04 力の片鱗
バハムートの登場に腰を抜かしていた衛兵のひとりが、よろよろと立ち上がった。
さっきボクの背中を槍の柄で突いた男だ。
「こ、これは『猛獣使いの饗宴』の皆さま。
お、お揃いでどうされましたか?」
監視役の彼は、及び腰ながらパーティーのみんなに話しかける。
「もしやスカイ・シューターの見送りですかな?
ですが、この者は犯罪者。
皆さまほどの御方々がわざわざ送るほどの者ではございま――」
「グルゥオオオオオオッ‼︎」
衛兵の言葉を遮って、大気を震わせるような咆哮が轟く。
叫んだのは竜人のティガさんだ。
「黙レェェェェェイッッ……‼︎
コレナルスカイハ、種族コソ違エド、コノ我ガ同胞ト認メタ男ノ子。
ソレヲ犯罪者ナドト謗ルカラニハ、貴様、相応ノ覚悟ガ出来テオルノダロウナァ‼︎」
ティガさんが成人男子の身の丈を倍するほどに巨大で重厚なハルバードをぶんぶんと豪快に振り回し、衛兵に突きつけた。
「ひ、ひぃぃ⁉︎」
驚いた衛兵は悲鳴を漏らして、再びその場に尻もちをつく。
だが彼は怯えつつも言い訳をするように話し続ける。
「な、なにをその様に怒っておいでか⁉︎
貴方様方は皆、このスカイ・シューターに謀られていたのですぞ!
目をお覚まし下さい……!」
「貴様ァ……!」
ティガさんが怒りの形相を露わにした。
だがよく見れば、額に青筋を立てているのはティガさんだけではない。
パーティーのみんなが、剣呑な雰囲気を滲ませながら腰を抜かした衛兵を睨んでいた。
ロキシさんに至っては、身体の周りに複数の小妖精を飛ばしている。
完全に臨戦態勢である。
ロキシさんのピクシーは全てが上級魔法の行使を可能とする上位妖精で、単体でも極めて強力なのに、そんなものが何十体も同時に召喚されるのだからその威力は計り知れない。
こんな街中で暴れさせていいような代物ではないのだ。
「……みんな、待ってくれ」
唯一冷静な嘉納さんが、みんなを抑えて衛兵のもとまで歩み出る。
「『謀られた』とはどういうことだ。
キミ、説明をしてくれるか」
問い掛けられた衛兵は慌てて話し出した。
「そ、それはこの者がみなさまのお荷物にも関わらず、自らがいるだけでパーティー全体が強化されるなどと嘯いて貴方様方を騙したことです!
みなさま!
どうぞ目をお覚まし下さい!
このスカイ・シューターは、ただの詐欺師なのですぞ!」
◇
みんなが絶句した。
「な、なんだよそのデタラメ……。
そんなクソつまんねぇ理由で、スカイをパーティーから外そうって言うのか……」
マルセイさんが怒りにわなわなと震え、腰に挿した2本の剣鉈に手を添える。
だが彼がその武器を引き抜く前に、大地がぐらぐらと振動し始めた。
揺れはどんどん大きくなる。
かと思うと地面に巨大なヒビ割れが走り、そこから大木よりもなお大きな何者かが姿を現した。
「キシャアアアアアアッ‼︎」
朝陽を背にして屹立したのは、巨大な蟲。
胡蝶さんが召喚した王百足だった。
「……もう結構です。
貴方方はここで死んでくださいませ。
然るのちにレイクエイム王国は、このわたくしが滅ぼします」
胡蝶さんが王百足を嗾けた。
「う、うわぁ⁉︎
なんだ、この化け物はぁ⁉︎」
「ひ、ひゃぁあ⁉︎」
「に、逃げろぉ……!」
衛兵たちが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
ボクは大慌てで胡蝶さんから『命令権』を奪い、王百足に向けて命令を下す。
「【止まれ】!」
瞬時に王百足が停止した。
ピタリと動きを止めた自らの召喚獣を眺め、胡蝶さんが問い掛けてくる。
「……さすがはスカイ様。
このわたくしの命令すら上書きなさるとは、見事なまでの力です。
ですが、どうしてお止めになられますのでしょうか」
「い、いや、どうしてって……」
衛兵の心配はともかく、こんな場所で王百足を暴れさせて良いはずがない。
ボクは苦笑いを浮かべた。
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