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10/22

☆9 嵐の前

 

 学園の背後に建築された新王城を中心として、王都の中央区画は貴族たちの居住区となっている。


 その中の一つにリシェーラの実家であるレナジア家の邸宅もあった。


 邸宅を大きく豪華にすることよりも、庭の華やかさを重視しており、屋敷の面積よりも庭の面積の方が広く(それでも屋敷の大きさも普通ではないが)生垣で作られたシンメトリーの小さな迷宮とガゼボ、噴水など、王城の庭に勝るとも劣らない華やかさだ。


 池で取り囲んだ島の上にはガゼボの一つがあり、丸テーブルと椅子が屋根の下に置かれてティータイムを楽しめるようになっている。


 今、そのガゼボには椅子に座る一組の男女とその周りを囲むように立つ使用人達が占拠していた。


「——それで?リシェーラは本当にあの小僧と共にお披露目をしようと思ってるのか?」


 脚を組んで、椅子の背に腕を回しティーカップを片手に踏ん反り返っている男は、対面に行儀良く座っている—— リシェーラによく似た女へと声をかけた。


 声をかけられた女は一口紅茶を含んでから、その宝石のような青緑色の双眸を、リシェーラに何処か似てる目の前の男へと向けた。


「うふふ、そうみたいだわ。余程、あの男の子を気に入っているみたいよお兄様。リシェーラちゃんが、あんなに張り切って……うふふ、可愛いわー」


 顔の周りをウロウロする組んだ両手、クネクネとする腰、ニマニマした表情で此処には居ない少女にデレデレとする女。

 頬杖をついた男が呆れた声を返した。


「セレン、キサマは可愛い妹を導くつもりはないのか?」


「あらぁ失礼ね、レイヤ兄様。私は可愛い妹のリシェーラちゃんが間違った方向に進まないように、ちゃんと見守っているつもりだわ」


「なら、お披露目パーティに関して寧ろ協力してるのは、どういうつもりだ」


「だってぇ……。リシェーラちゃんがやりたいって言ったことなんだもーん」


「見守るの意味を分かってるのか?セレン」


 長男であるレイヤは、横柄な態度でため息をこぼす。「全く、この妹バカめ……」と次いでに愚痴も出てきてしまう。


「んふふ♪嫌ですわ、兄様。時には自分で気が付かせることも大切な学びなのですわ———— でも、認めない……」


 今まで甘い声で話していたセレンだが、不意に声と表情に影が差す。表情は変わらず笑っているが、瞳は冷たく輝いていた。


「あんな出来損ないな子を、天下一と謳われる天使のリシェーラちゃんの星巫(ミティ)だなんて、絶対に認めてあげない」


 それからセレンは背後を振り返る。


 そこにはメイド達に紛れて、金色の刺繍が入った白色のロングマントを羽織り腰に剣を下げた騎士然とした女が姿勢を正して待機していた。


 黒いリボンタイの付いた白いシャツと青色のベスト、膝丈スカートを着込んでおり、甘茶色の髪は頭の後ろから編み込んで前に垂らし、伏せがちの藍色の目は争いを好まなそうで、穏やかな気質の持ち主といった印象を受ける女だった。


「あ、ごめんなさい。貴方の弟だったわよね、ミリーナ」


「いえ……、我が家でもリシェーラ様と愚弟は釣り合わないと……その、分かっていたことですから。兄のアルフも、星花(スティラ)様の御心の通りにせよとのことでしたし……。私は従うだけです」


 カインの姉であるミリーナからの返事に満足そうに頷いたセレンは、兄に「ですってよ?」と目配せをした。


「さすがはアルフ。やはりこの俺の星巫(ミティ)なだけはあるな。分をわきまえて、俺を立てることを知っているんだからな」


 はっはっはっと上機嫌で笑ったレイヤは、自分の派手な金髪をかき上げる、それからテーブルに肘をついて手の甲に顎を乗せ、ニマリと笑みを浮かべると青緑色の瞳でミリーナを見つめた。


