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大魔法 その1

「さあ始めるぞ、MB」

(MB:ブーストしますか?)


「いや、今回はブーストじゃなくシークエンスでいく。それとこんな最前線で俺の守りまでマリスとサンドラに負担を掛ける訳にはいかない。だから戦闘と詠唱のパラレルで進める」

ギルバードが魔法をうまく制御するために自身のスキルAIである「MB」と話し、そのまま詠唱を始める。

「深紅のルビーに光差す時 灼熱の風の吹く谷 朽ちる新樹と爆火の唄 古の賢者が七階段を上る …………」


<同刻のクライド>


「よし、やっと水砲船が組み上がったぜ」

そう言うとクライドが離れたところにいるマリスとサンドラに目を向ける。

「もう少しテストと微調整をして……といきたいところだが、敵も増えてるしそんな悠長にもいかないか。実戦で使いながらなんとかするしかないな。ギル兄も参戦したことだし舞台は整った」


クライドは起動スイッチをオンにした。地底湖に浮かぶ水砲船は水を吸い上げる仕組みになっている。動力はクライドの魔力だ。

「この吸い上げた水を砲内で濾過して、ポーションと岩塩が混ざるようにすれば……弱聖水が出来上がる」

フューンというモーターのような音がして地底湖の水をどんどん吸い上げる。

「狙いはデスナイト!」


クライドが発射ボタンを押すと消防車の放水のように連続して水を送出するのではなく、圧力のかかった槍の水が放物線を描いて飛んでいく。

一発目はマリス付近のデスナイトの盾に当たった。それなりの衝撃は与えたものの盾で防がれたこともあってデスナイトは倒れない。少しずつ狙いをずらして2発目、3発目を発射したが結果は似たようなものだ。

だが、クライドは微塵も落胆していない。なぜなら元々水の槍そのものでデスナイトを打倒することは目的にしていない。

盾にあたった弱聖水は周囲に拡がり、直接被弾していない多数のデスナイトに拡散する。弱聖水を浴びたデスナイトは動きが数秒止まる。アンデッド相手限定ではあるが、これが盾を持った敵へのクライドなりの回答だった。


マリスとサンドラはというと、いきなり水の槍弾が飛んできたことに少し戸惑ったものの飛んできた方向にクライドと怪しげな器具(※水砲船のこと)、水を浴びたデスナイトの動きが止まったのをみて、クライドの意図を瞬時に理解する。

その瞬間の隙にデスナイトを斬りつけ、倒していく。

圧倒的多数の敵でも止まっていれば、盾をかいくぐって攻撃を加えるのは容易かった。


クライドは水の槍弾を次弾、次々弾がどんどん撃ち込む。それに合わせてサンドラ、マリスもデスナイトを斬りまくった。

水砲船の効果は絶大で、それまで倒す数よりモンスターボックスから湧き出る数の方が多かったデスナイトが減少に転じた。

このままギルバードの詠唱が終われば、と思われたが優位な展開はしばらくして終わりを告げる。

最初に異変を感じたのはマリスだ。


クライドが弱聖水を撃ちまくった結果、マリスの眼前にちょっとした水溜まりが出来ていたが、そこに閃光が走り「バチッ」という音が鳴った。

瞬時にマリスはそこから離れてサンドラにも警告を呼びかけようとしたが、既に間に合わない。

「ふぎゃー」

サンドラは感電して猫のような悲鳴を上げた。弱聖水は電解液としてサンダーバードの雷をよく通した。

サンドラは一度サンダーバードの雷を受けて以降、十二分に注意して上手く立ち回っていたのだが、意識外に加えて、クライドの弱聖水が広範囲に及んで避けきれなくなった。


「サンドラ、大丈夫?」

「何度も言わすなマリス。龍牙族のサンドラ様が雷攻撃でやられるなんて事はあったらあかんのや。だけど最初のより今の雷の方が痛かったわ、アホクライドのやつ」

今度も強がって悪態をつくサンドラだが、かなり痛かったようで本音が漏れる。


距離があって当のクライドには声は聞こえていなかったがサンドラが感電した様は見てとれた。

「もしかして弱聖水って電解液なのか。サンドラが凄い剣幕でこっちみて喚いてる気もするなぁ。まあマリスとサンドラの頑張りでデスナイトも結構減ったし、水砲船を使うのは中止にしてガトリングガンでサンダーバードを撃ち落とすのに専念しよ」


決断したクライドの行動は早く、ガトリングガンで空中にいるサンダーバード目掛けて撃ち始めた。

「ほう、弱聖水はよく電気を通すんじゃな」

別のところではデスナイトが減って少し余裕のできたカロットワーフがメモをとっていた。


「天空に映える業火は、全てを燃やし焦がす」

ギルバードの詠唱が中盤に差し掛かったころ、黒のモンスターボックスに異変が生じていた。

周辺の空気さえも震えていると錯覚させるほど小刻みに振動する。ズーン、ズーンという音が次第に大きくなる。


これまで途切れることなく湧き出ていたデスナイトの出現が止まる。

骸骨剣士の風貌はデスナイトと似ているがサイズは二回り、いや三回は大きい。盾は持たず、4本ある腕には全て剣が握られている。


「我、デスナイトアドミナル也。我、配下の仇を討つ」

そう名乗って4本の剣を振り回しながらマリスに向かって突進してくる。

途中には数体ものデスナイトもいても全く意に介さず、マリスへ一直線だ。

それをマリスが闘牛士のように躱す。といっても相手が大きくリーチも長いため、ソードブレイカーで相手の剣の軌道をずらして、かろうじてというレベルだった。


「おいおい、礼儀正しく名乗りを上げるのはええけど、味方を斬り刻みながら突っ込んで来たぞ。仇を討つと言いながら、やってることは無茶苦茶やんけ」

痛いところを突かれて腹を立てたのかは定かでないが、デスナイトアドミナルはターゲットをマリスからサンドラに変更して突進してくる。

サンドラは大龍牙刀で初撃を受け止めるも勢いのある巨体を止めきれない。なんとか吹っ飛ばされないよう踏ん張るが、前のめり状態でずるずる押されまくる。

ガクベルトもフォローの弓矢を連続で放つが、剣を盾のように使って上手く弾かれてしまう。


「くっそー、止められへん。骨だけのくせに暑苦しい奴やな。圧が強いわ」

マリスもジャンプしながら斬りかかるが弾かれて後方に飛ばされる。タダでは起きないマリスは飛ばされたついでと言わんばかりにサンダーバードを2羽ほど斬り落とした。

「汝の芯に今問う 何ものにも染まらぬ黒 情熱と憎悪の朱 定常と高貴の蒼 何れを選ぶか」

ギルバードの詠唱は終盤に差し掛かっていた。


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