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22.誤算 ③

寿退社する新婦は、多くの人に祝福され実に幸せそうな表情を振り撒いて、職場を去って行った。


彼らが結婚してしまうと、お局様達も、もう何も容子には言わなくなった。


他の女性社員からの当たりも若干弱まったように感じていた。



ただ、呪いのカードはまだ届いていた。


修司にはその事は伏せておくことにした。


それは、彼をなるべく余計な心配をすることなく仙台に行かせたいからだった。



「何で戻すの、買わないの?」


容子が手に取った食品のパッケージをひっくり返して製品表示を見ては商品棚にパッと戻しているのを言っているのだろう。


「添加物がなるべく少ないものにしようと思って」

「ああ、それでか。それも、みつわ荘流?」

「これは母からの影響ですね。みつわ荘の頃はこんなに添加物まみれ商品はそもそもなかったでしょうね」


そう言った後も真剣にチェックしている容子を修司は面白そうに見つめている。

「これはどう?」

眉間にシワを寄せて、うむむと悩んではパッと戻すので、修司は吹きそうになる。


最初は容子のおまかせでやっていたのだが、この頃は食材の買い出しに修司もついてきていた。


買い物を終え修司の家に到着して食材をキッチンに並べ出すと、「あっ···、あれを買うの忘れた、でも、いいや」と容子がつぶやいたので爆笑してしまった。


物凄く真面目でしっかりしているのかと思えば、ポロっと失敗するのが絶妙過ぎる。


今のところ、容子が作ってくれる料理には不味いと思ったものは特にないが、毎回俺の食べた感想を聞くまで緊張しているのがわかる。


美味しいと言うと、喜ぶよりも安堵する感じで、そんな余裕のなさが可愛らしいと思ってしまう。


「退職する日は迎えに行くよ、なんか気になるから」

「お仕事の方は大丈夫なんですか?」

「引き継ぎの奴に任せるから平気だよ」


八神邸には引っ越し用の段ボールの束と梱包資材が既に届いていた。


「もうすぐですね」


修司とこうして会えるのもあとわずかだと思っていると、いつになく彼が真剣な眼差しを向けてきた。


「それで、みつわ荘のお嬢さんはどうするの」

「え?」

「あの時の返事をまだ聞けていないからね。そろそろ決心はついたかな?」


自分は仙台にはついていかない方が良いのではないかという思いが強くなり、容子は断ることを考えていた。


仙台行きを提案された当初は、一緒に行ってみようと思っていた。


でも、それで自分は自由になれても、今度は修司の自由を奪ってしまうのではないか。

自分が修司の傍にいるとストーカー対策に縛られてしまうのは目に見えている。


ただでさえ仕事が忙しくなるというのに、そのようなことにも日々神経をすり減らせてしまうのは、あまりにも申し訳なくて、それは避けたかった。



目を伏せて返事を躊躇している容子は、また佐和の表情をしてしまっていて、修司は苦笑するしかない。


本当にこの表情に俺は弱いなと。


「一緒に来れない理由は何かな? 仙台には行かないという顔をしてるよね」

「······ごめんなさい」

「いいよ、気にしないで。無茶な提案だったのはわかっているから。でもちょっと······いや、かなり期待していたから、うん、残念」


容子は本当にすみませんと言いながら、涙を浮かべているので、修司は狼狽えた。


「泣くほどの理由? ああもう、そうだ俺が全部悪い! なにせ浴衣人間だしな」


泣かせないようにおどけて見せたのが、かえって容子を泣かせてしまった。


ストーカーに追い詰められても泣いたりしない気丈な彼女が泣くなんて、どんな理由だと言うのか。


「理由は無理に言わなくてもいいから」


容子は泣くつもりなどなかったのだが、あんな異常なストーカーのことに、もうこれ以上修司を巻き込みたくないだけなのだ。


それに、修司に恋人や家族ができたらその人達まで危険にさらしてしまうかもしれない。


だから、自分一人でやっていく。


ストーカーから逃げまわるのは、自分だけでいい。


私はずっと心配されるほど、そこまで弱くはないと自分に言い聞かせた。



「取りあえず、退職の日は迎えに行くよ」

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