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06 別れ

 人気のなくなった王都の東門で、ボクはみんなと向かい合う。


 先程の騒ぎで、付近からは近隣住民すら誰も居なくなっていた。


「……なぁスカイ。

 ホントに行っちまうのか?

 王様には俺たちから取りなしてやるからさ。

 な?

 だからパーティーに残ってくれ!」


「……マルセイさん。

 ありがとうございます。

 でも、それは出来ません」


「なんでだよ!」


 ゆるゆると首を振るボクに、マルセイさんが憤慨した。


 嘉納さんがそんな彼を(いさ)める。


「……マルセイ、落ち着くんだ。

 よく考えてみろ。

 今回の国王の判断は明らかに異常だ。

 冷静さを欠いているどころではない。

 これは、なにか裏がある」


 ボクは話を引き継いだ嘉納さんに、頷いてみせた。


 ボクも同じ意見だったからだ。


「でも、もうその裏を暴いている時間もありません。

 もう間もなく、魔王討伐の遠征が始まります」


 魔王。


 それは魔大陸を統べる魔人族の王である。


 小さな衝突こそ数多くあれども、長年小康状態を保ってきた人間族と魔人族は、ここ数年で激しく争うようになっていた。


 もはや戦争状態といってもよい。


 そして近く、レイクエイム王国は大軍を起こし、魔大陸まで攻め入ろうとしている。


 そこに対魔王の切り札として同行するのが、『饗宴』のみんななのである。


「……みなさんは王国軍の旗印なんです。

 そこに国家反逆者との烙印を押されたボクが、無理を押して同行すれば、軍全体の士気に関わるでしょう。

 それでなくともボクは嫌われていますし」


 ボクははたから見れば、完全にパーティーのお荷物に見えていたらしい。


 実際には召喚獣の使役をボクが肩代わりすることでパーティー戦力の底上げを担っていたわけだけれど、そんなこと他人には分からないのだ。


「……ボクは犯罪者との沙汰が下された時点で、すみやかに国を去るしか術は残されていなかったのです」


 無念だ。


 ここまで一緒に戦ってきたみんなと、最後まで共にいられないことが悔しくて仕方がない。


「そんな……。

 そんなのって、あんまりよ!」


 ロキシさんが抱きついてきた。


 そのまま力一杯抱きしめられる。


 彼女のこの抱擁を受けるのも下手をすればこれが最後になるかも知れないと思うと、感慨深さを感じた。


「……ロキシ。

 スカイヲ、離シテ、ヤレ」


「嫌っ!

 嫌よ!

 行かせないんだから!」


 ますます強く抱きしめられる。


「……ロキシさん。

 こんな事になるまで陛下の異変に気付けなかった、ボクの落ち度です。

 すみません」


「どうしてスカイが謝るのよ!

 ……ぐすっ」


 鼻をすするロキシさんをそっと引き離した。


 彼女の暖かな体温が、朝の冷たい空気に取って変わっていく。


「それに、これが最後とまだ決まった訳ではありません。

 いつか、きっとまた会える日も来ると思います」


 そう言ってから、ボクは饗宴のみんなを見回した。


 嘉納凶鎧さん。


 ティガ・ギィ・アーシュケルさん。


 胡蝶あげはさん。


 マルセイ・ベルナレフトさん。


 ロキシ・マーサさん。


 ひとりひとりの顔を、この目に焼き付けていく。


 そしてしっかりと頭を下げた。


「いままでお世話になりました。

 ありがとうございました。

 お元気で」


 こうしてボクはみんなと別れ、王国から立ち去った。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ――スカイが王国を去ったその日。


 レイクエイム王国が国王、ヒィロキア・オゥグラウス・レイクエイム3世は、執務補佐官よりの報告を受けていた。


「そうか、そうか!

 くはははっ。

 スカイめは、国を去りよったか」


「はっ!」


「わかった。

 下がって良いぞ」


 補佐官が一礼し、王の執務室より退室した。


 それを見届けてから、国王は背後に控えていた人物に声を掛ける。


「ロロや。

 余の愛しのロロノ・コリュムや。

 こっちに来なさい」


「……はい、陛下ぁ」


 鼻に掛かるような甘ったるい声で返事をしたのは、豊満な肢体の妖艶な美女だ。


「なにを恥ずかしがっておる。

 ほれ、もっと近う寄らぬか。

 お主の言う通り、スカイ・シューターめを国外追放してくれてやったぞ。

 どうじゃ?

 これで(うれ)いは晴れたか」


「ふふふ。

 ありがとうございます、陛下。

 これで王国は盤石、もう安心で御座いますわぁ」


 ロロと呼ばれた女が、妖しく瞳を光らせ、舌舐めずりをしながら国王に寄り添い、しな垂れかかった。


 国王がニヤニヤといやらしく破顔する。


 それを受けて女も嗤った。


「ふふ……。

 そう、これでもう大丈夫……。

 ふふふふふふ」


 この傾国の美女ロロノこそが、国王を操りスカイを猛獣使いの饗宴から追いやった黒幕であった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 良かった、きちんと王様を狂わせている人がいて、さもなくば即クソ作品認定するレベルでこの王様は話を聞かなかったから [気になる点] 王様は狂っていたor操られていたで納得できるが国民や兵たち…
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