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04 危険の予感

 馬鹿にされ、悔しげに下唇を噛んでいたキリがぽつりと呟く。


「……この子は、……凄いんだから。

 本当は凄いのに……」


 冒険者連中からのヤジが飛び交うなか、キリが(うつむ)かせていた顔をあげた。


 そして哀しげにまつ毛を伏せたかと思うと、力なくボクに問い掛けてくる。


「……ね。

 あなたもこの子のこと、役立たずの木偶の坊だと思う?」


 木偶の坊?


 この火精霊(イフリート)が?


 とんでもない!


 ボクは慌てて(かぶり)を振った。


 勝ち気そうな彼女が、ふっと儚げに微笑む。


「……そう。

 あなたは優しいのね。

 でもそのあなただって、さっきからずっと黙ったまま。

 あたしのこと、迷惑だと思ってるんでしょう?」


「そ、それは……」


 護衛をお願いされた件だろう。


 いや迷惑だとまでは思っていない。


 けれども実際のところ、今し方出会ったばかりのキリのために、魔大陸までの危険な道のりを共に出来るかと問われれば、そう簡単に首を縦に触れない。


 安請け合いなんて出来ないのだ。


「すみません。

 お受けすることは、出来ません」


 応えるとキリが項垂れた。


「そう……。

 わかった。

 無理を言ってごめんなさい」


 イフリートを送還させた彼女は、肩を落としてギルドから歩き去っていく。


 ボクはその背中を見送ることしか出来なかった。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ――キリとギルドで話したあの日から、数日が経過した。


 ここ最近のボクは割りに合わない清掃クエストに励むことをやめ、受注するクエストを薬草採取に切り替えていた。


 清掃と違って薬草採取は都市から外に出る必要がある。


 当然、都市周辺は壁に守られている訳ではないから、弱いながらもモンスターとだって遭遇するし、危険が多くなる。


 だがその分、報酬は高くなるのだ。


 採取の報酬は完全に歩合(ぶあい)制なのだけど、この数日の稼ぎは平均して1日120ベルほどになっていた。


 ざっと清掃クエストの2倍以上である。


「……ふぅ。

 今日はこのくらいにしておこう」


 額の汗を拭う。


 採った薬草を入れたかごを背負子(しょいこ)に結んで背負ったところで、ボクはあることに気付いた。


 ……キリだ。


 あの魔人族の少女が、向こうを歩いている。


 はて?


 こんなところで、どうしたのだろう。


 もしかして彼女もボクと同じように、薬草採取のクエストでも受注しているのだろうか。


 いやそれにしては様子がおかしい。


 彼女はギルドから貸し出される採取用のかごを持っていないし、周辺に生えている薬草なんかには目もくれず真っ直ぐ前を見ながら歩いてる。


 それにキリが歩いているのは都市をつなぐ街道の上ではない。


 先日ギルドで確認した周辺地図によると、あっちに進んだ先には原生林しかないはずである。


 ボクが首を傾げている間にも、キリは迷いなくズンズンと歩いていく。


 そしてすぐに姿が見えなくなった。


 ◇


 採取を終えたボクは冒険者ギルドに戻ってきた。


「ほらよ。

 今日の報酬は113ベルさね。

 受け取んな」


「ありがとうございます」


 いつもの(はす)()なギルド嬢から受け取ったクエスト報酬を布袋に収める。


 安宿に戻る前にどこかで食事でもして帰ろう。


 そんなことを考えながら建物を出ようとしたところで、冒険者たちのバカ笑いが耳に届いてきた。


 どうやら酒を飲んで騒いでいるらしい。


「ぎゃはははは!

 あの小汚ねえクソガキ、まんまと騙されやがったなぁ!」


「あんな嘘を信じるなんて馬鹿じゃねえのか!

 魔人族ってなぁ、脳みそが足りてねぇヤツばっかりか?」


 ……魔人族?


 もしかしてキリのことだろうか。


 立ち止まり、聞き耳を立ててみる。


「しっかしお前も意地が悪いよなぁ?

『原生林の奥に生えている銀色の常世草(とこよぐさ)を採ってくれば、魔大陸までの護衛を引き受けてやる』だぁ?」


「……ぶふぉ!

 ぎゃはははは!

 あの森にそんなもん生えてる訳ねぇっての!

 代わりに魔物ならわんさかいやがるけどな!」


 ――ッ⁉︎


 原生林に向かって歩いていく、キリの後ろ姿を思いだす。


 この冒険者たち、キリを騙して危険な場所へと向かわせたのか⁉︎


 どうしてそんな酷い真似を……!


 ボクはたまらず、騒ぎ続ける彼らの席にツカツカと歩み寄った。


 冒険者たちが酒に酔った赤ら顔を向けてくる。


「……んぁ?

 なんだてめぇ」


「……ボクはスカイ・シューターと言います。

 いまの話、詳しく聞かせて下さい」


★をもらえると嬉しいです。

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