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帰路

ロープロスの言葉を信用するならば行方不明となった3組の冒険者パーティーのうち、ヴェールの6人は全滅しているが、グリフォンとアルジョンは生存の可能性が残っている。

ギルバードが魔法でサンドラとアイシスの回復作業(立って歩ける程度)をしている間に他のメンバーで付近を探索する。すると案外遠くないフロアー奥の牢に囚われている2組を発見できた。

グリフォン7名、アルジョン5名。全員衰弱はしているが生命の危険はなさそうである。


「計12名というのは、クエストを受けた時のギルド情報とも一致しておるな」

カロットワーフとクライドが手元の資料と照合してみる。2チームとも全員生存しているようだが、念のためリーダーに確認を取る。

「グリフォンのリーダー、チェロック・ジーフスだ。パーティーメンバー7名とも生存。今回の救助には本当に感謝している」

「アスカ・イースです。アルジョンで一応リーダーをしています。ありがとう、おかげでうちも5名全員無事です」


グリフォンはランクAの男女MXの混合のパーティー。リーダーのチェロックは剣士。

ごつい体でいかにも頼りになりそうな前衛職。頑丈そうだ。

アルジョンはランクBの全員女性のパーティー。リーダーのアスカは武闘家、パーティー内で唯一ランクA。

物腰柔らかな女性だが、蹴られたら痛そうだ。

(※頑丈そう、痛そうというのはクライドの感想)


「これで今回のダンジョン探索は終了します。これからは地上への帰還を最優先に作戦を組み立てます。気の毒だけど、犠牲になったヴェールの6名を連れて帰る事は出来ません。ひとまず埋葬だけして後の対応はギルドに委ねましょう」

ギルバードが回復作業に追われているため、マリスがリーダーシップを取って意思統一を図る。

「ここは地下16階層ですが、とにかく10階層まで戻れば後は一気に戻る事が出来ます。それで良いわよね?クライド」

「ああ、いいぜ」

マリスの「一気に戻る」という意味が理解出来ずに、グリフォンとアルジョンのメンバーが微妙な面持ちをしている。

それを察して「心配せんでエエ、行けば分かる」とカロットワーフがフォローを入れた。


こうして真円の砂時計7名、グリフォン5名、アルジョ7名の合計19名が帰路に就く。

往路で粗方の敵を殲滅しているので、距離はあるが復路はほとんど敵と遭遇せずに済む。

グリフォンとアルジョンのメンバーの消耗を考慮してペースは抑えてゆっくり、おまけに1番の功労者と言って良いサンドラとアイシスが疲労困憊(ひろうこんぱい)だった事もあって途中で休憩も挟んだ。

人数は増えたが後は戻るだけ。水と食料は節約せずに消費した。

囚われの身だったグリフォンとアルジョンは勿論のこと、暖かい食事を全員でゆっくり摂るのは真円の砂時計のメンバーにとっても久々(ひさびさ)だった。


<地下10階層>


「やっと10階層に着いたニャー。お疲れニャん」

「おう、もう歩けん」

「こっからはクライド頼みや」

1番元気なアーニスが1番へばっているサンドラとアイシスに話しかけた。2人は既に座り込んでいる。


「そろそろ教えて欲して頂けないですか」

「そうだ、先程マリス殿とカロットワーフ殿が言っていた、一気に戻るとはどういうことだ?」

行けば分かる、と御預けをくらっていたアスカとチェロックが我慢出来ずに尋ねた。

 

「ま、慌てんなよ。一気に戻るってのは嘘じゃねーから、ちょっと休憩しながら待ってなよ」

クライドがそう言って、16階層でバラした砲水船の部品をベースにして何かを組み立てている。

忙しなく作業を進めるクライドの邪魔にならぬよう、その後はしばらく黙っていると具体的な形になってくる。


「平べったい骨組みにスプリングと車輪がついて……、台車?いや自動車か?j

「おー、ほぼ正解だぜ。動力源は俺の魔力だから自動車っていうより魔動車かな」

作業を8割方終えているクライドが手を動かしながら得意気に話を続ける。


「動力は魔力だが地面と接しているのはタイヤなんで、ある程度は道幅があって均されている必要がある。このダンジョンだと10階層以上でないと使えない魔道具だな」

「でもこんな便利なものはないですよ。問題はない?」

マリスがやって来てクライドに確認をとる。

「ああ、もうすぐ作業が終わる。ちーと定員超過だから乗り心地は悪くなるかも知れねーが、これで一気に帰れるぜ」


「ダンジョン内で車を組み立ててしまうなんて、他で聞いたことないです。『クラフトマスター』の異名は伊達ではありませんね」

アスカが感心して出来上がっていく車を眺めながら言った。

「使える物なら船だって車だって作るぜ。と言っても元は荷運び用に持ち込んだ台車を人乗り用に仕立て直しただけで大した事ではないさ、早い速度は求めてないしな」

大した事はない、言いつつもまんざらでもなさそうなクライド。


その様子を見ていた兄ギルバードが弟に釘を刺す。

「あまり持ち上げないでくれ。調子に乗るから」

「調子になんか乗らねーよ。ちゃんと謙遜もしただろ、ギル兄」

「ちゃんと謙遜って……」


「世辞でも持ち上げでもなく『クラフトマスター』なら俺も聞いたことがあるぞ。大魔導士の兄にクラフトマスターの弟、冒険者の間ではラインベッカ兄弟はセットでそれなりに知られていると思うぞ」

