第28話 アグレイの疑い
「その召喚魔法は複数の効果を発動出来るのか?」
キリンが聞いてきた。戸惑ってる様子もある。
「召喚した標識の内容に沿った効果が発動出来ます」
「その標識というのがそもそもよくわからないのだが……」
ブレブが首を傾げながら呟いた。この世界に標識と言われる物がないからだ。
ただ似たような物はある。
「えっと道標や危険などを知らせる案内みたいな物といったところです」
何とか説明しようと既存の物を例えに出してみた。
「いまいちイメージがつかないわね……」
「でも確かに何か奇妙な絵柄が描かれた物が出てきてました」
マジュは眉をへの字にして困り顔を見せていた。
エベは召喚した標識を思い出すようにしながら誰にとも無く伝えていた。
「ま、どっちにしろ使える魔法なのは確かみたいだしな。心づぇ~じゃねぇか」
「そうにゃ! マークはとても頼りがいがあるにゃ!」
ナックルが素振りを見せながらニカッと白い歯を覗かせた。そしてナックルの意見にフェレスが賛同してくれている。
「……やっぱり怪しい魔法じゃねぇか。何かあったら真っ先にお前を疑うからな」
アグレイは終始態度が変わらない。それも仕方ないのか。
それから倒したマイルドボアを処理し解体後はそれぞれ持てる量を運ぶという話になった。
「結構大きいにゃ」
「あぁそれぞれ魔法の袋をもってはいるがそれでも入る量には限りがあるからな」
魔法の袋――見た目はただの袋だけど魔法の力でより大きな物が入るようになっている魔法具だ。
「肉をそのまま入れると匂いが心配なのよね」
「贅沢を言っても仕方ないじゃない」
マジュが眉を顰めユニーは割り切るよう諭していた。魔法の袋に入れると中では一緒くたになってしまうようだ。
「それなら僕の方で預かりましょうか?」
「うん? もしかして容量の大きい袋を持っているのか?」
「いえ。袋は持ってませんが召喚魔法で対応出来るので――標識召喚・荷物預かり所」
魔法を行使すると鞄の記された標識と一緒にカウンターとモニターが現れた。タッチパネルで操作すると解体されたマイルドボアがパッと消えモニターの預かり中に表示された。
「一体何が起きたんです?」
「グルゥ?」
アニーが目をパチクリさせウルも小首を傾げていた。標識召喚の力は僕自身最初に見て驚くほどの物だった。
第三者が見たなら不可思議な現象に思えても仕方ないかもしれない。
「マークの魔法の効果にゃ。魔法具がなくてもマークならアイテムが持ち放題にゃ」
「凄いじゃない。戦闘もこなせる上、支援まで可能だなんて」
「あはは、ただ標識によって出来ることは限られているので油断は禁物だね」
「ふむ。なるほどな。それでその標識だったか? 一体他にどんな効果があるんだ?」
ブレブが興味深そうに僕の魔法について聞いていた。ただこれは回答に困る質問でもある。
「現時点でも結構数が多くて……さっきのように直接攻撃できるのもあれば罠を仕掛けるようなタイプもあります。後は行動制限を掛けるのも多いかな」
「それ逆に一体何が出来ないの? と思えるような力ね」
「そうだな。例えばゴブリンを生み出したり操っったり出来てもおかしくない力だぜ」
マジュが苦笑しつつ感想を述べるとアグレイの難癖が割って入った。
「いい加減にするにゃ! 何でそんなにマークを疑うにゃ!」
フェレスが我慢ならないといった顔つきでアグレイに食って掛かった。僕が疑われるのが我慢ならなかったのか。
「てめぇらが疑われるような真似するからだろうが」
「僕たちは何もしてませんよ。召喚師として何が出来るか示しただけです」
「その何が出来るかが問題なんだろうが」
「いい加減にしろアグレイ。今の魔法だってこっちから頼んで見せてもらったことだ。文句をつける筋合いじゃないだろう」
沈黙を保っていたキリンが戒めるようにアグレイに言った。落ち着いた口調ではあるがどことなく有無を言わさない圧も感じられる。
「チッ、わ~ったよ。だけどなぁこいつらが何しでかすかわからねぇのは確かだからな」
「疑うなとは言わない。警戒心の強いのがいるのも大事だと思うが。しかしこれから一緒に戦うパーティー同士でもあるんだ。任務に支障を来すような発言は感心しないな」
「……ふん。あんたは甘いんだよ」
ブレブにも諭され一応は引く姿勢を見せたアグレイであるが不満そうな態度は変わらない。
とは言えこれでひとまず手打ちという事となった。フェレスは納得がいっていないようだけど僕も宥めておく――




