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24.思い違い ①

退職三日前になっても残業を押しつけられ、帰りが遅くなってしまっていた。


ストーカーを避けるために、わざと残業して帰宅時間を遅らせるとか、定時で帰る日をまちまちにして、自分の行動パターンをなんとか特定されない工夫を容子なりにしていた時期もあった。


今はそんな虚しい努力すら懐かしいと感じてしまう。


引き継ぎとその資料は完璧に仕上げていたので問題はない筈だ。

自分がやるべきことはもうやった、それでいい。


最終日になっても、満足に挨拶まわりもできない程忙しく、定時であがれない状態にされたのも、もしかしたら誰かの故意によるものなのかもしれないけれど。


でも、もうそんなことはどうでもよかった。


今日が最後の私に「じゃあ元気でな」「お疲れ」と、労いの声をかけてくれたのは、入社当時からお世話になった男性社員らだった。


「まだ帰れないの? いいからもう帰っちゃいなよ」などと茶化しつつ心配してくれたのもそうだ。


少数でも、自分を公正な目で見てくれていた人達がいたのだからそれで十分だ。


終わりました、これから正門に向かいますと修司にメールを送った。

一応お疲れ様でしたという言葉と一緒に手渡された花束と私物をまとめ入れた紙袋を持って、勤めた職場を後にした。


駅に向かう途中の横断歩道で信号待ちで立っていた。

「お疲れ」

後方からやって来た修司が手荷物を掴んで、花束だけを容子に持たせてくれた。


駅に近くなると、例の嫌なかん高い声がして、私の名を呼んでいた。


「ほら、やっぱり出ただろ?」と修司が呆れて言った。


ちょっと持っててと、先程の手荷物を私に渡すと、修司はこちらに近寄ろうとするストーカーに素早く攻撃をしかけて、男はうずくまった。


修司が彼のどこを攻撃して倒したのかは、容子の位置からは修司の背中で見えなかった。


身動きできなくなった男の服の首もとを掴むと、修司は駅前の交番までずるずると引きずっていった。


容子はその後について行くと、交番から警察官が顔を出し「どうしました?」と聞いて来たので


「「酔っぱらいです!」」


修司と容子はほぼ同時に答えたので、顔を見合わせた。


実際に今夜のこの男からは酒の匂いが漂っていた。



「帰ろう」


修司は容子に持たせていた荷物をまた掴んだ。


駅前で何が起きたのか、その成り行きを見守っていた人だかりの中に同僚の姿があった。

それは容子の事情を大体知っている男性社員だった。


「ん? どうした」と聞いてきた修司に、お世話になった同僚ですと答えると


修司は彼に軽く会釈して容子を連れて歩き出した。


その同僚は通りすぎようとする容子にウインクをしながら親指をビッと立てて見せてきた。


容子は苦笑しつつ「お世話になりました」と会釈して彼の前から去った。



結婚したのにまだ来るなんて。


新婚ホヤホヤの新郎が、新妻を放置して本当に何やってるんだろうか。


ここまでおかしい人だったとは。


これだから、やっぱり自分は仙台には行かない方がいいと容子は強く心に決めた。


(早く実家を出て、仕事を見つけなくちゃ)



一方、修司は、こんな状態で容子を置いて行けるわけがないと思っていた。

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