になら渡すカモな」


ラギィは身を乗り出す。


「そっか。で?」

「ココから先は、実際に読み込んだ(速読だけどw)ムーンライトセレナーダーに語ってもらおう」

「…X2Kことマカス・リンデが蔵前橋の重刑務所で服役中に起こした事件を調べてたら、ある事件の報告書が目に止まったの。マカス・リンデは、塀の外では縄張り争いしてる中華マフィアの受刑者とケンカをして、顎を骨折してる。その喧嘩の相手がジンコ・リー・チャン。この顔にピンと来たら110番ょ」


古い捜査ファイルからセピア色の写真が抜かれ、示される。食い入るように見入るラギィとマリレ。


「見覚えは?」

「…フィリ・パーだわ」

「YES。クフ・パーは、正式な改名手続きを踏んでなかったから、調べるのに手間取ったわ。フィリ・パーの前科は、ジンコ・リー・チャンとして記録されてる」

「でも、姉様。なぜフィリは敵対スルX2Kから音波銃をもらうの?」

「その後、両者はコロナを契機に一時的に手打ちをしてるの」


大きくうなずくラギィ。


「あり得る話だわ」

「でも、X2Kはシリアルキラー。とても危険な男で、裏で実は中華シンジケートに復讐を企んでいたの」

「復讐って…私から奪った音波銃を使って犯罪を起こさせるコト?実際にフィリはジェンの殺害に使ったわ」


ココでエアリが割って入る。


「ちょっと違うわ。ねぇフィリのジェン殺害の動機がわかった。も少し複雑みたいょ。ジェンの荷物にあった喘息の吸入器だけど、調べたらベンコ・リー・チャンのモノだった。つまり、ベン・パーね」

「え。ジェンはベンと一緒に逃げようとしてたの?ソレって、生徒と家庭教師の許されざる恋って奴?」

「ロミ(ヲと)ジュリ(エット)だわ。秋葉原メイドが中華マフィアを見事に更生させたのね!」


色めき立つメイド達。


「でも、中華マフィアでは足抜けは御法度ょ」

「だから、死人が出る羽目になったンだわ」

「秋葉原のロミジュリね。フィリは、2人が半島へ駆け落ちスルと知ってジェンを殺したんだわ」


ヒドい話だ。


「素晴らしい妄想だけど、欠けてるモノが1つあるでしょ?」

「何?」

「その妄想を裏付ける証拠ょ」


マリレが立ち上がる。


「私に心当たりがアルわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の留置所は地下にアル。鉄格子のゲートが開き入って来るマリレ。顔を上げるフィン・バマク。


「釈放か?」

「いいえ。釈放じゃないわ。自由にしてあげる」

「警察ってどうかしてるな。自由にスルってどーゆー意味だょ」


頭をヒネるフィン。


「真実が貴方を自由にスル。姉様と一晩中探したわ。ようやく見つけた。12年前の少年犯罪記録に答えがあった。貴方がチャイナタウンの賭博絡みで捕まった時、誰に保釈金を払ってもらったか覚えてる?クフ・リー。以来、貴方はズッとリーの手下だった。でも、いまいちトロイ貴方は使いっ走りから抜け出せない。ソレが不満だったのね?だから、ベンの家庭教師に元カノを推薦した。ジェンょ。良いセンセを紹介すれば、点数稼ぎになると考えた。でも、作戦は上手くいかなかった。ジェンとベンは恋に落ち、駆け落ちスルと言い出した。ベンが組織を辞めると言い出したら大ゴト。貴方は、駆け落ちを思い止まるよう、必死に彼女を説得スル。だが、恋人達の意思は固かった。仕方なく、貴方はフィリに告げ口をした。そして、ジェンは殺された」


透明ビニールの証拠品袋に入った十字架を見せる。


「覚えてる?ジェンのママに聞いたら、21才のお誕生日に貴方があげたモノだって。殺された時、彼女はコレを握ってた。救いを求めていたの。自分が死ぬとわかっていたのね」


嗚咽を漏らすフィン。


「ジェンは、心の底から怖かったンだわ」


フィンは号泣スル。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の取調室。フィリ・パーが召喚される。弁護士を帯同して出頭。やり手の女弁護士だ。


