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カース・ロープロス侯爵

4人の前衛のうち2人が瀕死の状態。その回復に全力を注ぐギルバード。回復時間を稼ぐべくサンドラとマリスが踏ん張っている。

 

「しーんえーんのすーなーどーけーいの皆様」

素人のオペラのような(しゃく)に障る声が響き渡る。いつの間にかキュクロプスの後方に鳥龍型のモンスターが立っている。

(確か言葉を話すモンスターということは魔王かそれに近い存在のはずだが、初めてだな。しかし、なぜこんなところに?)

回復魔法を施術しながらギルバードは様子をみていた。


「わーがーはーいーはカース・ロープロス……侯爵です」

モンスターはサンドラ、マリス、ギルバード、クライド、ガクベルト、カロットワーフの順に視線を投げかけ言葉を繋ぐ。

「こーのーたーびーは……」


「イライラするから普通にしゃべれや……」

サンドラが割って入る。背中のダメージで不機嫌なのかツッ込みというよりチンピラの野次(やじ)のようだ。

「わーがーはーいーはカース・ロープロス侯爵である。この度は皆様を迎えるにあたって趣向(しゅこう)を凝らしてみたのだが、お気に召したかな?」

ロープロスはサンドラの野次(やじ)を無視して話を進めた。


趣向(しゅこう)とは?」

クライドが尋ねた。

「みーなーさーまーより先にやってきたヴェールとかいう冒険者パーティーを全滅させたのですよ。人類には捕まえた魚を囮にして次の獲物を狙う友釣(ともづ)りという技法があると聞いております。それに倣ってみたのです」

ロープロスが得意気(とくいげ)な顔をした。


「本気なんか、ジョークなんかわからんけど、どっちにしても胸糞(むなくそ)悪いわ」

ロープロスの言動に対してサンドラがあからさまに不機嫌になる。口には出さないがクラウドも同様だった。

「うーん、どうやらお気に召さなかったようで人類は難しいですね。まあ良いでしょう、挨拶が済んだところで戦いを再開しましょう」


「キュークーロープースさん達、2体で協力して片づけてしまいなさい」

そういってロープロスは転移魔法を詠唱した。すると先の青系の体躯をしたキュクロプスに加えて赤系の体躯の2体目が姿を現す。

「上等や、さっきは油断して弾き飛ばされたけど、今度はそうはいかねぇ」

そういって前に出ようとするサンドラをマリスが制して前に出る。


「私がやります」

「マリス、こいつムカつくわ。俺っちにやらせろ」

マリスの手を払って強引にサンドラが前に出ようとする。

「いいえサンドラ、敵も増えたことですし、2マンセルで一緒に戦ってもいいのだけど、貴方は少し冷静になった方が良いです。壁に叩き付けられたダメージもあるでしょう、まずは私1人で戦います」


「さっき弾き飛ばされたのはちょっとした油断やしダメージも問題ない。問題ないけど、こういう時のマリスは言い出したら聞かんからな。ええわ、しばらくおとなしく見てる」

サンドラを下がらせるとマリスはキュクロプスの方へ歩を進める。

右手でレイピアを抜き、指揮者のタクトのような素振(そぶ)りで感触を確かめる。そして左手にソードブレイカーを(たずさ)え戦闘姿勢に入る。更に距離を詰め、キュクロプス2体の間を割って入り自ら挟撃を受ける位置取るとキュクロプス(赤)に向かって大きくジャンプして襲い掛かる。


キュクロプス(赤)は棍棒を強振するが、マリスは振り下ろされる棍棒にソードブレイカーをひっかけて軌道から体を逃がす。

それでも巻き起こる風で体が飛ばされるが、対面のキュクロプス(青)を足場にして耐える。風が止む瞬間に再度ジャンプしてレイピアでキュクロプス(赤)を斬りつける。

その動きは三角飛びのような形だが風の浮力作用もあって見ている者に空を舞っているような錯覚を与えた。

マリスの剣舞はキュクロプスに深手には至らないまでも確実にダメージを与えていく。


「陽光を(さえぎ)るオブシディアン、(あか)き葉浮かぶ泉の水面、暗光の理をもって闇の御子(みこ)を、我らを癒したまえ、ダークヒール」

後方で静観していたロープロスが闇の回復魔法を詠唱するとキュクロプス2体の傷が治っていく。

与えていたダメージが表層的なものの為、回復も早かった。


「すーばーらーしい剣舞です。ですがその程度のダメージでは、あっという間に回復出来てしまいますねぇ」

マリスはロープロスの皮肉には応えず無言のまま再度キュクロス2体に斬撃を加え続ける。しかしある程度ダメージを与えたところで、またロープロスが回復する。それをいたちごっこのように2回程、繰り返す。


(一見マリスは無策に同じことを繰り返しているようだが違うな。俺が頼んだ時間稼ぎを黙々と、そして確実に遂行してくれている)

マリスと冷静さを取り戻したサンドラの戦い方をみて、ギルバードは頼もしく感じていた。

(おかげでアイシスとアーニスの2人もあとちょっとでヤマを越えそうだ。とはいえ、こんなアクロバティックな事をいつまでも続けさせるわけにもいかんな、いくらタフなマリスとはいえ限界がある)


回復魔法の施術を続けながらギルバードがカロットワーフに耳打ちする。

「カロさん、皆にポーションを配るふりして、鳥龍型モンスター目掛けてガクベルトに矢をが撃たせてくれ。更にクライドには炎弾で追撃を。但し、双方狙いはつけずに不意をつく形で」

カロットワーフはすぐにガクベルトとクライドに近づき、ギルバードの指示を伝えた。


ガクベルトとクライドの行動は早かった。というより2人ともマリスが戦っているのを見ながら、どうやって戦闘に加わるか機会を(うかが)っていた。そこにカロットワーフを介してギルバードの指示が来たのだから背中を押されたようなものだった。

ルーティンのようにロープロスが回復魔法の詠唱を始めた瞬間、狙いをつけた精密射撃ではなく不意を突く形でガクベルトが3連の矢を放つ。

だが、矢はすべてロープロスに当たる直前で見えない壁に弾かれたように地面に落ちる。


「おーほっほっほっほー、さすがに防御くらいは……」

ロープロスが得意気に自分の防御魔法の説明を始めるが、間を置かずに続けさまクライドの火炎弾が10個ほど到達。凄まじい爆炎と黒煙があたりを覆う。マリスとキュクロプスは爆発に直接巻き込まれることはなかったが煙の拡散範囲は大きく、視野を塞ぐ。


「やったかのう?」

カロットワーフがギルバードに問いかける。

「ガクベルトとクライドの仕掛けるタイミングは完璧だった。3連矢が弾かれるのは見えたが、もしクライドの絨毯爆撃にも耐えたとすれば、敵の防御魔法もなかなかのものだな」

ギルバードは評論然で奇襲結果を観察していた。


「ブラックシルフィード。ごほっ、」

ロープロスが咳き込みながら風の魔法を唱えて自身周辺の黒煙を吹き飛ばす。

「火炎弾群にも耐えたようじゃのう、ダメージも受け取らんようじゃ」

「ああ、だがさすがはサンドラとマリスだ」

鳥龍型モンスターに焦点を当てていたカロットワーフは頭が一瞬「?」となったが、マリスとサンドラ周辺の黒煙が収まるにつれ、ギルバードの(げん)を理解した。


マリスとサンドラの足元には両断されたキュクロプス2体が横たわっていた。


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