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第56話 変わらない家族

「胸騒ぎはしていた。」


 ヘルトの言葉がそれだった。どうやら僕が死んだことに疑いを抱いていたようだね。


「ヘルト、そのような顔をする必要はない。奇跡的に生き残っていたようだが、それがどうした? 標識などというわけのわからない召喚魔法しか使えぬゴミなど、恐れることはない」

「随分と馬鹿にしているけど、いまこうしてお前たちの動きを封じているのが、その標識召喚なんだけど?」 「なんだと?」


 ドルクの眉がピクリと反応する。


「何を馬鹿なことを。お前のような無能が、我々を足止めできるような召喚魔法を使えるものか」


 不快そうに眉を顰め、怒鳴り散らすドルク。奴らにとって僕という存在は、殺されかけたあの日で時が止まっているのだろう。だからこそ、僕の成長を認めない。認められない。


「別にどう思おうが関係ないよ。僕は生き残ってこの国に渡り、仲間ができた。それがお前たちの知らない真実なのだから」

「仲間だと? 貴様のような無能に仲間がいるというのか!」

「いるさ。今も一緒に戦ってくれている。お前たちがこっちに集中してくれたおかげで、ほかの仲間は随分と戦いやすいと思うよ」


 僕の言葉に合わせるように、ドルクが口角を吊り上げた。


「フンッ。どうやら我々を足止めしていい気になっているようだが、残念だったな。ほかの部隊には魔族が同行している。我々ほどではないにしても、十分な戦力になるだろうさ」

「なるほど。それで自信ありげな顔をしているわけか」


 魔族か。以前、潜入していた魔族もお前たちの差し金だったんだな。だけど、魔族がなぜ人間に協力なんてする?


「奴らも金が必要というわけさ」

「つまり今回も金のためにこの戦争に参加している、と?」「――そうだ」


 今の返答、やっぱり嘘が混じってるね。


「意外と顔に出るものだね。それは嘘だろう? 潜入していた魔族が言っていた。『自分だけが特殊だ』ってね。ほかの魔族は人間に協力しない。それなのにどうして魔族が協力している? ――仲間が殺されたからじゃないのかい?」

「フンッ。知っていてその態度か。性格の悪さが滲み出ているな。やはりゴミだ」

「お前にだけは言われたくないけどね」

「まあ、間違いじゃないさ。お前らに殺された仲間の仇討ちのために、奴らは参加している」

「それも嘘だ。僕らが何も知らないとでも? 死んだ魔族はほかにもいる。それが他の魔族を焚きつけた要因だろう」

「ベラベラとよく回る舌だな。だがくだらん話はもう終わりだ。サリナ! さあ、あのゴミをさっさと始末しろ!」


 そう言ってドルクがサリナ・サモナンへ顔を向けたが、当の本人は困惑した様子を見せている。


「……? どうした、サリナ?」

「それが、おかしいの。私はすでに死霊を召喚している。それなのに……どうしてあんたはまだ立ってられるのよ!」


 かつては僕の母だった女が、こちらを指さして叫んでいた。サリナの扱う召喚は死霊召喚魔法。死霊は不可視なうえ、対象を呪い殺すこともできるため、暗殺向きともされる。だが――


「悪いけど、多分その霊は僕に近づけないよ。動けないだろうからね」


 そう言った僕の背後には、“止まれ”と表示された標識が立っていた。本来は一時停止を示す標識。もっとも、どのくらい止めるかは僕のさじ加減次第だ。


「動きを止めている、だと? 馬鹿な! サリナの死霊は特別だ! 貴様なんぞに止められるものか!」

「止めているんだから仕方ない。でもこれでわかったよ。やっぱり魔族を殺したのはあんただろう?」

「くっ……お前、母親に向かって何なのよその口の利き方は!」

「母親、ね。よくそんな台詞を言えたもんだ。お前らは僕を息子と思っていない。こっちもとっくに見限ってる。そっちこそどうなんだい? あ、それとも僕の標識に妨害される程度の死霊じゃ、魔族を殺すなんて無理だったのかな?」

「――ッ! 馬鹿にして……! 無能の分際で! 私の召喚した死霊は一流よ! 魔族の一人や二人、あっさり葬り去ってやったわ!」


 興奮気味に言い放つサリナ。全く、単純で助かる。


「やっぱりお前らの自作自演だったんだな」

「そ、それがどうした! 今ここでそれを知ったところで、貴様はここで死ぬことに変わりはない!」

「それは御免被るけど、おかげで証言は十分とれましたね」「ああ。まさかとは思っていたが、こんな連中にうまいこと利用されるとはな」

「なッ! 馬鹿な!」


 突如、僕の隣に現れた青白い肌の男を見て、ドルクが驚愕する。彼の頭には角が生えていた。それを見れば、さすがに奴らも理解できるだろう。


「そ、そんな……どうして魔族がここに!」


 ヘルトが呆然と声をあげ、兵士や騎士たちもざわめき始める。本来なら、ここから随分離れた戦線にいるはずの魔族が、僕のすぐそばに立っているのだから――

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