第55話 追い詰められたのは――
プロスクリ軍は次の領地に向けて進軍を進めていた。これまでこれといった被害もなく有利に進んでいると考えたのかプロスクリ軍は特に考えもなく次の目的地まで最短で行ける山越えの直進ルートを進んでいた。
山に入り半日を過ぎたあたりで山間部にたどりついた。左右には切り立った崖。しかし幅は広い。進軍するに特に問題にならないとそう考えていることだろう。
「うん? 見ろ正面に何か立っているぞ」
「何だあれは? 何か書いているようだが……」
地面に立っていたそれをみて先頭の騎士たちが小首を傾げていた。騎士たちにはその文字が読めないのだろう。
「そんなもの無視しておけ」
「はい――あれ?」
「おいどうした!」
「それが、何かこれ以上前に進めなくて」
「まるで見えない壁があるようで全く進めません!」
プロスクリ軍が騒ぎ始めた。そのうちに剣を抜いたり槍を使ったりで突破を試みたようだが無駄なことだった。
「一体何事だというのだ!」
「ドルク様! それが見えない壁のようなもので阻まれていて」
「何?」
何事かと近づいてきたドルクは兵士の話を聞いて不可解そうに正面を見た。後ろにはヘルトの姿もあった。
「父様これは一体?」
「フンッ。どうやらカシオンが小細工を仕掛けてきたようだな。結界でも張ったのだろうがそんなものこうしてくれる!」
言ってドルクが杖を振り上げると魔法陣が浮かび上がり赤燐の竜が姿を見せた。
「消し飛ばせ」
「グルゥウウ――」
そして赤燐の竜が業火を吐き出した。圧倒的な火力に沸き立つ兵士たちだが、火竜の炎ですら見えない壁に阻まれてしまい攻撃が突き抜けない。
「何だと? 馬鹿などうなってる!」
「無駄だよ。そこから先は通行止めだからね」
頃合いだと思い、僕は懐かしい面々に向けて声を掛けた。崖の上の足場に僕は立っている為、奴らは僕を見上げる形となった。
「な、馬鹿な貴様は――マーク! 何故そこにいる!」
「クッ、やっぱり兄さんは生きていたのか」
「な、なんてこと――」
驚愕の顔で僕を見る三人を僕は冷ややかな目で見下ろした。こんな状況でも一度は家族と思った連中だ。一目見れば何か思うこともあるかもしれないと心配だったが杞憂だったな。
何せ僕は父であったドルクに殺されたかけたのだからね。それに母と弟からも冷遇されていたのだから情なんてものはこれっぽっちも残ってない。
「生きていただと? 貴様みたいなゴミが何故だ!」
父であったドルクは醜悪な顔で僕を見ている。母のサリナと弟のヘルトは驚愕の顔だ。そんなに僕が生きていたことが意外だったのかな。でもそんなことで驚いていたんじゃとても身が持たないと思うけどね――




