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28.悪意 ①

この日の城址公園は特設ステージが設けられ、コスプレショーと写真撮影会などで賑わっていた。


動物園に遊園地や資料館が同じ敷地内にあり、堀の周りには桜並木があり、すぐ側には図書館や高校までがかつては建っていた。


敷地内に古風な女子高があり、遠目からでも長刀や弓道の稽古に勤しむ女子学生の姿は、子供時代の容子にとって憧れの対象だった。


残念ながら今は移転してしまったようなのだけれど、当時はいつか自分もと夢に描いていたのだ。


容子が小学生の時に他県に引っ越していなければ、それは実現していたかもしれない。


「ここは子供の頃によく来たんだよね?」

「土日は保養所が忙しいから、私達を連れ出すのは父が担当で。でも毎回ここばかりで、たまには他の所へ連れていって欲しかったりしましたね」

「はははっ、うちの親父も、旅行にいくぞって言うといつも箱嶺でさ。いい加減にもっと遠くに連れて行けってなってたよ」


「小由留木から箱嶺だと近すぎて旅行気分ではないですもんね。八神さんの小学校はそこでしたか?」


容子は城址の側にある瓦屋根の塀に囲まれた校舎を指差した。

三ノ丸という時代劇に出てきそうな名前の小学校だ。


「うちは三人共ね。純もそのうち通うな。それから、八神さんじゃなくて修司でいいよ」

「······はい」

「純なんて、既にようこ呼びだしな」

「ふふっ、純くん、やんちゃですね。凛子さんがとても気さくな方で良かったです。最近は色々あって、女性が怖いというか信じられなくなりそうで···」


それも無理はないなと修司は頷いた。



「例のカード、見せて」


容子が箱にまとめて持って来た呪いのカード入りの手紙の分量を見ると「これは想像以上だな」と眉根をしかめた。


「心当たりは?」

「はじめはストーカーかお局様達の誰かかと思っていたんですけど······」

「他にいそうなの?」

「これが届くの、ハネムーン中は途切れていたんです」

修司は目を見開いた。


「私がそれほど怖くはないって言うのは、本気で敵意や憎悪があったら、こんなものでは済まないと思うんです。内容がもっと変わるとかするんじゃないですかね?だからなんか中途半端だなって」

「中途半端って?!」

「こんな単調な脅しはつまらなくて、効果無しですね」

「だからって、もっと怖い思いなんてしたくないだろ? 俺だってこれ以上のことが君に起きたら困る」


(つまらないだと?!)


修司は容子の意外な胆力に舌を巻いた。


「確証はないですけど、奥さんの方じゃないかなって」

「なんで?」

「肉筆だと筆跡や筆圧とかで女性っぽさがどうしても出ると思うので、それを隠したがるのは女の人かもって。もちろん男性でも悪筆だからそうする人もいるかもしれませんけど」


修司は容子なりの推測になるほどと思った。


「もしかしてミステリー好き? 謎解きとか犯人捜しとかが結構好きとか?」

「嫌いじゃないですね。でも推理オタクとかミステリーオタクでは全然ないですよ」

「今回の件も、実はちょっと楽しんでないか?」

「······そうかもしれません」

「やっぱり」

修司は人は見かけによらないものだと痛感した。



ショーを終えたコスプレイヤー達やファンらが散らばって、各々で交流や撮影会のようなことをやりはじめているようだ。


こちらにも何人かが歩いて来ていた。


「飲み物を買って来るよ」

修司は座っていたベンチから離れた。


修司を待っていると、容子の方へ砂利を踏みしめる音が近付いて来た。

しかもそれが不自然に速度を早めていることに気づいて、はっとした。


容子が振り返ろうとすると


「容子、伏せろっ!!」


何が起きたかわからなかったが修司が叫ぶ声がした。

容子はその指示に従った。


ズシャッと砂利の上に何かが落下した音が容子の耳に響いた。


少し顔を持ち上げて周りを見ると、容子の座っていたベンチの後ろ近くに黒いマスクに黒いフードを目深に被った黒ずくめの人物が立っていた。


「痛っ···!!」


その小柄で華奢な人物は、手で肩を押さえながら呻くような声をあげていた。


缶コーヒーが地面に転がっていたので、修司が咄嗟に投げたのか、多分それが当たったのかもしれない。


コスプレ姿のようでもあったが、それだけで正真のコスプレイヤーという確定はできない。


「容子!」


修司が駆け寄って来るのに気がつくと、黒ずくめの人物は「もうちょっとだったのに!」と吐き捨てて走り去って行った。


容子には、その声の主は女性に思えた。


その逃げ去った人物が立っていた場所には、巾着型の長い持ち手のついた布製のバッグのようなものが落ちていた。


バッグの開口部からは砂がこぼれていた。


「大丈夫か?」

「大丈夫です」

容子は身体を起こした。


ツプッ······


聞きなれない音がして、微かに生暖かいものが自分の中から溢れたような気がした。

不思議に思った容子は、自分の手で触れて確認しようとしたが間に合わなかった。


血が勢いよく流れ落ちて容子の手と服を染めて行った。


「容子!」

公園や学校の設定や描写はフィクションです。

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