「いいか?アルフに伝えておけ。今度のお披露目パーティには、()()()()()()()()


 ミリーナの肩が微かに跳ねた。けれど、そんな些細な動作が気にならないほど直ぐに片膝を折って(こうべ)を垂れれば、後ろで一つに結んでいた甘茶色の髪が頬にかかる。


「はい、承知しました。レイヤ様……」


「では、これでお開きとしよう」


 頭を下げたミリーナの横を、使用人を付き従わせたレイヤとセレンが通り抜けていく。最後にセレンがミリーナの肩に手を添えて「お願いね、ミリーナ」と優しく声をかけて立ち去っていった。


 ガゼボに残されたミリーナは暫く同じ姿勢で黙り込んでいたが、ゆらりと立ち上がってスカートを叩く。


「ごめんね、カイン……。姉さんには、貴方を傷つけることしか、できない……」


 俯きながら、ぽつりと呟いた言葉は、誰にも聞こえず静かなガゼボの中で消えていった。


 ☆☆


 ——同時刻、学園の図書塔内。


 吹き抜けになった天井を見上げても視界を埋め尽くしているのは、本、本、本、本、本、本、本、本本本本本本本本本本本本。


 編入してから初めて入ったが、此処には圧倒されてしまうほどの膨大な書物が保管されていた。

 個室は最上階に用意されているが、俺が今いる一階は誰もが使用できる読書用のテーブルと椅子が設置されていた。


 その中の一つに腰掛けながら、俺は本一冊を開きリシェーラを待っていた。なぜか太ももの上にルーナが猫みたいに寝転んで絹糸のような細くて美しい銀の毛先を弄って自堕落な時間を過ごしていたが。

 さっきからゴロゴロと寝返りをうつので微妙にくすぐったいが、ルーナ曰く1番のお昼寝場所らしい、全くこの少女は猫かなにかなのだろうか。


 退屈になってきたのか、ルーナは俺を見上げて気だるそうに声をかけてきた。


「カイン、本当にあの子のパーティに出るんだ……」


「う、うん。ていうかルーナは本当にお披露目に来るの……?」


 ほっぺをツンツンされて喋りにくい。


「んふふ、それは行ってからのお楽しみだよ」


 ニマニマと口角が上がった唇に手を添えて、悪戯気な表情を浮かべる少女(ルーナ)に、俺は頬を指先で突かれながら弱ってしまう。

 こんなところ(ルーナに膝枕しているところ)を応接室から戻ってきたリシェーラに見られたら確実に怒られるだろうし、ルーナからの頼みを断りきれない自分もいる。うーん、困ったな。


「る、ルーナ……そろそろ足が痺れてきたんだけど……」


「……カイン、変わったね……。前はカインが立たなくなるまでルーナを膝で眠らせてくれたのに……」


「おかげで学習したんだよ!!どのくらいで足が痺れてくるかわかるようになっちゃったよ。そろそろヤバい、本当ヤバい。どいてください……」


 真摯に頼み込むと、ルーナはようやく重い腰をゆっくりと上げて退散してくれる。が、太ももに未だ未練がありそうな眼差しを向けてくる。それにすごい嫌そう、そんなに眠かったのか。


 ともかく俺の足の上から退いたルーナは、机の上にもたれかかる。顔にサラリとかかったツインテール状の銀髪を耳にかけて、腕を顎の下に敷くと眠たそうに目をとろけさせた。


「ルーナの居場所が、また一つ消えちゃった……」


「う……っ」


 寝ぼけているのか、悲観じみた独り言を呟いてくる。

 その言葉に、俺の良心がぐさりと痛んだ。

 ダメだ、これは作戦だ。ここで許してしまったらどんどん断れなくなってくるぞ、そう自分自身に言い聞かせて邪念を飛ばすように首を左右に振る。


「だ、ダメ!」


「……そう……じゃあ、しょうがない……」


 意外にもすんなりと引いてくれた。

 なんだか寂しげな横顔は、直ぐに腕の中へと沈んでいった。


(やれやれ……)