「ちょっと待って。警察側の根拠は、ベンの駆け落ちを報告に来たフィン・バマクに、私の依頼人が"任せておけ"と言ったってコトだけなの?何でソレが依頼人が殺人を犯した証拠になるの?フィリにはアリバイもあるわ」

「じゃどーして、その時、彼のスマホは西12丁目にあったのかしら」

「しかも、貴女の依頼人は午後11時半にクフ・リーに電話をしてる。一緒にTVを見てたンじゃナイの?」


ラギィとマリレのワンツーパンチ。


「その通話を中継した基地局は、現場から数ブロックしか離れてない。任務完了の報告をしたんでしょ?パパ、終わったよって?」

「スマホの基地局ですって?そんな理由では起訴出来ないわ」

「調べればもっと出て来る。ねぇもし司法取引を…」

「結構!必要ないわ。行くわょ」


立ち上がる女弁護士。一緒に立ち上がろうとしたフィリ・パーと鼻と鼻がぶつかる距離で立ち上がるマリレ。


「私の音波銃でメイドが死んだ。私の責任は重い。だが、必ず貴方にも責任を取らせてやる。私は諦めない。OK?」


先に退室した女弁護士がエラい勢いで戻って来る。


「話は終わり!今後、私あるいは私の事務所を通さず、依頼人や依頼人の家族に接触したら、迷惑行為で訴えます!」

「良くわかったわ」

「もう終わりだから」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部のメインモニター。画面一杯に大写しになってるゲイツ司令官が、大声で吠える。


「貴女達の無駄な接触のせいでフィリは弁護士を呼び、恐らく音波銃も処分された。そして、彼のアリバイを証言する使用人は山ほどいるわ」

「でも、彼が現場近くにいたコトは確かです」

「あくまで近くでしょ?現場にいなかった彼に証言は出来ないわ」


僕も口を挟む。


「フィン・バマクによると…」

「現場にいなかった彼に証言は出来ません」

「…はい」


瞬殺される僕。何処かウレしそうなムーンライトセレナーダー。実にケシカラン。


「一家を刺激せずに事件を解決して」

「司令官。でも、あのファミリーには圧力をかける必要があります」

「ダメょ。ファミリーには近づかないで。命令よ」


キレるマリレ。


「じゃ何ですか?犯人がわかってるのに野放し?ソレでも正義の味方って言えるの?」


溜め息をつくムーンライトセレナーダー。遠い目。


「マリレ。今日は帰りなさい。頭を冷やして」


立ち上がり出て逝くマリレ…と全員。そのママ全員がゾロゾロ出て逝く。最後の僕がドアをバタンと閉める。


呆気にとられるゲイツ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


地下アイドル通り。


「マリレ。どこへ行くの?」

「さっきゲイツに言われた通り、アパートに帰って寝るわ」

「バカ言わないで。1人でなんか行かせない。貴女が責任を感じてる以上、私の事件でもアル。私達は

ヲタッキーズでしょ?」


マリレは溜め息をつく。


「ベンと話してみようと思ってる」

「簡単には行かないわ。ガードが固い。ベンの外出には、父親が用心棒をつけるから」

「じゃメイドとバレない格好で行くしかないわね」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ギャルだ。図書館なのに。


