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14.ある提案 ③

八神修司からの思いがけない提案は、容子にとってありがたいものではあったが、即決できなかったのは、この先、もしも八神に恋人や妻ができたならば、やはり自分はその家を去らねばならないだろうということが引っかかったからだ。


今だって奥様や恋人がいないのが不思議なくらいなのだから。



「なんで彼氏がいなかったの? いたらもっと早くストーカー避けになっただろうに」


八神にそのように不思議がられてしまったけれど、それは友人や職場の人間にも同じことを言われて来た。


結婚はいつかはしたいけれど、まだいいかなと思っていたので、同級生や同期が結婚しはじめても、焦りもせずにマイペースできた。

学生時代に付き合った人はいたけれど、社会人になってからは仕事が忙しかったのを言い訳に、なんとなく恋愛をすることが面倒臭くなってしまっていたのもあった。

実家暮らしの楽さも手伝って、彼氏はそれほど欲しいとは思わなくなっていた。

そんなこんなであっという間に26歳、もうじき27だ。

自分の人生プランでは結婚は30過ぎてもいいかなとは思っているけれど、それに向けて具体的な努力をしているわけでもなく、漫然と怠惰な生活をしてきているなあという反省もあったりする。


ストーカーから逃げるためにやっと自立、自活しようと火がつくなんて、我ながらちょっと情けないかもしれない。


ストーカー避けとして彼氏を持つにしても、自分が好きでもない人では嫌だ。道具のように彼氏を利用するとか、用心棒を雇うみたいなことは容子にはできなかった。


「付き合いはじめは好きではなくても、付き合っているうちに好きになるものだよ」とか、「結婚してから好きになれば良いだけじゃない」などと、恋愛や結婚に対して積極的ではない容子に周囲はそのようにあれこれ言って来る。


頭で考え過ぎずにもっと気軽に付き合えばいいんだよといくら諭されようと、全く付き合ってもいないにも関わらず、あのストーカーのような人間が現実にいるということが、異性との付き合いへの気軽さを奪ってしまう。


仮に気軽に付き合ったとして、やっぱりこの人は嫌だなとか無理かなと思って別れたら、あのストーカーのようにしつこくされたらどうしようという怖れがどうしても拭えない。


この人だったらいいかな、この人とはずっと一緒にいたいと本当に思える相手に出会うまでは······という思いが、二の足を踏ませてしまうのだった。


恐らく自分は頑固で融通のきかない、不器用な人間なのだろう。


それでも今回八神に助けてもらったことで、誰かに守ってもらえる心地よさを知ってしまったような気がする。


自分がそれだけ追い込まれて疲弊してしまっていたということなのかもしれないけれど······。


一緒に来ないかという言葉が、一瞬それはまるでプロポーズみたいだと勘違いしてしまった自分が恥ずかしかった。



八神さんは率直な人なので、もし求婚するなら、それならそうとハッキリ伝える筈だ。


そうではない以上、変な期待は持たないようにしなければ。


ついて行くとしても、あくまでも家政婦というお仕事をしに行くのだ。


容子はそう自分に言い聞かせた。

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