表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ダブり集

あの夏の日

作者: 神村 律子

 夏休み。


 同窓会というほど堅苦しいものではないが、何となく集まる方向で話がまとまり、久しぶりに再開した高校時代の悪友共。


 場所は近くの居酒屋。中には常連もいるような馴染みの店だ。


 皆一端の社会人になり、早い奴はガキまで作ってる。


 気楽な俺はまだ結婚どころか、彼女もいない。


 集まったのはヤロウばかりなので、俺が女を作らない事に話題は集中した。


「お前、高校の時モテてたよな? 何で彼女いねえのさ?」


「そうだよな。何でだ?」


「まさかお前こっちか?」


「ちげーよ! まだ俺がガキなだけさ」


 するとその頃一番親しかった信二が言った。


「もしかして、お前まだあれ引き摺ってんのか?」


「おい!」


 隣にいた晶が信二を嗜めるように睨んだ。信二は、


「あ」


と小さく叫び、黙り込んだ。


「あの事って何だよ?」


「何でもねえよ。気にするなって」


 晶は俺の空になったコップにビールを注ぎながら陽気な顔で言った。


「お、ありがと」


 俺は零れ落ちる泡をズズッと吸い、一気にビールを飲み干した。



 

 同窓会モドキは大いに盛り上がり、二軒目の店に行く話に発展した。


「翔の知り合いの店でさ。結構いい子がいるぜ」


 すっかり酔いが廻った幹夫が言った。すると翔が、


「夜行くからそう思えるのさ。昼間会うとビックリするぜ」


 俺達はそれに爆笑した。




「あ、そうだ、こっちが近道だ」


 神社の脇まで来た時、翔が行った。


「ここを通り抜けた方が早いんだよ。俺のいつものコース」


「ええ? やだなあ、こんな真っ暗なところは。俺は遠回りでも道を行くぞ」


 信二が言った。すると翔は、


「お前昔から怖がりだったよな」


「関係ねえよ! 暗くて足元が見えねえから、やめといた方がいいって言ってんの!」




 しかし信二の「抵抗」も空しく、俺達は神社を通って向こうの通りまで出る事になった。


「どうせならさ、一人ずつ行く事にしねえか?」


 酔っ払いの幹夫が提案した。


「おお、肝試しっぽくていいねえ。こんなに蒸し暑い夜は、絶好の肝試し日和だな」


 陽気な声で晶が賛成した。信二は嫌そうにしていたが、また「怖がり」と言われたくないのか、何も言わなかった。


 ジャンケンで順番を決めた。俺は運の悪い事に最後になった。


「畜生」


 そう呟いて、一番手の信二が境内に入って行った。


「出るぞ出るぞ、信二!」


「うるせえよ!」


 翔の煽りに信二は怒鳴り返した。


 次にその翔が、そしてその次に晶が、さらに幹夫が続いた。


「さてと」


 俺は幹夫の姿が見えなくなったのを確認してから、境内に足を踏み入れた。


「あれ?」


 いくら進んでも幹夫の姿が見えない。


(俺を嵌めたのか?)


 高校時代、仲間同士でよくこういう悪戯をしたものだ。


 俺は酔いが廻るのも構わずに走った。


 境内を抜け、反対側の通りに出た。しかし誰もいなかった。


「おい、冗談が過ぎるぞ!」


 俺は大声で怒鳴ったが、誰も反応しない。


「どういうつもりだよ・・・」


 俺はイライラして周囲を見回した。


「蓑輪君?」


「え?」


 俺はハッとして声がした方を見た。


「やっぱり蓑輪君だ。私よ、飯山由美子よ」


 俺は酔いでかすむ目を凝らして、その女性を見た。


「ユミか?」


 懐かしい響きだった。ユミはニコッとした。トレードマークの八重歯はまだあった。


「こんなところで何してるの?」


「お前こそ何してるのさ?」


「私、この先にあるお店で働いてるのよ。母子家庭は大変なんだから」


「へえ」


 俺達はどちらからともなく歩き出した。


「さっきまで信二達と一緒だったんだ。居酒屋で飲んでたんだよ」


「信二君達?」


 ユミの顔色が変わった。


「どうした?」


「蓑輪君、忘れちゃったの、信二君達と一緒にツーリングに行った時のことを」


「え?」


「皆崖崩れに巻き込まれて死んだのよ」


 俺は驚愕した。思わず背中に手をやった。


「貴方も巻き込まれたけど助かったの」


「ああ」


 俺はいろいろ思い出していた。この背中の傷、その時のものか?


 俺だけ助かった・・・。そうなんだ・・・。


 親に聞いても話してくれなくて・・・。


 しかも俺はそのまま引っ越して・・・。


「思い出した? 信二君達はもういないのよ」


「ああ」


「危なかったわ。きっと貴方を連れに来たのよ。今日が命日なんだもの」


 俺はユミのその言葉にゾッとした。


「ここよ、私の働いてる店。さ、入って」


「うん」


 俺はユミに導かれるまま店の中に入った。




「俺があんなことを言い出さなければ・・・」


 翔が悔し涙を流しながら言った。晶が、


「お前のせいじゃねえよ。偶然だよ」


「だってさ、まさかあの神社が待ち合わせ場所だったなんてさ。それにあの日がユミの命日だなんて・・・」


「だからどうしようもなかったんだよ! 蓑輪とユミはクラス公認の仲だったんだ。俺達の友情の力より、ユミの蓑輪への愛情の力の方が上だったんだよ」


「でもさ・・・」


 それでも尚自分を責めようとする翔を晶は遮った。


「あの時、信二がユミの話をしかけたのを止めた俺にも責任がある。いつまでも誤魔化して来たから、ユミが怒ったんだよ」


 その言葉に一同は静まり返った。




 俺は全てを思い出した。


 ユミを後ろに乗せ、ツーリングに出かけた事。


 そして崖崩れに遭い、ユミが死に、俺だけ助かった事。


 事故のショックでその時の記憶を全て失っていた事。


 友人達が気を遣って俺にユミの話をしないようにし、両親も居た堪れなくてその町から引越しをした事。


「やっと、やっと会えたね、蓑輪君。ううん、瞬。もう一度一緒にツーリングに行こう」


 ユミの顔は穏やかで、俺に恨みがあって会いに来たとは思えなかった。


 でも俺は構わない。ユミとならどこにでも行ける。


 俺とユミは高校の制服に着替えていた。


 そしてバラバラになったはずの俺のバイクは新車で現れた。


「行こう、ユミ」


「うん」


 俺達の乗るバイクはどことも知れぬ広い道路を走った。


 道はどこまでも続き、果ては見えなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ホラーですがこのお話は感動しました。 哀しいお話ですね。 二転、三転する展開についていくのがたいへんでしたが、置いてきぼりにはなりませんでした。 ユミは怖いというよりかわいそうという気持ち…
2010/12/07 19:41 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