「フィリ!ねぇねぇヲッタマげたわ。何年ぶり?秋葉原に全く顔も見せないで。どうしてたの?」

「兄貴と勘違いしてる。追っ払って」

「待て。フィリに用事ならスマホで済ませろ」


フィリと勘違いした姫系?ギャルがベンに抱きつこうとスル。慌てて割って入るアフリカンな用心棒。


「おい、待て。向こうに行け」

「あ!私に触った?コレ、暴力ょね?フィリ、万世橋(アキバポリス)を呼んで。このアフリカ象にアタシが親友だって言ってやってょ!」

「表に出ろ。ベンに用事ならスマホしろ」


用心棒に押さえ込まれタイトミニから伸びた脚をバタつかせるギャル。パンチラ。


「ねぇ!見損なったわ、フィリ!助けてょ!」


揉み合う騒音が図書館の外へと遠ざかる。勉強に戻るベン…ん?いつの間にか隣にハマトラ女子大生w


「来ないでって言っただろ」

「貴方と話がしたいの」

「何の?アンタ、ヲタッキーズ?」


うなずくハマトラ。


「YES。ジェンの話ょ」

「ジェンは死んだ」

「死んだら忘れるの?何があったの?大学に行って裏社会の売人で一生過ごすコトに疑問を持ち始めたのでしょ?ねぇソレはジェーンの影響?」


固まるベン。


「未だ遅くは無いの。安全なら保障スルわ」

「警察って直ぐにそう言うょな。ガバァもそう言ったけど、結果はどうだ?」

「なら、コレを見て」


コンクリート漬けのメイドの死体。鑑識写真をベンの前に叩きつけるハマトラ。ベンは息を飲む。


「…俺に家族を捨てろと言うのか? 」

「貴方の人生の話をしてるの。秋葉原のメイドは、貴方のために戦って死ぬ人生を選んだ。彼女の死を無駄にしないで」


写真をベンの上着に突っ込み立ち上がるハマトラ。


「連絡を待ってるから」


顔を引っ掻き傷だらけにした用心棒が戻って来る。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


SATO司令部はパーツ通りの地下にアル。珍しくヲタッキーズに説教するムーンライトセレナーダー。


「2人とも何を考えてるの!ラギィにも内緒でベンと会うナンて!」

「姉様、大丈夫!ラギィにはバレない。誰も告げ口しないから。ね、エアリ。そうょね?」

「絶対言わない。テリィたんは?」


ギャルとハマトラのスマホ撮に忙しい僕。


「逝うハズがナイ…あ、動かないで」

「でも、ベンがパパに告げ口をしたら、あの女弁護士が飛んで来て、ヲタッキーズは事件から降ろされるわ。あのね。ヲタッキーズは民間軍事会社(PMC)なの。SATOからの仕事が無くなると、貴女達のギャラも払えなひ…」

