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森に住む英雄

オーライン皇国とガンファール共和国の国境(くにざかい)に大森林がある。

森は生い茂る樹木だけでなく鉱物資源も豊かな土地ではあったが、凶暴な動物やモンスターも住み着いているため周辺に住む人々も立ち入らない。


しかし、中には物好きというか変人もいるもので、森の奥に小さな小屋を建てて1人の男が住んでいる。男の名はギルバード・ラインベッカといい、日常は狩りや樹木の伐採、薬草を摘む生活を送っている。家も身に着ける物も飾り気がほぼ無い。唯一の例外は月をあしらったチャームの付いたネックレスをしているだけ。

食事のほとんどは自給自足。狩猟で得た肉、キノコや山菜を主に食している。定期的に街に行って森で得た資源を売却し、得た報酬で乳製品や衣服、酒などを入手していた。

凶暴な動物やモンスターがいる森の奥でとれる資源は重宝され、その気になればそれなりの生活を送ることが出るはずだが、ギルバードはそういった欲が皆無で質素だった。


森に人が立ち入らない事はギルにとって必要以上に他人と交流を持たず済むため都合が良かった。といっても対話が苦手という訳でも脛に傷を持つ訳でもない。

名前も偽名を使ったり所在も隠してはいない。

実際のところ、ギルバート・ラインベッカが誰も近付かない森に1人で物好きな生活を送っている事は、近隣だけでなく少し離れた街においても知られている。

かつての話だがギルバードは大魔導士と称される程の冒険者だった。

広く世間に名を知らしめたのは15年前。


20ものダンジョン探索をやり遂げるなど、一路順風の冒険者パーティー『真円の砂時計』にギルバードは属していた。

メンバーにはギルバードの婚約者と実弟もいた。

ある日、当時のオーライン皇国王から依頼を受け、魔王討伐に旅立つ。

真円の砂時計は見事魔王を討ち果たすものの、この戦いで生き残ったのギルバード1人。

婚約者と弟、そして仲間の全てを失った彼は悲劇の英雄と呼ばれた。


オーライン皇国王は依頼に応えた英雄を厚遇で報いようとしたがギルバードはこれを辞退。

魔王討伐の結果だけを皇王とその側近に報告したのみで詳細は語らず、そのまま皇宮を去った。

魔王を倒したにも関わらず報酬を受け取らない無欲な英雄、婚約者とパーティーメンバーを失った悲劇、そこに詳細秘匿の神秘性が加わって、人々から多くの憶測と噂を呼ぶことになる。

結果として真円の砂時計とギルバードはある種の伝説となった。


ギルバードがこの森に住んで10年になる。

最初の頃は遠方からも腕に自信のある冒険者が伝説を確認すべく手合わせを望むもの、師事しようとするもの、単に一目見ようと訪れる者も少なくなかったが、数年で落ち着いて現在はそれもほとんど無い。

一般人は狂暴な動物とモンスターに跳ね返されて辿り着けない。

おかげで近頃は煩わしさから解放され、平穏な日々を送っていたのだが、この生活に終わりが近づいている事をギルバードは予感していた。


『悲劇の英雄』と並んで『大魔導士』という2つ名を持つギルバードだが、魔王との対峙以降、ほとんどの魔法が使えなくなっていた。

魔法の知識や技術は今でも人一倍豊富で長けている。だが今のギルバードには魔法の源である魔力がほとんどない。

例えるなら大パワーモーターを備える電気自動車と熟練した運転技術はあるのに、それを走らせる電池容量が極めて小さい。

実際、今のギルバードは初級魔法を2、3発動させるだけで魔力が尽きてしまう。


また、ギルバードの身体は歳をとらない。魔王と対峙(たいじ)したのが29歳で、以降一切歳をとっていない。

ギルバードが望んだ訳でもなく、そもそも不老(ふろう)を良い事だとも思っていない。

魔力喪失と不老、この2つの事象は魔王との契約に纏わるものだった。


<来訪者>


(MB:森に侵入者です。ガンフォール共和国側から2名の模様)

(俺にはまだ感じられないんだが………それにしても久しぶりの来訪者だな)


MBというのは自律対話型スキルAIの名称だが、内省的な存在なのでMBは他人から見えない。

元々は複数の魔法を同時に高い精度で運用するためにギルバードが編み出したものだが、魔力を失った現在、単なる相談相手となってしまった。

自律型スキルとはいえMBはあくまで魔法の1つなので、運用には魔力が必要なはずだが問題なく使えている。

理由は不明でギルバード本人も不思議に感じている。

とはいえ、森に1人で住んでいる身としては、とにかく便利で孤独の緩和にも役立つので助かっていた。

(最も不可解なのは、広範囲のサーチ(探索)魔法も魔力不足で俺は使えないのにMBは使えているみたいなんだよな。法則がよく分からんな)


「まっ、森に入ったばかりなら、ここに辿り着くのはまだ少し先だろう」

念のため周りを見回すが、あたりに人影はなく、おかしなところもない。

一応の警戒をしながらもギルバードは、今しばらく普段通り過ごすことにした。

 

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