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32.悪意 ⑤

立花沙羅は、プリントアウトしたカードを一瞥するとぐにゃりと手で握りつぶした。


「なんなのよ、全然呪いなんて効いてないじゃない! 逆にあの人ばかり幸せになっていくのはなぜ? 」


次の瞬間、握りつぶしたカードを力任せに壁に打ち付けた。


もうすぐ自分の伴侶となる筈の男は、自分との結婚に尻込みしてばかりで、自分への愛を囁いてくれることもない。


そればかりか、他の女への未練ばかり募らせていることを知って、憎悪を抱きはじめていた。


元々構って欲しいタイプである沙羅は、わざと婚約者を困らせたり、わがままを通すことで憂さを晴らしていくようになった。


一緒にいても心あらずな様子で、全く私を見てくれない。


「ねえ、本当に私と結婚する気はあるの?」


この頃は苛立ちと怒気ばかり向けるものだから、余計に距離をおかれてしまっている。


もうすぐ私達の結婚式なのに。


「私のことは愛しているの?」

「すっ······、好きだよ、可愛いと思っているよ」


オドオド答える婚約者は「愛しているよ」とは一度も言ってはくれない。



苛立ちが頂点に達しそうになり、それをきっかけに婚約者の後をつけるようになったら、GPS機能であの女を追跡しているのを知ってしまった。


私という婚約者がいるのに、そこまで執着しているなんて。


しかも、あの女の彼氏の家の前で、


「容子ちゃんが結婚しないでって言ってくれたら、僕は結婚なんてしないよ」と叫んでいたのだ。



沙羅の心はズタズタに砕け散った。


この婚約者にとって、私という存在は一体なんなのか。


悔しい、虚しい。


······そうだ、呪ってやろう、あの女、宮森容子を。



沙羅は婚約者ではなくて、宮森容子の追跡に切り替えた。


あの女は恋人と思われる男性と親しげに一緒に食材を買い物したり、男性宅にも出入りしている。


あの女の自宅へ来て見れば、なんと、恋人が結婚承諾のための挨拶までしているではないか。


その駐車場では、いかにも愛おしげに髪にキスまでされているなんて。



なんで私が呪っているのにそうなるの?


そんなの ······許せない。



なんとか結婚式は幸せ一杯という演技でしのぎ、喧嘩ばかりのハネムーンから帰宅すると、夫は酒を引っかけるとその足であの女に会いに行ってしまった。


しばらくすると警察から連絡があり、酔った夫が交番で保護され、ついでにストーカー行為まで注意を受けた。


もう、やってられない、こんな空虚な結婚は。


どうして私ばかりこんな気持ちにならなきゃいけないの。


花嫁は私で、妻は私なのに。


夫は寝言ですら、あの女の名前を口にする。



私をこれ以上傷つけることは許さない。



酒に酔った夫がタクシーで帰宅した。


「出て行って! もう二度と戻って来くるな!!」


こんな夫はもういらない。


よろよろと二階へ上がって来た夫を、沙羅は力を込めて突き落とした。



そのまま家を出て、少し冷静さを取り戻した沙羅は、宮森容子のアパートで待ち伏せしていた。


その日はアパートの駐車場に車を停めてその中で眠った。


朝になって、恋人が迎えに来て出掛けて行ったのを沙羅は追いかけた。


その区域は不案内だったために、カーナビの指示に従ったつもりだったのに、車線変更を間違えてしまい彼女らを見失ってしまった。


仕方がないので、時間潰しもかねて城址公園付近を散策した。


しばらくいくと幸ヶ浜という看板が見えたので行ってみることにした。

オフシーズンで人のいない海が見えて来た。浜辺は石ころばかりで、波打ち際までいかないと砂浜がなかった。


沙羅はしゃがみ込むと少し湿った砂をかき集めた。


何かの小説か映画だったか忘れたけれど、コンビニの袋に砂を入れた凶器で人を殺すシーンがあったのを思い出した。


これで本当に人が死ぬのかはわからないけれど、試すのも悪くない。


バッグの中身は服のポケットに移して、コンビニの空き袋に詰めた砂だけをバッグに入れた。


ハネムーン先で破格の値段で買った巾着型のバッグを、まさか凶器にしようとするなんて······。


自分がどこに向かっているのかまったくわからなくなった。



浜から城址公園方面へ戻ると、偶然にも彼女と恋人が肩を並べて歩いているのが目に入った。



追いかけて行って、チャンスがあればやってみよう。


沙羅は、今はもうそれしか考えることができなくなっていた。

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