第7話:その発想は天才の片鱗か。
金がほしいから剣を求め、剣がほしいから金を求める。
ふむ。
「どうすればいい?」
受付のリセラのこめかみに青筋が浮いた。笑顔のままなのだがな。
クドク聞きすぎたようだ。
「まったく……あのですね、討伐が無理なら、護衛クエストを受けたらどうです?」
「守れ、ということか」
「はい。討伐に関係なく、護衛に成功するだけで報酬が出ますしね」
「なるほど。では、お前を守ってやるから、金をよこせ」
にっこり微笑んだリセラの手に持ったコップが、粉々に砕け散った。
なにやら本格的に怒らせてしまったらしい。
「クエストを! 受けてくださいね?」
「すまぬ。なにせ城に引きこもってばかりだったのでな。世間に疎いのだ」
2000年前からは城から一歩も出ないで、我の元に到達した勇者を返り討ちにしていただけだった。
人間社会など知ったことではなかったしな。
結果として、金を稼ぐのにも苦労しているのだが。
「……もしかして、どこかの国の王族の方なのですか? 言葉遣いもそれっぽいですよね?」
「うむ? そうだが? この国の王も我のことを知っているはずだが」
魔王でも王は王だよな? 国ではなく、別世界の魔王だが。
「確認してきますね!」
言うやいなや、椅子をひっくり返し、裏手にあったドアの奥に駆け込んでしまった。
時間がかかりそうだな。
その間に薬草採集でもしてくるか。
森まで来ると、奥から金属が打ち合う音が複数聞こえてきた。
どこその冒険者がゴブリンと戦っているらしい。
複数聞こえてくるということは、パーティを組んだ冒険者であろう。
音のするほうに行ってみると、ちょうど1人の冒険者がゴブリンに剣で腹を貫かれている場面だった。
生い茂る草の上には、2人の冒険者が倒れ、更に奥には、大木の幹に身を任せ、座り込んでいる少女の冒険者がいた。
対するゴブリンは3匹。盾に傷は付いているものの、身体には損傷らしきものは見えない。
冒険者側の完敗ということか。
少女はまだ微かに息をしているが、倒れている男3人はすでに死亡している。
とりあえず、ゴブリン共を手の一振りで消滅させておく。
さて、少女を観察すると、いかにも初心者ですといわんばかりの軽装だ。
革の胸当てに手に持たれたままの小型のナイフ。対して男どもは鉄製の鎧に剣を持っていたようだ。
レベルは少女が3で、男どもは全員が8か。
勝てないと分かった時点で逃げればいいものを。死んでしまっては経験にならないではないか。
異空間に保存していた薬草の束を取り出し、錬金魔法で回復薬に変換して少女にぶっかけてやった。
蘇生魔法は出来るが、回復は苦手である。
しばらくすると、回復薬が少女の体に染み渡り、傷を治していった。
「ん……」
少女の意識がハッキリしてきたようだ。
「大丈夫か? 傷は治してやったぞ。パーティの男達は残念だったがな」
「あ……いえ、私はメンバーじゃなくて……私が襲われているところを助けてくれたんです!」
「ほう?」
「皆からは危険だから行っちゃダメだって言われてたんですけど、薬草採集でしかお金を稼ぐ方法がなくて……」
仲間を発見したぞ! 薬草採集仲間だ!
「私のせいで……この人達が……ううう」
両手で顔を覆い、泣き出してしまった。
せっかく見つけた薬草採集の仲間だ。これがきっかけで冒険者を辞める、なんてことにはなってほしくないのだが。
まあ、この男共のおかげで、この少女が無事だったのだ。レベルは低いが立派な戦士と言えよう。
問題は、蘇生魔法のリレイズで傷も全回復させた場合、レベルが半減するということだ。
半回復の場合、レベルの減少は起こらないが、なるべく早く回復させないと再び命の危機に陥ることになる。
仕方ない。採集したばかりの薬草を使ってやろう。
リレイズで蘇生させた後、この者たちを護衛しながら街まで戻ってきた。
門番が負傷に気付き、すぐに治療施設へ運んでくれた。
比較的軽傷だった少女は、我と共にギルドへ報告に向かう。
「あ、私の名前はレナです! 12歳です!」
「ああ。我はリガードだ。歳は17だ」
さすがに3000歳を超えているとは言えぬ。
「今日は薬草0だったな~」
「仕方あるまい。ゴブリンに勝てないようではな(強くしすぎたな。反省点だ。元に戻しておくか)」
「それだけじゃないんです。薬草がナイフで切れないんですよ。根が残ってたらまた成長して生えてくるから、根掘りは禁止されてますし」
「そうか……」
危ない。知らんかった。根ごと引っこ抜かないように注意だな。
森から出れば強度は元に戻るのだが、採集そのものが出来ないというならば、薬草の強度だけ戻しておくか。
「我の場合は手を振っただけで、ゴブリンが討伐部位を残さず全て消滅してしまうことが問題だな」
「強いですもんねリガードさんは。薬草はどうやって採集してるんですか? ナイフだと切れないですよね?」
「こうやってな。指先に魔力の刃を出現させて、スパッと」
「それでゴブリンを倒したらいいんじゃないです?」
「……」
この少女は天才か!?