第6話:目標が出来たぞ
呼び出しに来た兵士の後を付いて行くと、城を囲む城壁の正門前で国王が護衛の騎士と共に立っていた。
国のトップが直に出迎えとは、よほど大きなことがあったのだろうか?
「おお! よくぞ来てくださった! ささ、こちらへ!」
国王の言葉を聞き、騎士が先頭を歩き城の中へと移動する。
城の正門を抜けると、通路には使用人たちが整列していて、一斉に頭を下げてくる。
そのまま通路を進み、2階にある応接間へと案内された。
謁見の間ではなく応接間ということは、対等な立場で話したいということか。
部屋の中は、赤い絨毯が敷かれ、壁際には棚が並び、中にはさまざまな美術品が飾られている。
中央にはテーブルとソファが設置されていた。
そのソファーに座るように促され、どっかりと腰を下ろすと、国王も対面に座った。
メイドが素早くテーブルにお茶を準備すると部屋を出て行き、入れ違いに綺麗なドレスを着た女性が入ってきた。
腰まで伸ばした金髪が輝き、水色の瞳は穢れを知らず、鼻筋から全てに整った顔立ち。
いわゆる美女……だな。そのままナテュアを大人にしたらこうなる、みたいなお手本のような女性だ。
「ナテュアの母体か?」
「ぼた……」
呆けた顔になってしまった。聞き方を間違ったらしい。
「えっと、国王ラーズヘルの妻で、ナテュアの母、ナレイアでございます」
スカートの裾を掴み、少し膝を曲げて挨拶した後、国王の隣りに座った。
「我は長話は好まぬ。早く用件を言え」
「兵士や冒険者の報告があったのだが、最近になって魔物の強さが跳ね上がっているらしい」
「ほお?」
「確認されたのはゴブリンの森だけだが、魔王が本気で攻めてくるつもりかもしれん!」
それは……まあ、魔王である我が強化したのは間違いないな。
しかし、今までこの世界の魔王は本気ではなかったということか?
考えてみれば、魔物共も王都周辺に配置されているにしては、弱すぎたな。
「お願いします。魔王討伐にお力添えを!」
ナレイアの言葉に、ラーズヘルも頭を下げてくる。
ゴブリンのレベルが10増えた程度でこの騒ぎようとは。さて、どうしたものか……。
原因は我なのだがな。
ナテュアとも約束してしまった手前、断れんな……。
「確約は出来んが、必要とあればこの世界の魔王とやらと戦ってやろう」
「おお! まことか!」
「今すぐではないがな。この世界を人間として楽しむと決めたのだ」
「人間として? それはどういうことですかな?」
「ん? 言ってなかったか? 我は異世界の魔王だぞ?」
「「!!!???」」
驚きすぎてソファごと後ろに引っくり返ってしまった。
「お、そうだ。ちょっと条件を出していいか?」
のっそりと起き上がったラーズヘルがコクコクと頷く。
「寝床を用立ててくれんか?」
「寝床?」
「うむ。宿代も稼げなくてな。活動拠点がほしいのだが」
元の世界から配下の者を呼び寄せる必要があるかもしれん。
街中で魔族を召喚してしまうと、今以上に大騒ぎになってしまう。
その為の拠点だな。
「宿代……あ、いや、分かりました。明後日中にもご用意いたしましょう」
「よろしく頼む。連絡は冒険者ギルドのほうに届けてくれ」
「あい分かった!」
交渉が成立し、我は市街地へと戻った。
さて、拠点が手に入る前に稼がないとだが……。
「娘よ。聞きたいのだが、消滅させないでゴブリンを倒す方法は?」
ギルドの受付の娘に聞いてみた。
専門の知識を持っている奴に聞くのが早いだろう。
「娘って……私にはリセラって名前があるんですけど!」
「名前など聞いてな……いや、すまん」
これから、このリセラには稼ぐために世話になるのだ。怒らせるのは得策ではない。
「まあ、いいですけど。魔法で消滅させちゃうんでしたら、剣で斬ったらいいんじゃないでしょうか」
「なるほど。その剣はどこで手に入るのだ?」
「武器屋とか……オーダーメイドでしたら鍛冶屋に直接行けば作ってくれますよ。ちなみに、店売りですと、1番安いもので銅貨100枚が相場ですね」
「ふむ……」
結局は金を稼がないとだな。
薬草採集をするしかないようだ。