27.思い違い ④
八神の実家へ到着したとたん、ついこの間はフラれたとか誰かさんは嘆いてなかったかしらと、修司をからかうように姉が見やった。
「はじめまして、宮森容子と申します」
「姉の凛子です、よろしくね。あなたがみつわ荘のお嬢さんね」
修司の姉は菓子とお茶を出しながら満面の笑みを浮かべた。
笑った目元が修司に似ている。背の高いロングヘアの美形だ。
「容子ちゃんて呼んでいいかしら? こんなマザコン男をもらってくれて本当にありがとう。確かに似てるわぁ」
「姉貴!」
余計なことは言わないでくれと、修司は顔をしかめた。
「愚弟は大事な所で引いてしまう癖があるから、私が外堀を埋めてやろうと思っていたけど、その必要はなくなったみたいね、ふふふ」
いたずらっぽく凛子は二人を交互に見た。
みつわ荘のことは凛子もよく覚えていて、あの浴衣を着て手を振っていた幼女が容子だったとはと驚いていた。
容子の関取ネタは、ここでも笑いを誘った。
凛子が古いアルバムを出して来て、当時の写真や修司の子供の頃や学生時代の写真などを見せてもらった。
みつわ荘で撮った写真に目を止め、あ、この屏風はまだ実家にありますよ、客間にあった鏡台や衣紋掛け、脱衣場の什器などもまだ現役で使っていますと容子が説明した。
「容子ちゃんて、エプロンよりも割烹着が似合いそうだねとか言われない?」
「言われますね、あと、軍手とか」
「軍手?!」
「職場で軍手して作業したり、草むしりをしていたら、細身の手袋よりも軍手がよく似合うねって」
そんな歓談をしていると、凛子の息子の純が帰宅した。
もう来てるのと弾んだ声をあげ廊下を駆けてやって来た。
「純、元気か?」
修司が声をかけると、それには応じずに、純は真っ先に修司の隣に座る容子の方を真剣にじっと見つめた。
昨夜、修おじちゃんのお嫁さんになる人が来るんだよと凛子に聞いていた。
「修くんは、美人が好きなんだね」
修司は苦笑した。
「容子です、よろしくお願いします」
「······ようこ、あのさ、もし修くんと結婚できなかったら僕がもらってあげるよ」
5歳の純は何を思ったのかそんなことを言い出した。
修司は唖然とした。
「その時は何卒よろしくお願いいたします」
容子は両手をテーブルにつき、純に向かっていたずらっぽく頭を下げた。
それで気をよくしたのか、今度はパッと近寄って容子の二の腕を掴むと、「ぷにぷに」と言った。
「おいっ」
「実は、これは着ぐるみなんです。本当は中の人が別にいるんですよ」
容子は他の人には内緒ですよ、シッ!と、唇の前で人差し指を立てて見せた。
「中の人の名前はなんていうの?」
「カトリーヌ!」
ギャハハと純は大喜びした。
「ぶっ、どんな設定だ」
修司もウケていた。
「じゃあ、カトリーヌと話せるの?」
「今日はお休みみたいですね、また今度ということで」
容子ちゃん面白過ぎと、凛子まで吹き出した。
「ようこ、合格!」
純に胸をつんと指でつつかれたのは流石に容子も固まった。
「純、やめなさい」
「純!」
凛子と修司の怒気が向けられたので、純は急いで菓子を掴むと自分の部屋に走っていった。
昼食後、城址公園に散歩にでも行ってくればと勧められ、修司と二人で向かった。




