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新たな敵

クライドの火炎弾による絨毯爆撃(じゅうたんばくげき)の威力は凄まじかった。

ロープロスと離れて戦闘を展開していたマリスとキュクロプス2体は爆発こそ巻き込まれなかったものの、周辺に煙が充満して視界は数センチ先が見えなくなった。

ガクベルトとクライドによる奇襲について、マリスやサンドラは事前に知らされていたわけではない。しかし、2人とも直ぐに状況を理解した。奇襲はギルバードが好む戦術だし、この煙には見覚えがあった。


(相変わらずクライドは限度ってもんを知らへんなー)

口には出さないが呆れつつもサンドラに心のスイッチが入る。

「サンドラは赤!」

マリスが叫んだ。


「おう。大地を揺るがし 雷鳴を轟かせ、月下大龍牙刀!」

サンドラはマリスへの返事と同時に大龍牙刀を振るい、キュクロプス(赤)に襲い掛かる。

陰陽(いんよう)交わる月夜を切り裂いて 騎士団の剣 流水の如く、ストレートフラッシュ」

サンドラに声掛けした直後、マリス自身もキュクロプス(青)に向かって攻撃を放つ。

月下大龍牙刀はサンドラの愛刀である龍牙刀を上段から三日月を()した太刀筋の技。

ストレートフラッシュはマリスのレイピアに風属性の魔法を纏わせ、リーチと威力をアップする技でそれぞれ2人がここぞという時に繰り出す必殺技だ。


これまでマリスは時間稼ぎを念頭に防御重視でローリスクのヒット&ウェイの動きに徹していた。目論見通り時間稼ぎこそ出来ていたものの、逆に言えばキュクロプス2体とその図抜けた耐久力、更にロープロスの回復魔法の組み合わせを前にはそれが精一杯。ダメージを与えては回復されるイタチゴッコを繰り返すだけしか出来なかった。それはマリスにとってあくまで必達の最低ラインであり、満足できるものではなかった。

そんな状況下で、クライドの加減を知らない火炎弾群で煙が充満したのを好機ととらえ、マリスは一気に勝負を決めにかかった。


サンドラにしてもマリスとキュクロプスの戦いをただ眺めていた訳ではなかった。

身体を休めつつ冷静さを取り戻して、いつでもマリスのフォローに入れるよう力を溜めて時を待ち構えていた。

無論、煙に見覚えがあって瞬時に状況を理解出来ても視界阻害が緩和される訳ではない。下手をすれば大技で最悪の同士討ちを誘発しかねないのだが、マリスとサンドラの2人は頭の中に空間を描いてこれを回避し、混乱でショートフリーズしているキュクロプス(赤)(青)の2体の打倒に成功した。

ガクベルトから、クライド、マリス、サンドラへと続く、パーティー『真円の砂時計』が積み重ねた経験値を物語る息の合った攻撃だった。


マリスとサンドラがそのまま視線をロープロスに向ける。

「なーかーなーかー、やりますねぇ。いや、おーみーごーと、と称賛すべきでしょうかね」

キュクロプス2体を倒されてもロープロスに焦っている様子はない。

「皆様の見事なチームワークも拝見できたことですし、今日のところはこれでお暇させて頂くことも考えました。ですが、そろそろ回復作業も区切りのつく頃でしょうし、もう少しだけお付き合いいただくとしましょうかね」


