37.ホーム スイート ホーム
仙台駅に降り立つと「寒いだろ?」と言いつつも修司の嬉しげな表情に容子もつられて微笑む。
父の実家のある新潟に、容子も子供の頃には遊びに行ったこともあり、雪国の生活の話しはある程度聞いて覚悟している。
もちろん遊びに行くのと暮らすのとは全然違うだろうけれど。
それよりも、修司の言っていた来るまでは内緒という私達の家が気になっている。
「容子ならきっと気に入るよ」
確信しているようで、ますます気になっていた。
古民家ほどではないけど中古物件という一軒家は、子ども時代の修司のために家族が購入したものだと聞いている。
「親父が亡くなって、そろそろ手放そうという案もあったけど、保留にしておいて良かったよ。ここからなら職場に通えるからね」
カーテンが古くなってきているから、それは追い追い新調するとして、インフラは整っているし、問題なく暮らせるという。
既に修司が住んでいるのだから、その通りなのだろう。
「もうすぐ見えてくるよ、ほら」
容子は目を疑った。
「どうして······」
新居に到着し、車が車庫に入る頃には、容子は既に涙目になっていた。
「さあ奥さん、今日からここが君の家だ」
容子の眼前にあるのは、かつてのみつわ荘だった。
厳密には、みつわ荘の別館の小型版だ。
本物のみつわ荘別館は現在は人手に渡り、かつての面影は失われてしまっていた。
「たかの」は廃業して取り壊されるそうだと母から聞かされた。
あの家がもう無くなってしまうのだと、容子はショックを受けたばかりだった。
「間取りが違うから内装までは再現できなかったんだけど、玄関と庭とかの外回りはかなり寄せているよ」
容子の幼い頃の記憶にある、人手に渡ってしまう前の、そのままのみつわ荘がそこにあった。
「個人的な趣味というよりかは、俺の治療のためにね」
「失語症の?」
「失語症は治ったけど、精神的なものがまだまだだった頃にね。家族には無理言って相当迷惑かけたけどね」
「修司さんも昔は無茶したんですね」
玄関前のスロープや石垣、竹で編まれた柵まで似せてあり驚愕してしまった。
「元々玄関先が似てたんだ。だからここにしたんだけど」
椿、雪柳、梅、山吹、五月、笹、南天、紅葉、八手、紫陽花、沈丁花など、懐かしい庭木が植えられている。
少しだけ雪が積もっていて、それがまた一層美しく見えた。
本当のみつわ荘の裏には隣家である旅館があり、そこの桜が丁度良い具合に客室から見えるような形になっていた。
そうだ、今度桜を植えてみようか···
そんなことを思っていると、冷えるからもう中へ入ってと声をかけられた。
玄関の引戸も三和土も、みつわ荘そのものだった。
広さと間取りこそ違うが、それでもあの懐かしい家だった。
「どう? お気に召したかな?」
「···修司さん、ありがとうございます」
容子は頬を伝う涙を指で拭った。
「ここは俺にとってもかけがえのない我が家なんだ。明日、早速新しいカーテンを選びに行こう」
「はい」
容子は晴れやかに笑った。
(了)
完結まで読んで下さって本当にありがとうございます。
短編ですが、5万文字突破した初の作品になりました。
来年はもう少し長いものに挑戦しよう·····かな!?
気長にお付き合いくださいませ。




