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21.誤算 ②

容子が仮住まいである自宅に帰宅すると、差出人が記載されていない手紙が容子宛にまた届いていた。


このカードが届きはじめたのは二週間ほど前からだ。

封筒には 「呪」の明朝体の文字が一文字だけ中央に大きく印字されたカードが1枚入っていた。


パソコンで作成してプリントアウトしたものらしかった。


これはストーカーのあの男かお局様達のいずれかだろうか。


それ以外に思い当たるふしはない。



容子にとってこれくらいはなんともない。


こんな文字をプリントアウトしたカードなんて、喪中葉書に毛が生えたようなものにしか思えない。


中学生の時、クラスメイトから届いた不幸の手紙にも動じず、一通も自分は書かなかった。

容子に送って来た生徒はそれを知って物凄く驚いていた。


「自分が不幸になってもいいの?」と。



それでも、自分は不幸にはなっていない。


今の状況も、別段不幸だとは思わない。


少なくとも、不幸の手紙とか呪いのカードを他人に送りつけなければいられない人達よりかはずっと幸せだし、そうしなくて済む自分は恵まれていると思う。


誰かにストーカーすることをやめられない人も恐らく幸せではないだろうし、本人自身が他人に不幸を運ぶ存在になってしまっている。


そのような人は、自分から不幸を呼びこんでいると容子には思えるのだ。


本当に良い人間なら、不幸の手紙も呪いのカードも出すことはないだろう。


そしてストーカーもしかりだ。


良い人間はそんなことは間違ってもしないからだ。



次の日も、また次の日も呪いのカードは届いた。

中身は最初に送られて来たものとまったく同じものだ。


結婚式が終わればこれも止まるだろうか?



修司からメールが来て、何か変わったことはないか聞かれたが、あれからストーカーも来てなくてすこぶる平和ですとメールを返した。


結婚式が終わってもまだ呪いのカードが送られて来るならば、その時言えば済むことだ。

今はまだカードのことまでは言わなくても良いだろうと容子は思っていた。



明日は結婚式という日になると、またお局様達から呼び出された。


今度は何かと思ったら


「本当にいいのね、後悔は絶対しないわね?」


どうやら容子への最終確認に来たらしい。


まだそんなことをと、呆れ果ててしまったが、


「もちろん問題はありませんし、困ることも何一つありません」


と回答した。


急にお局様が激昂して「なぜ平気なのよ! あなた、おかしいんじゃないの!!」と言い出した。


おかしいのはどちらなのか、容子は返事をするのも億劫になるぐらいに辟易としてしまった。


いくら容子が事実を言っても、自分に都合の良い解釈しかしようとせず、どこまでも自分が見たいようにしか見ない人には、何を言っても届くことはないのだろう。



もし私が今結婚しないでくれと言えば、明日の結婚はやめる心積もりでいる新郎って、一体結婚をなんだと思っているのだろうか。


この人達だってそうだ。


映画「卒業」の女バージョンのようなことを私にさせようとしているのだろうか?


まさか、その映画のようなシーンを見たくてお局様達もやっているのだろうか。


お局様達が思い描く理想の恋愛や結婚の投影なのかもしれないが、これ程の非現実的な妄想ができる感性は、やはりまったく理解できない。


アラフォーなのにこんなことをするなんて、正気の沙汰ではない。


本来ならば年長者として、暴走しているストーカーを諌める役を担う歳ではないのか?


結婚しないでくれと私が言う筈だなんて、何を根拠にして決めつけたのだろか。


新郎がもしそんな心持ちでいるなら、叱るのがまともなアラフォーというものだ。


そんなの二十代だって普通にするだろう。


四十なのにそれができないとは、一体何を考えて生きているのだろうか。


こんな新郎と明日結婚しなければならない新婦が、容子にはひどく哀れに思えた。

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