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その8

シャルローネを見送った俺は、すぐさま出かける支度をする。

彼女から受け取った一万円札を五枚ほど財布に突っ込み、ホームセンターを目指す。

貧者の機動兵器、折りたたみ自転車を購入するのだ。


さらには次回引き渡し分のゴールデンバットシガーの仕入れ。

そのためにはスマホも忘れてはならない。

煙草の買い込みは次回分だけでなく、その次の分も買い込んでおくことにする。


もしかしたら台風や自然災害といったアクシデントで、買い出しに行けなくなるかもしれないからだ。

あれこれと計画を立てていたが、ふとシャルローネの美貌を思い出す。

あの可愛らしくて上品な娘に、十日間も逢えないのか……。


そう思うと、少しだけ胸が痛む。

しかし逆に言えばあれだけの器量良しだ。

カレシの一人や二人、いや、婚約者がいたっておかしくはない。


無駄な妄想はヤメにしよう。

男というのは、常に胸のうちに虚無を抱えておかなければならない。

そういう生き物なのだ。


まずはホームセンターへ飛び込んで、折りたたみ自転車を購入。

それから盗難防止のワイヤーキー。

雨の出撃も考慮して、ポンチョも購入。

そして完全防水の肩掛け鞄。


まずはこんなものだろうか。

一応盗難防止の保険にも入っておく。

機動力を手に入れた俺は、さっそく人力で遠出をしてみる。


これまで一度も出向いたことのない、見知らぬ町のタバコ屋に行ってみることにした。

スマホのマップに従って、えいやとペダルを漕ぐ。

しかしこの街というのは、なんと坂道の多いことか。


電車やバスといった交通機関が発達する訳である。

このクソ暑い日、自販機で冷たいものを飲みつつ、俺は町から町へ。

防止鞄を肩に掛けてペダルを踏んだ。


熱闘の末、ゴールデンバットシガーを六カートン購入に成功。

アパートに帰ってきたときには、もう夕方になっていた。

猛暑の中だが、運動が足りたせいだろう、腹が減っていた。


キッチンとも呼べないようなキッチンに立って、買い置きの蕎麦を茹でる。

乾麺なので保存が効くのだ。

流しの下の醤油棚から麺つゆを出して、冷凍庫の氷を二粒うかべてやる。


そして蕎麦を茹でて、何度も沸騰させてから水で冷やす。

冷やすといっても水道水だ。

かなり生暖かい。


何度も水を取り替えて、ようやく蕎麦が冷えてきた。

ザルにもりつけて、麺つゆを水で割って、もちろん蕎麦湯はマグカップに取り置きしてある。

そいつらを万年テーブルに運んで、胡座座りでのディナーである。


芝居用語で、ウドン三本ソバ六本と言うらしい。

ウドンを食うときは三本つまんで、ソバは六本つまんですすると美しく見えるそうだ。

だが俺は、麺類を美味しくいただく分量として使っている。


なかなかこれが、面倒ではあるが口の中で丁度いい分量なのだ。

そして噛まずに舌で丸めてゴクンと丸呑み。

それが俺の蕎麦食なのである。


そして蕎麦をすするときは盛大に音を立てて、巨匠水木しげる先生のマンガのように、ゾロゾロゾローーッとすするのだ。

麺類で音を立てるのは下品であるという意見をウェブ上で見かけたが、俺は上流階級の人間でも貴族でもない。

ここは俺流を貫かせていただく。


食後、もう外は暗い。

カーテンを閉めて明かりをつけて、さて何をしようか……。

なにしろ俺には、無限のような時間がある。


まずはスマホでゲームだ。

……集中できん。

ならば年齢制限のかかった大人のDVDを鑑賞するか。

……なんだか落ち着いて鑑賞できない。


何故だろうか?

素直に申し上げるならば、シャルローネの面影がチラついているからだ。

艶を放つ金色の髪。

鼻の低さと丸い頬が幼さを醸し出す可愛らしさ。

穏やかな声。


すべてがありありと思い出せる。

まったく、色を知り始めたばかりの中学生じゃないんだぞ?

こちとら男を二十年以上やってんだ。


諦めるって決めたじゃないか。

なんだか手伝ってあげたくなるような、守ってあげたくなるような。

女の子を意識し始めた頃のような、甘酸っぱい気分なんて、もう昔の話なのに。


仕方ない。

こんなときはコレしかない。

ボックスティッシュ片手に俺は雄々しく立ち上がり、照明の紐を引っ張った。


部屋の中に差し込んでくる、街の灯りと月の輝き。

俺は精神を集中して、妄想の中でシャルローネとヨロシクすることにした。

……モンモン……モンモン……モンモン。


いかん、集中できん。

やっぱり実物がイイ。

実物のシャルローネとヨロシクやりたい!


しかしそんなことは、きっちりオカズにできてからの話である。

グラスに製氷機で作った氷をぶち込む。

安物のウイスキーを注いで、グビリとひと口。


こりゃもう酔っ払って寝るしかねーわな。

イカの干物を噛りながら、胃袋に苦い酒を流し込む。

月だけが供の、浪人の夜だった。


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