「ほおーー、いよいよボスが相手してくれんのか」

サンドラが煽る。

「いーえー、わーたーくーしーがお相手するよりクライマックスはスペシャルなメニューをご用意いーたーしーまーす」

ロープロスが短い首を振りながら言葉をつなげる。

「サーンードーラー様たちのご期待に応えて質はもちろん量、更にはインパクトも兼ね備えた軍にてお相手させて頂くとしましょう」

そういうとロープロスは宙高く浮かび上がりパーティーから距離をとったうえで転位魔法の詠唱を始めた。


すかさずガクベルトが再度3連矢を放つが、やはり直前で見えない壁に阻まれてロープロスにはヒットしない。

クライドはターゲットが高位過ぎて届かないと判断して今度は火炎弾を投げなかった。

「あれはさすがに届かない」


やがてロープロスが詠唱を終えると黒の大きな球体がゆっくりと姿を現す。

「あれは、もしかして……」

カロットワーフが呟く。


完全に姿を現した球体の側面ハッチが開いて剣と盾を装備した骸骨兵の大軍が降りてくる。

「やはりモンスターボックスか。出てきたのは……デスナイト」

「カロ爺、モンスターボックスって?」

サンドラがカロットワーフに尋ねる。


「多数のモンスターを収容している物体、いうなれば箱じゃな。形は直方体だったり様々らしいが、球体はワシも初めてみるわい」

ロープロスは詠唱を続ける。

今度は青の球体が現れて側面ハッチが開く。同時に鷲に似た鳥型モンスターたちが宙を舞う。

「今度はサンダーバードのお出ましじゃ。かなりのスピードで飛ぶだけでもやっかいなうえ、名の通り、雷を落としてくるから始末が悪いぞい」


既にマリス、サンドラがデスナイトと交戦状態に突入しており、ガクベルトも弓矢でフォローに入る。

「マリス、サンドラ。見て分かる通りデスナイトはアンデッドじゃ。スキルによる特殊攻撃はなく剣と盾でオーソドックスな戦闘を展開してくる。地味じゃが侮るでないぞ」

「はい」

短く返事をしたマリスがサンドラとデスナイトを倒していくが、いかんせん数が多いのと意外に盾が邪魔をする。


武装しているモンスターとの戦闘は珍しい。それでも剣は牙や爪の延長と考えれば対処は難しくない。だが盾を手に持って前面に押し出し、しかも多数で纏まって圧力をかけてくる戦闘は初めての経験が一行を戸惑わせる。

クライドのガトリングガンの弾丸もかなりの数が盾の壁に阻まれた。

はじかれた弾丸の一部がマリスとサンドラを襲う。マリスはソードブレイカーで弾き、サンドラは足元に着弾したため、かろうじて事無きを得た。


「うわっ、あぶねえ、バカクライド!デスナイト相手にガトリングはもう使わんでええ! しっかし、これまで硬い甲羅や鱗で防御力の高い敵はいくらでもおったけど、盾がこんなに厄介なもんやとは知らんかったわ」

そう言ってサンドラはクライドの方を見た。

マリスも表情は変えないものの無言でクライドの方に顔を向けた。


距離が離れているのでクライドに2人の声は聞こえてない。しかし跳弾で混乱する様、直後にサンドラがクライドのいる方に向かってなにやら喚いている様子は遠目でも見て取れた。

「やっべー、サンドラの奴、激おこっぽいな。マリスもこっちを睨んでる気がする。……ガトリングガンはちょっとやめとくか」


跳弾でマリスとサンドラが混乱しても敵の攻撃が止むわけではない。サンダーバードは空中から参戦して雷を落としてくる。

盾の圧力を受けながらも何とか雷を回避していたがついにサンドラが避けきれずに感電した。

「サンダーブレスを吐く龍牙族サンドラ様に雷攻撃が効いてたまるかいな!」

そう言って強がってみせるサンドラだったが雷耐性はあっても完全無効化とまではいかず、落雷を受けると動きが止まってしまう。その一瞬の隙をデスナイトに押し込まれる。

ダメージが蓄積していく。


マリスはというと、押し寄せるデスナイトの盾を踏み台にジャンプして宙高く舞い上がり、サンダーバードを切り落としていく。少し離れたところからガクベルトも弓矢で丁寧にサンダーバードを撃ち落とすが数が多すぎて減っている気がしない。善戦はしているが多勢に無勢で次第に旗色は悪くなっていく。