「姉様。ベンは告げ口ナンか絶対にしないわ」


断言するマリレ。


「どうしてワカルの?」

「だって…ベンの目は苦悩に満ちてた。度胸の無いベンだけど、彼は心の"分水嶺"を越えるようなマネは絶対にしません」

「とにかく!貴女達、危ないマネしてくれたわね」


首を振るムーンライトセレナーダー。どーやら説教タイムはお仕舞いのようだ。みんなに笑顔が戻る。


「ミユリさんのボスキャラ、久しぶりだな。僕は、名目上ヲタッキーズのCEOだけど、やっぱりミユリさんが裏番長だ」

「テリィ様。ソレは、私がヲタッキーズのお局様と逝う意味でしょうか」

「いいや。ラスボスって意味だ」


笑いが起きる。テレ隠しかミユリさんが釘をさす。


「あのね。エアリにマリレ、次にスティングやる時は、必ず私に教えなさい。OK?」

「はーい、姉様。とても良くわかりました」

「…もしかして、一緒にコスプレしたかったの?」


その時、突然ゲイツ司令官が顔を出す。驚愕だw


「マリレ。お客さんが来てますょ」


挑むような眼差し。思わズ立ち上がる僕達。だが、ゲイツの背後から姿を見せたのは…ベン・パーだ。


「ベン?」


決意に萌える眼差し。微笑むマリレ。


第4章 僕達のスティング

閉店した中華料理店の奥で1人勉強しているベン。分厚い経済書のページをめくる。

路地裏のバンにはヲタッキーズが潜む。暗い車内。電子機器のランプが明滅してる。


「やっぱりココにいたのか。そんなに勉強しなくてもノーベル経済学賞ぐらい獲れるだろう」

「フィリ兄さん。月曜日に試験があるんだ」

「ベン。そんなのサボれょ。繰り出すぞ」

「今宵はヤメとくょ」


バンの中では、僕達が息を殺して盗聴中だ。立ち去るフィリを呼び止めるベン。


「フィリ兄さん」


期待を込めて振り向くフィリ・パー。


「ジェンの遺体が見つからなければ、僕は今でも何も知らないママだった。一生ホントのコトを僕には言わない気だったのか?」

「ベン。知らない方が幸せなコトだってあるんだ」

「今も何処かで生きてると思えるから?無邪気な乙女みたいに夢を見てた方が僕にはお似合いだと言うの?ジェンは死んだんだぞ!」


テーブルをひっくり返すベン。吹っ飛ぶ参考書。怪訝な顔で立ち尽くすフィリ。一方、バンの中では…


「マズいわ。ベン、やり過ぎてる」

「エアリ、も少し待ってあげて」

「感情的になったら、フィリから自白を引き出せなくなる」


ソレはベンも承知だが、止まれない。


「ジェンは死んだんだぞ。ごまかすな!」

「ソレが最善の策だった。あぁスルしかなかったンだ。いずれわかる」

「わからないょソンなの!」


バンの中も焦りが募る。


「フィリは言葉を濁してる」

「自白したら突入よ」

「早く言って」


涙声だが落ち着きを取り戻すベン。


「最後の瞬間、彼女は泣いたの?」

「ベン。もうヤメるんだ」

「ねぇ教えてよ。彼女は最後に何て言ったんだ!」


フィリは、ベンの肩に手を置こうとするが、それを振り払うベン。


「冷静になるんだ。この話は、明日にしよう」

「今宵話すつもりが無いなら、この場で兄弟の縁を切る」

「何?」


歩き去ろうとしていたフィリがピタリと止まる。ゆっくりと振り向く。刺すような視線。


「ベン…録音してるのか?」


バンの中は大騒ぎだ。


「気づかれたわ!」

「未だ大丈夫ょ。お願い」

「ダメょ限界」


ゆっくりと歩み寄るフィリ。


「何の真似だ。ベン、シャツを開けてみろ」

「嫌だ。もう兄貴には従わない」

「ベン!」


ゆっくりと音波銃を抜くフィリ。


「もう一度だけ言う。見せろ」


ベンの額にラッパ型の銃口をピタリと当てる。


「行こう」


バンから飛び出すヲタッキーズ。


「僕を撃つのか?ジェンみたいに」

「もうヤメろ、ベン」

「くたばれ!」


ベンの悲痛な叫び。ソレが合図だ。


「ヲタッキーズ!全員、手を上げて!」

「早くして」

「さっと手を挙げなさい!」


瞬間たじろぐフィリ。やがて、ニヤリと笑うと音波銃を落として、両手を上げる。

直ちにフロアに倒され、ねじ伏せられる。ソレを両手を挙げたママ見下ろすベン。


「ベン、俺をハメたのか?」

「ごめんょ兄さん」

「裏切り者!卑怯者!」


フロアを舐めながら口汚く罵るフィリ。上着に隠した音波銃を抜くベン。絶叫が響く。


「お前のせいで何もかも終わりだ!」


ヲタッキーズが一斉に音波銃を抜くのを見てフィリが叫ぶ。マリレの叫びと重なる。


「ヤメろ!ベン、ヤメるんだ!」

「ベン、ヤメて!音波銃を下ろして!」

「撃つな!狙撃班、発砲するな!」


瞬間遅く、向かいのビルに潜む支援のスナイパーがベンを撃つ。弾かれるように倒れるベン。


「ベン!」


ベンの心臓に耳を当て、心臓マッサージを行うマリレ。無線を抜くエアリ。叫ぶフィリ。


「ナゼだ?ベン、何でだ?」

神田消防(アキバファイア)、救急要請!」

「目を開けて、ベン!」


ねじ伏せられたママ、引きずられて逝くフィリ。懸命の心臓マッサージ。目を閉じたママのベン。


「ベン。ごめんなさい」



万世橋(アキバポリス)の取調室。


「この録音だけでも、かなりの説得力がアル。コレを聞けば、どんな裁判員でも確実に貴女の依頼人を有罪にスルわ。念のために言っておくけど、貴女の依頼人が所持してた覚醒剤はジェンのメイド服に付着していたモノと一致した。あとコレもアル」