 安堵してしまったのと同時に、やっぱり弱ってしまう。


 ルーナとは俺が7歳の頃に出会った。路頭に迷っていた彼女と、家での居場所を既に失くしていた俺は、子供同士ということもあって意気投合し、ルーナが11歳になって姿を消すまで、時間を見つけては遊びに出かける仲だった。


 目を閉じれば、あの日の幼い自分が待ちぼうけている姿が浮かんでくる。約束をしていたわけじゃない、だけど別れはあまりにも突然で……。


「なぁ、ルーナ」


「なぁに?」


「あの日から、何してたのか聞いてもいいかな……?」


「———— 」


 責めるつもりもなく、ごく自然に聞いてみたつもりだったが、何やら滲み出ていたらしい。ルーナの丸くなった背中が強張った気がした。


「あの日、あの日……は……私、は」


 目が伏せがちになった顔を上げて、戸惑っているような声でルーナは話し始めた。人差し指に銀髪を巻き付け、目は泳いでいる。迷って迷って、それでも最後には俺に何かを伝えようと真っ直ぐに見つめて来たその時。


「あ!2人ともやっぱりここだったのね!」


 何やら嬉しそうな顔をした白い制服姿のリシェーラが、大きな箱を両手に図書塔に入ってきた。俺たちの方へやって来ると、2人の顔を見渡してから首を可愛らしく傾げる。


「カイン、貴方の採寸していた洋服が届いて……、なんだか空気が重いけど、何かあったの……?ケンカでもしたのかしら?」


「喧嘩じゃないよ……」


 顔を背けたルーナ、後頭部で二つに結われた紫帯びた銀髪も一緒に力なく揺れ動く。

 俺からは見えない少女の表情を見たリシェーラは、「あ」と目を丸くして驚いた顔をすると、愛でるように小さく笑った。


「意外だわ、ルーナさんって割と分かりやすいのね。びっくりしちゃったわ」


「……別に。ルーナは無表情ってわけじゃないから……」


 リシェーラに対しては当たりが強いルーナ。冷たく言い放たれた言葉にも優しく笑って受け流したリシェーラは、何やら思い出したらしい。顔の横に人差し指を立たせて言った。


「あ、そうよね!だってルーナさんは……」


「ちょ、ちょ……!!何を言うの!?」


「むぐぐ……!?」


 それまで眠たそうで関心の無さそうだったルーナの灰色の瞳がギョッと見開き、リシェーラの口を塞いでしまった。


「え?ルーナがなんだって……?」


「むぐぅぐ!むぐー!」


 リシェーラが何かを伝えようとすればするほど、ルーナは必死になって秘匿しようと白金の髪の少女を拘束する。ついには机の上に足を乗せて体を乗り出してしまうほどに。

 強く抱きしめられて息苦しそうなリシェーラの上下にバタつく手に背中を何度も叩かれていても、俺の方を向いてアワアワと誤魔化そうと口を回した。


「な、なんでもない!なんでもないよカイン!本当、私、なんでもないんだよ!」


 確かにリシェーラが言うように、ルーナはわかりやすかった。なんでもない訳ではない事が顔に書いてある。

 リシェーラは知っているのに、俺は知らない事。そりゃあ、当然あるだろう。でも、だけど、あの日の事を聞かなかったからかもしれない。


「……いいよ、別に言いたくないなら」


 気がつけば自分でもびっくりするくらいの冷たい声が出てしまっていた。


「えっと……やっぱり、怒って、るよね……」


 自覚した頃には、図書塔の中の空気が時を止めたかのように静まり返り、重くなってしまっていた。

 ルーナが、気まずそうに目を伏せて微弱な笑みを浮かべている。


 まずい、これではただの理不尽な八つ当たりではないか!