デ スナイト、サンダーバードを呼び寄せた後もロープロスの詠唱は終わらなかった。


「灰に染まる空間の王 夜見の扉を開き 我が声と響きと共にこの地に手繰り寄せん、イズローケイト」

今度は球体ではなく胴体が舟、頭が龍のような巨大モンスターが姿を現す。

「カロさん、あれは?」

「……わからん。あれはワシも初めてみるモンスターじゃ……」

ギルバードの質問にカロットワーフが若干申し訳なさそうに答える。


ロープロスがしたり顔で口をはさむ。

「博識で名高いモンスター爺様も、さーすーがーにご存じないようですので教えて差し上げましょう。彼は方舟ドラゴン、災害のモンスターです。このダンジョンの主で本来はもっと下層に棲むのですが、皆様のとーくーべーつーな歓待のため、お呼びしました。つーいーでーに申し上げると、別名で魔王の使者と呼ばれる程の強者ですのでおーきーをーつーけーください」

 

「お前さんに爺様と言われる筋合いはないぞぃ。それより災害のモンスター、とはなんじゃ?」

「うーふーふーふー、それはー見てのお楽しみです。是非このあと実際にご体験くださいませ」

「笑う時くらい、普通に笑うもんじゃ……」

歳のせいかカロットワーフはモンスター相手でも説教っぽい言動になってしまう。

「そーれーはー、吾輩(わがはい)の自由ですよ」

 

(MB:ギル、アイシス・トーマとアーニス・ナートの回復作業が完了しました。まだ両名とも昏睡状態ですが、しばらくすれば自発覚醒に至る見込みです)

ギルバードにしか聞こえないMBのメッセージに反応したようなタイミングで、ロープロスがギルバードの方に顔を向け話しかける。

「わーがーはーいーの用意したカードは全て切りましたので一足先に失礼させて頂きます。そろそろギルバード殿の回復作業もひと段落つく頃でしょう。そうなれば新円の砂時計フルメンバーで存分にお力を発揮頂きたいと存じます。そのうえで、もし皆様がご健在でしたら後日お目にかかる機会もあるかと存じます。それでは、さーよーうーなーらー」

そう言い残すとロープロスは執事がよくやる「かしこまりポーズ(ボウアンドスクレープ)」をとり、転移魔法を唱えてその場から姿を消した。


「おわっ」

その直後、姿を消した高所ではなくカロットワーフの目と鼻の先にロープロスの顔が現れた。

どうやら平面的なホログラムのようなものらしく実体ではない。カロットワーフが愛用のストック(杖)を突き立てるが抵抗なく突き抜ける。

「おーつーたーえーするのを1つ失念しておりました。真円の砂時計の皆様がいらっしゃる前にやってきた冒険者パーティーは3組。1組は先ほどの友釣りに利用しましたが、残りの2組は生餌としてダンジョンの別室に捕らえてあります。まーんーがーいーちー皆様が生き残ることがございましたら賞品として差し上げます。良かったらお持ち帰りくださいませ」


「生餌として捕えてる、という事は無事なんじゃな?」

カロットワーフが確認の念を押す。

「ぶーじーかどうかは保証しかねますが、活きは悪くないですよ。でないと生餌になりませんので。それでは今度こそ本当にさィなら~」

そういってロープロスのホログラムは消えた。

「まあ、どっちにしろやることは同じじゃわい」


そしてギルバードがすぐに動き出す。

「カロさん、奴が言った通り回復作業は今終わった。じきにアイシスとアーニスが目を覚ます。なんとかそれまで2人を守ってくれ。俺は戦闘に参加してマリスとサンドラのフォローにまわる」

「ふぉふぉふぉ、中年をコキ使いよるのぅー。よし、2人のことはワシに任せておけ。ギル、お前は思う存分やってくるんじゃぞ!それと……」

カロットワーフは喋りながら袋からポーションを取り出す。

「サンドラとマリスの分のポーションじゃ。2人とも常備分は既に飲んでしまっているかもしれん。あとこれはお前の分じゃ」

カロットワーフはそう言ってポーション×2とマジックポーション×2を手渡した。


「さすがお見通しだな。ありがとう」

ギルバードはマジックポーション×1をその場で飲み干した。


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