☆6 帰還の香り
帰ってきたぞー
「か、カインーーー!!」
「おわっと……り、リシェーラ……」
学園に戻った俺を待っていたのは、白い羽を背に生やした天族の美少女からの強烈な抱擁だった。俺にぎゅーーと抱きついたリシェーラは、こちらの胸板に顔をすり付ける。
「よかった!無事に帰ってきてよかったわ!カイン、カイン、カイン、カイン、カインー!」
「ははっ。なんとか、ただいまーってぐるじぃ!!ぎぶぎぶ!!」
「……り、リシェ……功労者が泡を吹いて倒れてしまいそうですよ……それからお帰りなさい紘夜」
「嗚呼、帰ったぞ。嬢」
ぎゃーーーっと悲鳴を上げる俺を憐れんだ凪咲さんはリシェーラを嗜めると、そのまま自身の隣に来た紘夜先輩に微笑みかけた。
ちょ、待って。もっと助けて、ぐは。助けを求めた手は、伸ばされずにガクリと力を無くした。
「か、カイン!?やだ、しっかりしてカインー!」
「うん、けほ、だい、大丈夫……ちょ、あんまり揺らさないで。うわうわうわうわう」
「途中からは共にいることはできませんでしたが……、かすり傷くらいみたいですね。良かった……」
「嗚呼……大丈夫だ、問題ない……」
ちょっとそこ!と横にいる紘夜先輩と凪咲さんのほのぼのとした空気を少しくらいこちらに分けて欲しいくらいだった。
「あ……、そうだ。そういえばコレはどうしたらいいんだ?」
リシェーラに抱きつかれて一度気絶しかけた俺は、ポケットから紫色のカケラを、謝ってくる彼女の前に取り出してみせる。
それらを手に取って眺めたリシェーラは、「ふーん、初めてにしては中々“美味しそうな”カケラを取ってきたのね」と言って白金の髪を耳にかけて————、
「あむ……っ!」
「食べた!?え、ちょ、えぇ!?」
そのままペロリ。
ご馳走様と言うように、チロリッと舌が口角から僅かに顔を覗かせた。
「えへ☆」
「えへ☆じゃなくて!!!だ、大丈夫なのか?お腹とか壊したりしないの?」
「ふふ、うふふっ、カインってば慌ててどうしたの?本で読まなかったかしら?私たち星花は災妖星、もしくはダンジョンから取れたカケラを食して生きてるのよ」
「いや読んだけど!なんかもっとこう……違うのをイメージしてたっていうか……」
隣を見れば、凪咲も紘夜先輩から受け取ったカケラを口に入れて頬張っているところだった。本当にこのまま飴みたいに食べるらしかった。
「災妖星は私たちを食べて生きる。私たちは怪物のカケラを食べて生きる。簡単な話だわ」
ニコリ、と可愛らしい微笑みでリシェーラは俺を見上げた。それから何かに気が付いては、慌てたように両手を胸の前で小さく左右に振る。
「はわわ、違うの!ちゃんとカインと同じご飯でもお腹は膨れるのよ?だ、だけど星花はカケラを食べないと生きていけないのよ!だ、だから……」
「大丈夫。リシェーラを変な目でなんて見ないよ」
「……嘘だわ。私がさっきペロリしちゃったところを目を丸くして見てたもの!」
「い、いや!だって初めて見たらそりゃ誰だって驚くよ!?」
今度は俺が慌てる番になってしまった。
「ふーん?」
す ご い!! う た が わ れ て い る !!
「いや、本当だよ!?本当に驚いただけで……!!」
「ぷ、ふふ……ふふふっ、カインとっても慌てるのね」
「……うぐ……揶揄わないでよ……」
「ふふ、ふふっごめんなさい。だってカインがあたふたしてるから面白くて」
クスクス笑われてしまった俺は、どうしようもなくて首筋に手をやって空を見上げた。はぁ、どうやら肩を小さく震わせるリシェーラが笑い終わるのを待つしかなさそうだ。
空は、青い。
ダンジョンは外の世界と時間の感覚が違うらしい。
いつの間にか外の世界では朝が来ていた。
ダンジョンの消えた空には雲が漂い、鳥が風に乗って流れていく。そして太陽が眩しく輝いていた。
空気は新鮮で心地よく、体に取り入れるために何度か呼吸をするだけで生きている気分を与えてくれる。
「……本当、ダメかと思った……」
「カイン、今日、貴方は凄いことを成したの。まだ星巫になったばかりなのに、ダンジョンを攻略してしまったんだもの、学園の人達だってカインを見直したに違いないわ!やっぱり、カインは凄いのよ!……だから、少しだけでもいいから自信を持って……? ねっ?」
「攻略……か……」
曖昧に笑い返した俺は、いやでも災妖星を倒してダンジョンを攻略したのは先輩だし、俺は逃げて隠れていただけなんだけどなぁ、なんて捻くれた事を考えてしまっていた。
それに、ちゃんと帰って来れたのはリシェーラのおかげでもある。
「リシェーラ……、ありがとう」
「カインの凄いところ、ちゃんと分かってくれたの?もう!まぁ、でも、どういたしましてなのかしら?」
いやぁ、そう言われてもなぁ。
ううーんと口籠る俺の手を、リシェーラは引っぱりながら「そうだ!ダンジョンに行ってご飯食べてないんだもの、カインたちもお腹すいたでしょう?食堂に行きましょう」と駆け出す。白金の長髪がふわりと風になびいて俺の前で楽しげに揺れる。
花のような蜂蜜のような香りが俺の鼻をくすぐった。
あたたかくて甘くて優しい、春の、匂いだった。
たべちゃった。