兄弟喧嘩を止めようとしてチェロックが口を挟む。

真円の砂時計のメンバーにとっては、日常的なじゃれ合い程度の認識で気にも留めない。

だが、慣れていないグリフォンとアルジョンのメンバーにとっては「ダンジョンで喧嘩するなよ」と思っていた。


そんなやり取りをしてる間に魔動車が組み上がる。

「よし完成だ。これからテストをして問題無ければ、いつでも行けるぜ」

加減速に制動、操舵などの基本動作テストを行って問題が無かった為、ポーターをしていて荷物の多いカロットワーフを中心に荷物を積んでいく。

自分で動こうとはせず、もはや座り込んで尻に根が生えているアイシス、サンドラも荷物のように積まれた。

運転手兼動力のクライドに加えて、荷物と乗員18名を乗せて魔動車が動き出す。

 

「クライド、これからの道中は舌を噛まない速度で頼む」

ギルバードの意図を直ぐに理解したクライドが「OK!」と返事をする。

「今回の冒険は色々あったけど、最後は楽しく帰ろう。早速だけどマリス、歌ってくれないか」

「いいですよ、ギル」

二つ返事で答えたマリスが深呼吸をした後、歌い始めた。


「……子守歌、いや鎮魂歌か?」

マリスが1曲目に歌ったのは「楽しく帰る」という言葉から連想する曲とは程遠い鎮魂歌だった。

故郷の街並みと家族を連想させる悲しいメロディーと歌声に皆が無言になる。目が潤んでいる者も何人かいる。

ダンジョン故に十分な弔いが出来なかったヴェールの冒険者に対するマリスなりの哀悼なのかもしれない。

2曲目は一転して明るくアップビートで疾走感のある曲を歌い始める。最初は1曲目と2曲目のギャップに適応できなかったものの、少しするとマリスの唄声に合わせるように周りがコーラスを担って一緒に盛り上がる。


冒険者としてダンジョンに足を踏み入れる以上、生と死は隣り合わせ。覚悟はしていたはずだが、身近な出来事として接するとその事実が重くのしかかる。

特にグリフォンとアルジョンはヴェールのように全滅していてもおかしくはなかった。

言ってみれば魔物の気まぐれで、ヴェールは全滅させられ、自分たちは囚われの身で、運良く真円の砂時計に助けられた。

ほんの僅かな差が大きな結果の違いにつながっている。悲しい歌と明るい歌の両方を聴いて、今更ながら生きて帰れる事へ感謝の念が強くなる。


魔動車で10階層から地上を目指したが特にトラブルは起きず、無事地上に辿り着いた。

疲労を考慮してその日はダンジョンから1番近い村に宿泊した。翌日はラズファンの街まで戻ってギルドに顔を出して、クエストの終了など最低限の報告を行い、グリフォンとアルジョンのメンバーとはここで解散することになった。


「最後にもう1度礼を言わせて欲しい。ありがとう!真円の砂時計。グリフォンとそのリーダー、チェロック・ジーフスの名に懸けて、この借りは後日に必ず返す。困ったことがあれば何でも言ってくれ」

「借りを返すってまるで復讐でもするみたいですね」

チェロックにアスカが茶々を入れた。


「そ、そんなつもりは毛頭ない……。か、借りを返すとは100%良い意味で言っているのだ」

「分かってますよ。真面目な剣士は揶揄い甲斐がないです。冗談はさておいて、私たちアルジョンのメンバーも真円の砂時計の皆様への御恩は忘れません」

「気にしないでください。私たちはクエストとして遂行しただけだし、ダンジョンで困っていたら冒険者同士助け合うのは普通の事です。ねぇギル」

「ああ、その通りだ、マリス。だからその理屈でもし俺たちが困っていたら遠慮なく頼らせて貰う。その時は助けてくれ(笑)」

マリスとギルバードの配慮にチェロックとアスカが笑顔で「勿論だ」「はい」と答えた。カロットワーフたちもそばで頷いている。


最後にメンバーがそれぞれが握手をして「それじゃあ、また」と言って別れた。


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