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エピローグ

 隕石注意の標識でさえ、魔王と化したデルズには通用しなかった。やはりドルクやサリナをも凌ぐ力……正面からでは到底勝てない。


「どうだ、我が力は? 貴様の力も認めよう。が、今の我には敵わん。おとなしく降伏するなら悪いようにはせんぞ?」

「もし降伏したら、この国をどうするつもりだ?」

「決まっている。せっかく手に入れた魔王の力だ。見せしめにこの国の人間の八割を殺し、我が糧としよう。王族も皆殺しだ」


 笑いながらそんな事を平然と言いのける。脅しではない。今のデルズにはそれだけの力があるし、その力に酔っていた。戦争は力を試す絶好の機会――そう考えているのだろう。


「わかったよ」

「そうか。やはり賢い男だ」

「勘違いしないで。僕がわかったのは、お前がどれほど悪辣かってことさ。同じ血が流れていると思うだけで虫唾が走る」


 僕の答えを聞き、デルズの空気が刺々しく変わった。


「前言撤回だ。貴様は無能の愚か者だ。力の差もわからず反抗すると?」

「いや、力の差くらい理解してる。だから僕はお前にはつかないけど、この場からは逃げさせてもらうよ。標識召喚・サービスエリア――」


 標識が出現し、空間が開く。サービスエリアへ通じる道だ。


「じゃあね。ゆっくりお前を倒す作戦でも考えるさ」


 飛び込みざま、背後で「逃がすか!」とデルズの叫び。そのまま背翼をはためかせ入口を通り抜け、上空に陣取った。


「残念だったな。我がそう簡単に逃がすと思ったか?」

「むしろ好都合さ」


 僕はすかさず入口を閉ざした。僕が再び開くまで、ここからは出られない。


「空間が閉じた? どういうつもりだ!」

「助かったよ。挑発に乗ってくれて」

「……つまり、我を誘い出す作戦だったと?」


 沈黙が肯定を示す。


「ガハハッ! 面白い。で、ここに閉じ込めて国を救った気でいるのか?」

「そうじゃない。ここでお前と決着をつける」


 一本の標識を立てた。サービスエリア内でも標識は使える。


「魔王飛行禁止――」

「なッ!?」


 頭上のデルズが失速し、地面に墜落した。飛行禁止標識は指定した相手の飛行を封じる。


「小賢しい。地上戦なら勝てるとでも?」

「念のためさ。次の標識は地上にいるほうが効果的だからね」

「舐めるな、小僧! 我がブレスで――」


 デルズが隕石を砕いたあのブレスを放つ。僕は一方通行の標識を立て、ブレスを跳ね返した。


「ぐっ……だが魔王の肉体は貴様程度の技で――」

「だからとっておきさ。標識召喚・放射能標識(メルトダウン)――」


 刹那、デルズを中心に大爆発。閃光と衝撃にサービスエリアが揺れる。灼熱と爆炎は一方通行で跳ね返り、二倍になってデルズへ。


「グガァアアアァッ!」


 爆煙が晴れると、傷だらけのデルズが立っていた。


「はぁ、はぁ……これほどとは……だが我は滅びぬ。魔王の肉体があれば――が、ぐっ!」


 吐血し、目が虚ろだ。


「これは禁忌標識の真価さ。メルトダウンは爆発だけじゃない。放射能で生命を蝕む」


 デルズの身体が蝋細工のように崩れ落ち、骨と皮だけになった。


「――これが禁忌を犯した末路か」


 諦めにも似た表情で呟くデルズの瞳が僕を捉える。


「見事だ、マーク。お前の勝ちだ。我が一族も滅びる。嬉しいか?」

「どうでもいいよ。僕は村を追放された時点で自由だった。むしろ不自由だったのはお前たちじゃないのか」

「……皮肉なものだ。無能と思っていた孫に諭されるとは。だが、これで……自由に――」


 言い終えると灰燼と化した。恐らく魔王召喚を行った時点で、人の肉体はもう残っていなかったのだろう。


「終わったね――」


 デルズが消え、召喚師の村を率いた者は誰一人残らなかった。戦況はこれで一変するだろう。僕はサービスエリアを後にした。


 予想通り、ドルク・サリナ・デルズの死でカシオン共和国は反攻。弟のヘルトも参戦し、魔族も味方についたことでプロスクリ王国軍は総崩れとなり、停戦を申し入れるしかなかった。


 敗戦で王国の民衆の不満は爆発し、虐げられてきた亜人や魔族も蜂起。勢力図は塗り替えられていった。


「プロスクリ王国も、ずいぶん平和になったものにゃ~」


 フェレスが笑顔で言う。今、僕たちは依頼で久々に王国を訪れていた。街には多種多様な種族が和気あいあいと行き交っている。


「驚いたよ。新しい国王が魔族とは」

「けれど奴隷制度は廃止され、種族の垣根もなくなったにゃ」

「この平和が続くといいね」

「大丈夫にゃ。あたしとマークがいるにゃ!」

「いや、俺は?」

「ははっ、ヘルトも頼りにしてるよ」


 弟が照れくさそうに頬を掻いた。


「さて、依頼だ。暴れん坊の竜がいるらしい」

「あぁ。兄さんと一緒なら竜の一匹や二匹、いや千匹だって余裕だろう?」

「言い過ぎだって」


 三人並んで歩き出す。冒険者生活はこれからも続く。でも、この仲間となら、どんな未来もきっと楽しいに違いないよね。

これにて本作品は完結となります。最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

そしてただいま新作

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危険を告げる標識だからこそ 異世界では 逆に危険をもたらす  この逆転の発想が面白かったです 高速道路の標識達も面白かったです。
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