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その6

シャルローネを待たせておくのは少し可愛そうだが、俺には人力による移動手段しか持ち合わせが無い。

本当に、二人で並んで買い付けに出ることができればどれだけ良いことか、とは思う。

しかしそうなると俺はシャルローネという金の卵を産むニワトリを失うことになる。


自分勝手なことを言うが、やはり彼女は俺に多額の金銭を渡すことで安全を買った方がいい。

なにしろ……。

ふきだまり町というのはいかがわしいお店が多すぎるのだ。

それも質のいいお店ではない。


場末感のあるというか、どこの国籍かわからないおねーちゃんたちが歩いていたり、イマドキこんなヤクザいるんかい?

というような昭和感あふれるヨタ者が棲息していたりするのだ。


「よう、お向いのにーちゃん! 安くしとくぜ、寄ってかねぇか?」


そう、お向いの部屋のおっさんもぼったくりキャバレーで呼び込みをしていたりする。

こんな町に美少女のシャルローネを歩かせたら、あっという間に行方不明になってしまうだろう。

スマホで調べた『世界のタバコ』店は、ビルの一階にあった。


そのビルは、一軒まるまる風俗のお店しか入っていない。

なかなか豪気なビルではあるが、出入りする客はすべて俺のような貧乏人。

つまり安く済ませたい客のためのお店ばかりなのだ。


一見すると人通りも多く、にぎわっているかのように見えるけど、そこで落とされる金額は微々たるもの。

おかげで利益が少ないから、街全体が錆ついて見える街。

それがふきだまり町なのだ。


しかし『世界のタバコ』だけは、明るい店内で色とりどりのパッケージがならんでいて、ここだけ儲かっているのがわかる。

もっとも、ここは嫌煙家のみなさんが思うイメージの方が正しいだろう。

タバコ屋が儲かるような街なのである。


まあ、それはそれとして、俺は今や煙草商の相棒なのだ。

こんなどぶ川みたいな街でも、煙草を買い付けることができるのはありがたい。


「ゴールデンバットの紫はありますか?」


俺が訊くと、上品な感じの店主は「ゴールデンバットシガーですね?」と聞き返してきた。


「ありますよ。いくつお求めで?」


「十個、ワンカートン」


「バラ売りでもよろしいですか?」


あるんだな? さすが世界のタバコ屋。


「はい、時々買いにくるので、切らさないようにしてください」


シャルローネから貰った一万円札を渡して、釣りを受け取る。

まずはゴールデンバットシガー、ワンカートン入手である。

次に俺は、近所のスーパーマーケットに入ってみた。


いわゆるタバコレジというのがあって、タバコを購入することができたりするのだ。

しかしそこは北海道限定商品。

スーパーマーケットでは購入することができなかった。


仕方が無いので駅へ行く。

マップによると隣町の駅前にも、タバコショップがあるらしい。

電車にゆられながら、ふと思う。


これは折りたたみ自転車でも買った方が便利かもしれないな、と。

折りたたみ自転車ならば、電車に持ち込むものにもいる。

というか、ラッシュ時を避ければ誰の迷惑にもならないだろう。


そのうちホームセンターで買ってくるか。

しかし値段はどれくらいするのか?

興味の無い品物だってので、値段すらわからない。


まあスマホで調べればすぐに出てくるだろうから、いま考えなくていいことだ。

ふた駅乗ったところで電車を降りる。

この町のタバコショップは、駅前すぐに建っていた。


ごく普通の紙巻き煙草のパッケージが、こちらでも俺を出迎えてくれる。

そして嗜好品、贅沢品を商いする者たちは誰も彼もが上品であった。

葉巻、パイプ煙草というのは、やはり上級なものなのだろうか?


それを商う者、購入する者も上流階級のように見える。

都合、四軒の煙草ショップを訪れたのだが、どの店も丁寧な対応をしてくれた。

煙草商シャルローネが上品なお嬢さんであることが、なんとなくうなずける。


そして俺は戦利品を抱えて、ふきだまり町のアパートへと戻る。

外から窓を見上げると、今回はシャルローネの姿は見えなかった。

よしよし、押し入れに興味は無いようだな。


前回のようなありがたくないイベントは発生しなくていい。

俺はなにも、シャルローネの心に傷痕を残したい訳ではないのだ。

ふきだまりに埋もれたような、無職という社会最下層の俺にさえ、そんな人間らしいぬくもりある気持ちにさせてくれる少女、シャルローネ。


俺の中に彼女とまた会いたいとか、ずっと彼女を手伝っていきたいとか、彼女に頼られたいという感情が芽生えていた。


「ただいま〜〜お待たせ、シャルローネ」


戸を開いて部屋に入る。

するとシャルローネは土下座の姿勢で俺を出迎える。

いや、これは土下座じゃないのか?


「むふーーっ……むふーーっ……や、やらしい……」


興奮したような鼻息、湯気が立つような全身からの熱気。

シャルローネは床に本を開いて、極度の近眼のように顔を近付けて食い入るように読書していたのだ。

俺の秘蔵の『薄い本』を。


「ちょっ……おまっ! 待てやシャルローネぇぇいっ!」


「ハッ! け、ケースケさんっ! 平に、平にお許しをっ!」


「えぇいならぬ! ならぬわシャルローネ! 余が直々に手打ちにしてくれるっ、そこへ……そこへなおれぇ〜〜いっ!」


などという茶番を経過。

申し訳なさそうな顔で正座するシャルローネ。

俺もその正面に正座。


できるだけ厳しい顔つきで、腕を組んでガンコ親父のような表情を作り。

その実、小さくなっているシャルローネが可愛いなぁなんて思ったりして。


「あの……申し訳ありませんでした、ケースケさん!」


「いやいや、顔を上げて、シャルローネ。こっちの世界に興味津々な君と知っていながら、こんな本を隠してなかった俺も悪い……」


ただし。


「だからといって、あちこち漁るのはよろしくない」


「はいっ! このシャルローネ、ついつい好奇心に敗れてしまいました!」


「でもシャルローネの世界の女の子も、こういうのに興味はあるんだね?」


羞恥心を刺激してしまったか、真っ赤になったシャルローネは頭から煙を上げる。


「私たちの世界にも、ファブリオはありますから……」


ファブリオ? なんじゃそりゃ?


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