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名店の味は消えず

 いよいよ大団円です。

「いったい、どこでトリックが分かったんだ」

 数日経って、女将のお礼で有作や瑞月ともども「ひさご」へと招かれた浮音は、牛村警部から改めて事のいきさつをねだられ、軽く熱燗を含んでからおもむろに話を始めた。

「――部屋を見せてもらおうと尋ねた夕方、恵一くんはこたつと電気ストーブを一時につけて、茶の間のヒューズを飛ばしてしまった。些細なことで飛ぶヒューズが、あの事件の晩に限って朝まで切れずにあったのは何かある。そう考えた時に、ほんの少ーし、事件の夜の光景にクロが混じりだしたんや。

 で、警部さんに頼んで取り寄せてもらった捜査資料を見たら、案の定あの部屋のヒューズだけが変えてある。中京署はご老体が面倒くさがって高圧仕様のヒューズをつけたんだろうと考えていたようやけど、そんならそもそも、全部のヒューズを取り換えるやろ? それが一か所だけ替えてあるのはおそらく何かしらの作為がある……そんな気がしたんや。

 でも、そこへいくと瑞月ちゃんのカンの方が鋭かったなァ。犯人だったら変に探られないよう、自分の行動範囲の外へ行くんじゃないかと踏んで、わざと遠くの寺町の電気街へ出かけたんやから……」

「大変だったのよ、あちこちかけまわって……。でもまぁ、約束の品をもらえたんだし、良しとしましょうか」

 約束通りポートワインを手に入れたらしい瑞月は、「ひさご」のお品書きにあった丹波のぶどう酒を、だし巻き卵を肴に心地よくなめている。

「しかし、あの氷には恐れ入ったな。凍ったお湯と思ったのが実は氷だった……。あの晩、帰りしなに寄ったお好み焼き屋で佐原くんがお冷の氷を指摘せなんだら、あの痕跡の謎もわからんままやったな。恵一くん、約束通り、敵はとったで」

 お猪口片手に、浮音が隣に座ったバャリースのコップを握る恵一の頭をなでる様子に、つられて周りも微笑む。

「兄ちゃん達、ありがとう。きっとじいちゃんも喜んでるよ」

「みなさん、本当にありがとうございました。おかげで義父も浮かばれましょう」

 にっこり笑う恵一に続いて、カウンターの側で料理の支度をしていた女将も改めて浮音たちへ礼を述べる。するとすかさず、瑞月がほろ酔いの顔に笑みを浮かべて、

「いえ、私からしたら、むしろ女将さんにお礼を申し上げたいんです。実は、今度の件で『ひさご』の味がまだ生きていると知った先生や学生がいましてね。ぜひとも、取材させていただけないかと……」

「おやおや、さすが学生新聞記者、めざといなァ」

 浮音言うところのブン屋魂旺盛な瑞月の様子に、一座はどっと笑い転げてしまった。事件の黒雲が去った「ひさご」には、その夜遅くまで、素人探偵たちの勝鬨が響いていた。



初出……推理同人・睦月社「WEST-EYE 西日本短編推理傑作集 No5 アリバイ崩し特集号」(令和四年一月刊行)掲載

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