 焦った俺は自分の髪を掻くように頭に手を置いて、言葉を探した。


「——あ、ごめん……。あ、えっと……こ、これから紘夜先輩と訓練があるから!!ご、ごめん!!」


 本を勢いよく閉じて、席を急いで立ち上がって返却カートへ乱雑に置く。存在しない司書が、もしもこの場に居たら怒られてしまいそうな置き方だった。

 本を置いた後は扉へと駆け寄り、流れるように扉を開け放った俺はその場から逃走した。


「カイン!!」


 リシェーラの声が背中から俺を追いかけて来たけれど、走り出した足は止められなかった。


 図書塔を走り出して訓練場へ駆け込む。

 隠れるように慌てて誰もいない室内へと潜り込み、引き戸の戸締りの代わりに扉の前で座り込んだ。


「に、逃げてしまった……」


 膝を立てて、片腕の中に顔を埋め、もう片方の腕で頭を覆う。それから、後悔の念を晴らすように長く息を吐いた。


(後でルーナに謝らないと……)


 頭を悩ませ、ガリガリと頭皮を掻いた。


「—— 仕方ないことじゃんか。ルーナは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 またまた、ため息がこぼれる。


「……はぁ……」


(逃げてばっかりだ……ダンジョンの時も……)


「貴方は…‥確かリシェの……。いつまでそうしているのですか?」


 ちょうど膝に額を付けた時、凛とした声が俺に訪ねてくる。


(え!?人!?居たの!?)


 驚愕して顔を上げてみれば、そこに居たのは程よい長さの黒髪を首元で一つに結んだ凪咲さんだった。

 白と黒の道着を着込み、頬を伝う汗を拭った星花(スティラ)様は、入口に座り込んで一歩も動かない俺を怪訝そうにしばらく見つめていたが、その内興味が無くなったのか再び竹刀を降り始めた。

 ヒュン、ヒュン、と竹刀が風を切る。

 そして、独り言を呟くように口を開く。


「……貴方が、どうしてそんな無様な姿を、しているのかは分かりませんが……っふ。あまり気分が良いものでは、ありませんね。気が緩めば、貴方のその、うじうじ虫が移りそうです」


 透明な汗が、凪咲さんの顎から溢れ落ちた、竹刀を振るたびに艶のある黒い髪が揺れていた。

 ほえー、綺麗な動きだ。竹刀を振るのに慣れているのが伝わってくる。

 感心している俺を呆れたような目で一瞥した凪咲さんは、今度こそ俺にため息を付いて向き直った。


「まぁ、大体の想像は付きますが……。どうせ、二人の星花(スティラ)に囲まれたのはいいものの、ヘタレて逃げ出してきたのでしょう……?」


 竹刀の先を床に付けて、若干こちらを見下すように顎をしゃくれさせている。あ、いや、あの表情からするに「このヘタレ。呆れた」みたいなことを思ってるに違いない!


「い、いやヘタレって……流石に俺もヘタレなんかじゃ……いやまぁ、確かに逃げ出してきちゃったけど……」


 あまり認めたくない言葉だった。


「囲われているのにどちらも天秤にかけていない時点で、貴方は十分情けないですよ。そして逃げ出してきたのなら尚更。……物事には順位があって、優劣が必ず存在しているものなのですから、この世界は……」


 しゅるりと、凪咲さんが髪のゴムを解く音がした。

 彼女が髪を結び直している間、俺は言葉を失ってしまっていた。沈黙が流れて、言われた言葉の意味を考える。

 でも俺は、本当はその意味を知っている。だって、謂わば自分の人生そのものだから。兄や姉に劣ってきた俺自身の、天秤にかけられ続けてきた俺の———— 。


「……まぁ、時には優劣を付けられないものの存在しますけど」


 竹刀を訓練場に立てかけた後、けろり、と星花(スティラ)様は付け加えた。

 いや、俺のシリアスを返せ!こんにゃろ。

 えぇー……と呆気に取られてしまっている俺の肩を優しく叩いて「取り敢えず、そこを退いてください。邪魔です」と和やかな笑みで仰られた。


 すごすごと言われるがままに扉の前から退いた俺は、最後に厳しい目を向けられた。


「貴方の女性関係は知りませんが、これだけは言えます。星花(スティラ)星巫(ミティ)の関係に付いては、必ず明確にしておいた方が良いですよ。でないと後で後悔するのは貴方ですから……」


