05 最弱の召喚強奪者
「ありがとう。
もういいよ、【退がれ】」
王百足がズズズとその巨体を地面に引きずりながら、大地に生じた亀裂のなかへと帰っていく。
「何度、目ニシテモ、見事ナ、チカラダ」
ティガさんが感心しながら呟いた。
「……そんなことないですよ。
所詮は借り物です」
ボクは自虐的に呟き返す。
これがボクの能力である『召喚強奪』だ。
ボクはこの力により、自分以外のサモナーから召喚獣の命令権を奪い取ることが出来る。
もちろん『饗宴』のメンバークラスの凄腕召喚士に本気で抵抗されれば失敗することもあると思うけど、そんじょそこらのサモナーが相手であれば、命令権を奪われたことにすら気付かせない自信がボクにはあった。
◇
ボクは王百足が退いたのを確認してから、その命令権を胡蝶さんに還した。
「胡蝶さん、すみませんでした。
いきなりの事とは言え、許可もなく奪ってしまって……」
胡蝶さんがゆるゆると首を振る。
「……いいえ。
スカイ様になら、どのようにされても一向に構いません」
胡蝶さんはこうして許してくれるが、これは本来そう簡単に許される行為ではない。
一般的に召喚士と召喚獣は固い絆で結ばれている。
もちろん契約で従わせているだけのケースもあるけどもそれはレアケースで、長い時を共に戦ってきた両者には大抵の場合信頼関係が生まれるものだ。
だがボクのこの能力はそんなものお構いなしだ。
無理やり召喚獣への命令権を強奪する。
ろくでもない力だと思う。
奪われたサモナーからすれば怒り心頭ものの事態だろう。
下手をすれば争いにも発展しかねない。
だからボクはこの力を、よほど信頼できる仲間相手に対してか、さもなければ緊急の場合にしか行使しないよう自らを戒めていた。
◇
だがこんな忌まわしい力でもメリットはある。
通常サモナーは召喚獣を使役している間は、自らは戦闘行為を取ることができない。
使役とはそれほどに集中力を要する行為なのである。
また召喚獣側も、召喚されている最中は契約に縛られ自由意志での行動はできない。
個々がサモナーとして以前に、戦士としても格別の力を持つ『饗宴』のメンバーにしてみれば、これは歯痒い問題であった。
自らが戦うか、召喚獣を戦わせるか、常に二者択一の選択を迫られながらの戦闘になるのだから。
……でも、パーティーにボクがいれば違う。
ボクにとって召喚獣の使役など、造作もないことだ。
どんな強力なモンスターだって、どんな多くの数だって同時に、誰よりも上手く使役することが出来る。
だからパーティーにボクがいさえすれば、そしてその命令権を託してくれさえすれば、すべての召喚獣はボクたったひとりで使役することが可能なのだ。
そうすれば『饗宴』のメンバーは、気兼ねなく自らも前衛に立って戦えた。
そして自信を持っていえるが、召喚獣の使役であれば、世界広しと言えどボクに敵う者などいない。
そう。
饗宴のみんなですら、こと使役に関してはボクの足もとにすら及ばないのだ!
◇
だがボクにはひとつ、途方もなく大きな欠点もある。
それはこれほどまでに使役に特化した力を持ちながらも、ボク自身には召喚獣を契約する能力が備わっていなかったのだ。
ひとりでは何にも出来ない。
誰かの召喚獣に頼ることでしか、戦場に立つことすら出来ない不完全な存在。
最弱の召喚強奪者。
それがこのボク。
スカイ・シューターなのであった。
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