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プロローグ

 僕は召喚魔法を扱う召喚師の暮らす里で育った。この里で生まれ育った人間は多くが召喚魔法を扱える。


 その為、十二歳になると儀式を行い、どんな召喚魔法に適正があるか調べる事となる。


 僕の父親は里の長だった。故に父親からは随分と期待された。そして十二歳になり儀式を受けたわけだけど――


「標識召喚――それがご子息の扱える召喚魔法です」


 標識召喚――それを知った父親はかなり微妙そうな表情だった。何だかよくわからないというのが正解だったのかもしれない。


 なにせ標識召喚なんて魔法は里の歴史において一度も出てこなかった物だ。詳細がわからず何が召喚されるのかもわからない。


「がっかりだぞマーク」


 父親が僕の名前を呼びあからさまなため息を吐いてみせた。


「私の息子であればもっと強力な召喚魔法が扱えると思ったのだがな」


 父親からはそう落胆された。その理由は僕の召喚魔法が標識召喚という謎の魔法だったのもあるだろう。


 謎とはされていたが、言葉のニュアンスから物召喚にあたると考えられたのも大きい。召喚には様々な種類がある。獣系、幻獣系、竜系、霊系など様々だが、その中で剣や鎧など物を直接召喚する系統は召喚系の中ではランクは低いとされている。


 勿論中には聖剣召喚といった特殊なタイプもあるが基本的には下の下といった扱いだ。


 それもあって両親の僕への期待感は薄れていった。


 何より問題だったのは何度やってもその標識とやらが召喚されることがなかったことだ。


 これによりことさら父親の失望感が増すこととなる。更に言えば弟の事があった。


 僕にはヘルトというひとつ下の弟がいた。そして弟は次の年の儀式で英霊召喚という強力な召喚魔法を手に入れてしまった。


 英霊召喚は召喚魔法の中でも最上位に位置する物だ。故に里ではヘルトに注目が集まるようになりいつまで経っても召喚が発動しない僕は落伍者として馬鹿にされるようになった。


 母親もいつしか僕を無視するようになり父親はヘルトに甘く僕に対しては苛立ちを募らせるようになった。


 それから年月経ち僕が十五歳になったある日のことだ。


「マーク。お前が召喚魔法を使えるようになる為、この私が直々に指導してやる。さっさとついてこい」


 僕が十五歳になっても召喚魔法が発動することはなかった。故にしびれを切らしたのかもしれない。


 僕は父親に言われるがまま里から離れた場所にある森に連れて行かれた。そのまま山道に入り人気のない場所を歩かされた。


「ここがいいな」


 父親が選んだのは崖の上の足場だった。正直面積も狭く召喚魔法の練習に向いているとは思えなかった。


「そこに立て」

 

 父親に指定された場所に立った。数メートル後ろは崖だった。


「父様。どうしてこんなところで? 一体どんな訓練をするのですか?」

「――召喚」


 僕の質問への答えは父親の召喚魔法だった。父が扱うのは竜召喚魔法。文字通り竜を召喚して戦わせる魔法だった。


「え? 父様これは一体?」

「――お前にはほとほと愛想が尽きた。下位の召喚魔法というだけならまだマシだったが、召喚魔法そのものが使えないとなると我が里の名折れ。だから貴様は魔法の練習中に事故で死んだということにする。やれ」

『グォォォォォオオオオ!』


 父親の召喚した竜が口を開けた。明らかにブレスを吐くつもりだ。逃げようにも竜のブレスを避けられる程の幅はない。


 まさか冗談で? いや父の目は本気だった。本気で僕を殺す気なんだ。


 どうする、どうする――


 時間がなかった。後ろを見る。その先は崖だ。ここは大分高い位置にある。ただ、下は川だ。このまま黙っていれば竜のブレスで消し炭にされるだけだ。それならせめて一か八か――僕は崖に向けて走り出し思いっきり飛んだ。体が落下を始めるのとほぼ同時に炎が頭上を駆け抜けた。あと一歩判断が遅かったら丸焦げだった。やっぱりアイツは僕を殺そうとした――くそ、どうしてこんな目に……。






◇◆◇


「ふん。この高さから落ちたら助かるまい。まぁ竜に焼き殺されるか自ら命を断つかの違いだったわけだ」


 崖下を見下ろし里の長が独りごちる。そして笑みを深めた後、彼は竜の背に乗り里へと帰っていった――

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