 女性関係ってそんな大袈裟な。いや、問題はそこではなくて。

 発言に戸惑いながら、俺は首を傾げる。


「えっ……?いや、俺は……リシェーラの、星巫(ミティ)……なんですけど……」


「えぇ、そうですね。でも、周囲には認められていませんけどね……それに、リシェの()にも……」


 少女の宝石みたいな青緑色の相貌の目線が、俺の手の甲に落とされる。手の甲なんて見て何か分かるのかと俺も一緒に眺めてみたが、そこには“星の刻印”——五芒星が描かれているだけだった。


「え、あの、これで何が……」


 手の甲を掲げて俺は凪咲さんに尋ねようとしたのだが、言葉を紡ぎ切れずに唇を開けたままにしてしまった。顔を上げた俺の前から彼女が姿を消していたから。


「—— リシェーラの、星……?」


 なんだ、それ?

 俺は首を傾げた。


「……お、カイン……?」


「あ!紘夜先輩、こんにちは!」


 と、主人と入れ違いで大柄な男が入口の前に立ち塞がった。凪咲さんと同じように白と黒の道着を着込んでいた。

 凪咲さんを探しているのか、訓練場の中を覗き込む仕草をした後に辺りを見渡す。


「……なぁ、カイン……」


「あ!えっと、凪咲さんなら、さっきちょうど出て行きました」


「……そうか……」


(そういえば……)


 先ほどの疑問を解決する良い機会だ。俺は紘夜先輩の甲を盗み見ようとするが、不躾に見るわけにもいかずに上手くいかない。

 場所を移動しながらチラチラと手の甲の刻印を探す。


「な、なんだ?……何を、したいんだ……?」


 紘夜先輩は腕と足を上げて変な踊りを舞いながら、周囲をウロチョロとしていた俺を避ける。あ、ちょ、そうやって避けられると、紋章が見えないんですけど、と俺は紘夜先輩の手を追いかけた。


「あ、いや。えぇと、その……紘夜先輩の星巫(ミティ)の刻印を見せてもらいたいなーと……」


 あは、あははっと奇妙な笑い声が口からこぼれていく。


「ああ、なんだ。そんなことか……いいぞ……」


「え、肩!?」


 道着の上半身をまくって、肩を見せてくる紘夜先輩。どうやら星巫(ミティ)の刻印は人によって違うところにあるらしい。


「ああ、俺は肩にある……」


 右肩に刻まれているのは、確かに俺と同じ五芒星。だけど、俺の知らない紋章。


「これ、なんですか……?天秤、みたいな……」


 五芒星の中央に、俺の知らないマークが施されていた。

 皿が左右水平の状態になった天秤がそこにはあった。これが凪咲さんの言っていた星花(スティラ)の星、というやつなのだろうか。

 俺の疑問に、バレたかーヤベェ聞かれちゃったよ、みたいな顔をして逡巡した紘夜先輩は「あー」とか「うー」とか言葉を濁しながら応え始めた。


「あー……それか?それはな……。うー……、やっぱり言うのやめ」


「お願いします!教えてください……!」


 俺は先輩に詰め寄る。

 相手の方が背が高いので、ぴょんぴょん飛んでもはや胴体同士がぶつかりそうになっていた。


「わ、わかった。わかった。どう、どう……」


 首を捻りながら悩んだ末に、紘夜先輩は俺の頭を片手で押さえて、「……新人にそんな事言ったのは……どこのどいつだ?」と珍しく分かりやすく眉間に皺を寄せていた。流石にここで貴方の星花(スティラ)ですとはいえなかった。


「——これは……凪咲と俺の、“星”だ……」


 大丈夫、お前にもいつかちゃんと現れるさ……紘夜先輩はそう言ってそれ以上深く教えてはくれなかった。


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