ギルバード参戦
「ファイアワークス!」
ギルバードが得意の炎魔法で敵を蹴散らして道を拓いて、マリスとサンドラに接近を試み。が、いかんせん敵が多すぎてままならない。
ガクベルトはターゲットをマリスとサンドラに接近するサンダーバードに絞って丁寧に弓矢で撃ち落としている。
クライドはサンドラに怒られたガトリングガンを使うのを中止して、何かを組み立てている。
(傍目から見ると、マリスとサンドラの戦い方はまるで異質なのがよく分かる)
サンドラは基本、地に足をつけて踏ん張り、自分の背丈ほどある大龍牙刀をぶん回してる。デスナイトに盾で防がれてもお構いなし。盾を砕けずとも、勢いで相手の態勢を崩して返す刀で更に進もうとする。敵の数が多すぎるので殆ど前進はできていないが、その様子はまるでブルドーザーだ。
マリスはというと、ほぼ地上には降りない。デスナイトの盾、時には頭を足場にしてジャンプを繰り返しながらレイピアとソードブレイカーを振るう。細身の剣を活かして盾の隙間を縫うようにデスナイトを切りつけたり、空中のサンダーバードを撃墜している。
(俺も魔法で少しなら宙に浮く事は出来る。盾の足場を踏み渡るだけならなんとかなるかもしれないが、敵は盾だけじゃなく剣も持ってるからなぁ。着地の瞬間に脚を薙ぎ立てられそうだ)
ギルバードが感心したのも束の間、何体かのデスナイトがマリスの次の着地を狙って剣を振りかぶっている様が見て取れた。
「やはり着地を狙われてる、やばいか。………だがここからでは間に合わない」
ギルバードは少しづつマリスとサンドラに近づいてはいたが、まだ距離は残っている。今いる場所から魔法を使うにも射線上に敵が数多く阻害されている。
歯痒さと祈りの気持ちが交錯するギルバードの目に映ったのはマリスの方に勢いよく飛んでいく矢だった。
矢は物凄いスピードでマリスのすぐそばのサンダーバードに向かっていく。マリスは予め知っていたかのように慌てる様子は微塵もなく矢が獲物へ到達する直前に左手で掴んだ。そして矢の勢いを利用して体を入れ替えて自身に向けられた剣を回避する。
ギルバードはあっけに取られるが、すぐに我に返り放たれた矢の元方向に視線を向ける。この戦場であんな矢が撃てるのはただ1人のはず。一応の確認だったが、やはりそこにはガクベルトがいる。
「よく見るとガクベルトが強弓に持ち替えているな。マリスの体重を引っ張るための強弓? つまり今のは偶然じゃなく、示し合わせたうえでのコンビ技というわけか……」
感心するギルバードをよそにマリスとガクベルトは変わったことなど無かったかのように戦闘を続けている。
(アクロバティックでリスクの高い行為に見えても、2人とってはごく普通のことで全然驚きとかないんだな。祈るような気持ちになった俺が馬鹿みたいだが、それだけ頼もしい味方だと考えよう。……俺も負けてられないな)
なんとか戦闘の騒がしい場でも声を張らずに会話ができる程度の距離までギルバードが近付いた。
マリス「ギル、アイシスとアーニャの容体はどうなの?」
サンド「ギルがここに来たってことは当然、無事なんやろなぁ?」
ギル「ああ問題ない、2人が時間を稼いでくれたおかげで回復は上手くいった。まだ意識はないが、じきに目を覚ます。なので、ひとまずカロさんに任せて俺はこっちに来た」
3人はデスナイトとサンダーバードと戦いながら会話を続ける。
ギル「それより2人とも疲れは溜まってないか? 問題ないようなら申し訳ないが、もう少しこのまま耐えて貰いたいんだが……」
マリス「私は大丈夫。サンドラはどう?」
サンド「俺っちも大丈夫や。けどなんや、ギルは援軍に来たんやないのか」
ギル「ここに来る途中、黒と青のモンスターボックスの様子を観察していたんだが、今もデスナイトとサンダーバードは湧き出てる。結果、倒した分が補充されるので敵の数が減っていない」
マリス「うん」
サンド「結構倒したはずなんやけどな。減らないどころか敵は増えとるわ」
倒すより増える速度が上回っており、敵が増え続けている現状をサンドラとマリスも十分承知していた。
肉体的だけでなく心理的にもタフな状況だがパーティーには時間が必要で、自分たちが耐え忍んでいれば仲間がなんとかしてくれるはず、という信頼は揺らがなかった。
マリスとサンドラの能力の高さだけでなく、これまでパーティーが切り抜けてきた修羅場の数、経験の豊かさからくる自信の表れでもあった。
ギル「それでだ、モンスターボックスから敵が無限に湧くのか有限かは不明ながら、このままでは埒が明かないので一気にケリをつけようと思う。本命もまだ残ってる事だしな」
ギルバードはロープロスの転移魔法で姿を現したのち、そのまま特にアクションは起こさず、空中を漂っている方舟ドラゴンを見上げた。
サンド「アイツ、さっきからずっとああやって俺っちたちの様子を観察してやがる」
サンドラ、マリスも方舟ドラゴンに視線を移す。
ギル「話を戻すが、大きめの範囲魔法でデスナイトとサンダーバードには退場してもらう。その準備を時間を俺にくれ」
サンド「わかった。俺っちは問題ない。マリスもええな?」
マリス「OKよ。やりましょう」
サンド「決まりや。ギル、時間は稼いだるからたっぷり利子つけて返してもらうで」
ギル「ありがとう。準備が終わったら合図をするので俺のところに集まってくれ。魔法に巻き込まれないように防御領域を展開するから。あとこれを渡しておく」
ギルバードはカロットワーフから預かったポーションをマリスとサンドラそれぞれに投げてパスをする。
ポーションを受け取った2人はその場でキャップを外して飲み干す、するとこれまでの傷と疲労が回復した。
「さあ、もうひと暴れふた暴れしたるでぇー」
サンドラが雄叫びのような大声をあげながら、ブルドーザーのような戦闘を再開した。
<マリスとサンドラがポーションを飲み干した同刻>
「ホイホイホイホイホイホイ偶に蹴り」
カロットワーフは独特な掛け声を発しながら軽いフットワークで敵から逃げ回っていた。
50歳に近く一線から退いてはいたカロットワーフは過去に前衛職を務めた事もあって全く戦えない訳ではない。だが今は覚醒していないアイシスとアーニスの2人を抱えて両手が塞がっているため、極力戦闘は避けた。
正面にデスナイトが立ち塞がった時だけ、止むを得ず敵を蹴りで排除して行く道を確保した。
女性2人を抱えたカロットワーフの足は速くないが遅くもない。
幸いなことに重装のデスナイトの足は速くないため逃げに徹したカロットワーフが追いつかれる事はない。
もともとカロットワーフ達のいた場所はマリス達から少し離れており、ギルバードが回復の施術を行っていた頃にはモンスターに襲われる事はなかった。
それがモンスターボックスから敵が湧き続けた結果、今や直ぐそばにまで敵が侵食するに至っていた。
安全確保のため、カロットワーフはマリス達と更に距離を取ることにした。