ラギィ警部は、証拠品用のビニール袋に入った"グロック17"を机の上に落とす。


「貴女の依頼人が、自分の弟に突き付けていた音波銃ょ。ソレから依頼人の銃の許可証は期限切れだった」


フランス人みたいに肩をスボめる女弁護士。隣のフィリは虚脱状態で目の焦点が合ってない。


「コレは、盗難にあったヲタッキーズメンバーの音波銃だと判明した。そして、この音波銃は女子大生メイド殺害の凶器でもアル…第一級殺人で終身刑は確実ね」


依頼人と素早く目配せを交わす女弁護士。うなずくフィリ・パー。


「私の依頼人は、減刑を条件として、万世橋警察署に興味ある情報を提供する用意があります」

「あら、司法取引?もう締め切ったンじゃなかったかしら。で、どんな情報?」

「スーパーヒロイン専門のシリアルキラー"X2K"に関する情報だ」


初めて口を開くフィリ。


「ふーん彼がどーかしたの?」

「その音波銃をもらった時に奴の行き先と偽名を教えてもらった」

「あらそうなの」


興味なさそうに、実は内心小躍りするラギィ。



解散が決まり後片付けが始まった捜査本部。


「ソレで、件の女弁護士の要求は、刑期15年から25年。10年後に仮釈放資格。その代わりに"X2K"の偽名がワカル。シリアルキラーを捕まえるチャンスかもしれない」


自分のデスクで語るラギィ。僕は彼女のデスクに腰かけ、腕組みして聞いている。


「違う。コレはワナだょ。"X2K"は、音波銃を渡す時、フィリの逮捕を既に予測している」

「カモね。だから?」

「"X2K"がフィリに真実を歌うハズがナイ。デタラメな情報と引き換えにフィリを減刑したら、ソレこそ"X2K"の思うツボさ」


ナゼか愉快そうな笑顔のラギィ。


「マジそう思う?」

「so say we all。ジェンもそう望んでるさ。司法取引はしない。フィリは終身刑。以上だ」


僕は立ち上がる。


「"X2K"の手には乗らない。彼は、ヲタッキーズが確実に捕まえる。確実にね」


デスクに頬杖してニコリと微笑むラギィ。


「テリィたんったら、モノホンの刑事みたい」



ホワイトボードの前では、マリレとエアリが写真を剥がしてる。


「あら、メイドさん達。事件が解決したのに浮かない顔ね」


ソコへ酒瓶片手にミユリさんが登場。


「姉様。実はガバァ捜査官のコトを考えてた。ジェンを1人でパ一家に送り込んだ。私も奴と大して変われないカモって」

「あらあら。全然違うわ」

「比較にならない。マリレは、ベンを1人で送り込まなかったろ…噂をすれば、またマリレにお客さんだぞ」


捜査本部に入って来たのは…ベン・パーだ。


「元気になって良かった。ゴム弾だったけど、痛かったでしょ?」

「大活躍だったな。ノーベル経済学賞は諦めて、将来はスタントマンに転向したらどうだ?」

「彼は、証人保護プログラムのマーヌだ。ベンを乙女ロードの新しい家まで送ってくれる」


ベンは、池袋で全く別人となって生きる。もはや、彼がアキバに戻るコトはナイ。


「ベン。そろそろ飛行艇の時間だ」

「わかった、マーヌさん…少し話せる?」

「もちろん」


マリレを残し全員が一斉にその場を離れる。


「ありがとう。貴女のおかげで勇気を出せた」

「貴方は貴方の人生を取り戻したわ。池袋で自由に生きて。ソレを秋葉原のメイドみんなが望んでいる」

「ジェリ…」


マリレが渡した写真の中で微笑むジェン。見つめるベン。うなずき、立ち去るベン。


「エヘンえへん」


咳払いする僕。いつの間にかミユリさんも加わって、みんなでプラコップに酒を注ぐ。


「ビデオ回線が閉じてる内に、さっさとお祝いをしちゃお。万一ゲイツ司令官に見つかったら、今度こそヲタッキーズは干されちまうからな」

「あら。私は誰も誰にも言わないわ。姉様は?」

「マリレ、私を疑うの?ラギィは?」

「もちろん言わないわ」


エアリが〆る。


「なら大丈夫ね。じゃ私の相棒、マリレの手柄を祝って」

「マリレに」

「マリレに」


みんなでプラコップを口にスル。1人自分のコップを見てるマリレ。(をもむろ)にグラスを上げる。


「私からも良いですか?勇気と献身、そして、貴い犠牲。ジェンに。秋葉原の全てのメイドに」



おしまい

今回は、海外ドラマによく登場する"奪われた銃"をテーマに、過去にスーパーヒロイン専門のシリアルキラーに音波銃を奪われたヒロインの失意と再生の物語です。工事現場にコンクリート漬けのメイドの死体、メイドの命を賭けた恋と祈り、正義による復讐…御主人様的に絶好調のシチュエーションで、楽しく描く事が出来ました。


今回は、SATO傘下のPMCであるヲタッキーズの微妙な下請け関係などもサイドストーリー的に描いてみました。


海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、インバウンドのファッションが、やっと夏のリゾート着から秋にシフトし始めた秋葉原に当てはめて展開してみました。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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