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烏三課  作者: 千歳 翁
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第1話 悪意の果実 その12

「滑り台がある。それからブランコも」黒川は言った。

「ここの戸籍記録はどうなってる?仁藤」

「“スドウ”って人が住んでいたみたい。子供連れの三人家族。最後の登録は5年前で、北部から引っ越してきたときに戸籍を動かした形跡がある」

「不審な事件や事故の記録は?」

「無いわ、むしろ、無さ過ぎることが不気味なくらいには……」

「記録課はどうして気づかなかったんだ?」


葛城が言った『記録課』とは三課内部に設置された、異常存在に関連する記録を収集、整理する課のことだ。本来であれば、不審な記録は直ちに記録課へと情報が回され、存在が露呈した時点で対応する手はずになっている。

 しかし、仁藤が眺めるパソコンのモニターには、この家族がこの建物に引っ越した、それ以上の情報が一切掲載されていない。大都会帝都において、むしろこれほどまでに音沙汰の無い家族というのも怪しい。年中行事はおろか、どこかへ旅行へ行ったり、政府に必要な請求を出したりするということすらしていないのだ。


「俺の予想っすけど……」黒川はブランコを眺めながら言った。

「本人たちが気づかないうちに異常化した可能性がある」

「つまり、ここの住人たちは、何か別の異常存在に「やられた」ってことだな?」

「攻撃の意志があったかどうかは定かではないっすけどね」


黒川はそういいながら、ポケットに手を入れて何かを探し始める。


「だとすれば、汚染の源があるはずね」仁藤の言葉に、黒川は静かに頷いて同意する。

「建築物自体も汚染の対象になっている、というわけか」

「汚染の発生源を確認して、対処可能なら除去を試みて」

「了解」


 一次的とはいえ、仁藤が指示を出すのは、三課の隊員の身勝手な行為によって身に危険が及ぶのを避けるためだ。特殊な訓練を積み巫術を使用できるからといって、単独の行動はリスクが伴う。こうして外部の指示で行動することで、眼前の事象に冷静な対処ができるようになる。


「葛城さん」

「…ああ。“イヅナ”の出番だ」


 葛城の同意を得ると、黒川は懐から小さく折りたたまれた和紙を取り出す。


破魔はま波間なみまを解く狐霊よ、我が道を照らしたまえ」


そこに書かれた文言を静かに唱え、黒川がそれを宙に掲げると、紙は青白く光り輝く手のひらサイズの狐のような姿に変化した。懐中電灯をつけずとも、周囲を軽く照らすことが出来る程度には、十分明るい。愛くるしく宙を舞うその存在の正体は、精霊種しょうりょうしゅと呼ばれる、妖の中でも低位の存在だった。一部の妖は、こうして烏三課による作戦遂行に力を貸すことも少なくない。


「イヅナ、頼むぞ」


クゥン、と小動物のような鳴き声と共に、狐は空を舞いながら建物の全周を回る。彼女の仕事…確かめたことはないが、黒川はそれが雌だと考えていた……は、視界の確保と、侵入が可能そうな場所を見つけ出すことだ。

なぜ直接入っていかないのかと言えば、答えは容易だった。異常建築の場合、領域の外部に限定的に侵入するだけならばともかく、建物の中心部へと侵入することはかなりのリスクを伴う。もしも別の妖に遭遇した場合、三課の二人だけでは対処が難しい可能性すら存在する。そのために、こうして精霊を放って周囲を観察させるのである。


 イヅナは高く宙を舞い、光を放ちながら円を描いて移動する。その軌跡をなぞるように青白い粉が地面に落ちると、地面に人間の足跡が浮かび上がる。イヅナのこの粉は、「追い者」と呼ばれる、追跡の役割を果たす力が存在する。


「こちら葛城。足跡が出てきた。勝手口の方に伸びている。生体反応はあるか?」

「ないわ」


足跡は黒川たちがいる庭から、建物の裏側の勝手口の方へと延びていた。

 勝手口周りは雑草が生い茂り、植え込みも長いこと手入れがされていないようで荒れている。蜘蛛の巣がいくつか張られてさえいたが、時間が止まったかのように、そこには生物の影はまったく見当たらない。


 勝手口までやってきた二人は、再び仁藤に連絡を取る。


「かなり古い足跡っす」

「古い?」葛城が質問を投げる。

「それに、建物から出てきた跡がない」

「食われたか…取り込まれたか」葛城は小さくため息を吐いた。

「中で何があっても動揺しちゃいけないっすよ、葛城さん」

「今更俺に言うな」


 くぐった修羅場の数が違う、と葛城は漏らす。


「仁藤、残り時間は?」

「あと50分よ。二人とも、体や精神面に異常はない?」

「今のところは俺も黒川も大丈夫だ」

「なら、さらなる直下潜入ダイレクト・エントリーを許可するわ。ただし、安全な帰還と自衛のために、スサノオを起動するのも忘れないで」

『了解』


また筆が乗って来た。

よければブクマ登録拡散とかよろしくです。


大学院入試が大変。

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