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化物の王  作者: ラノベ書きたいおっさん
1章 何者でもない者
2/2

そんな目で見ないで

 「疲れた。」

 独り言である。

 特に何かをしたわけではない。ただ日常の繰り返しに飽きたという方が近いだろうか。


 夢と希望に溢れ、全能感に支配されたまま何もせずに気づいたら30歳を迎えていた。

 このままじゃまずい。そう思いボランティアに参加したこともあった。人の役に立ちたかったし、何か自分を変えるきっかけが欲しかった。

 しかし周りの参加者は別の目的のために生き、社会貢献としてボランティアを行っている人が殆どで、自分を探している人はいなかった。疎外感のためすぐに辞めてしまう。


 そしてそのまま2年の時がたった。 


フリーター。32歳。童貞。童貞。童貞。


 いかんいかん!このままじゃ心が荒んでしまう。酒とつまみを買いにコンビニ向かった。少し肌寒いが上着を羽織るのも面倒でそのままの服装で外に出る。

 目の前に女性が歩いていた。

 まずい。 

 気まずい。 

 人気のないこの道で、深夜2時に女性の後ろを歩くダラシない格好のフリーター童貞32歳。 


 いやまて。

 童貞はわからんだろう。落ち着け。一旦距離を取ろう、ゆっくり歩こう。

 自分に言い聞かせながら謎の自意識と戦っているとコンビニについた。いつものルーティンで柿ピーと、ストロング缶、それと唐揚げ串を買った。


 よし。少し精神HPが回復したのが自分でもわかった。悲しきかな、人間はこの程度の喜びで生にしがみつけてしまうのだ。ははは。 


 上機嫌で自動ドアに向かおうとすると、先ほど見かけた女性が出て行くのが見えた。 


 しまった。同じコンビニに入っていたようだ。

 漫画コーナーでエロ本をチラチラ見ながら数分過ごした。 

 (よし、もう大丈夫だ。)

 何が大丈夫なのだろう。。また自己嫌悪が始まりそうだったので、思考を酒とつまみに移し、帰路に向かった。 

 現実に耐えられず、缶のフタを持ち上げた。ため息のかわりにプシュッと二酸化炭素が吹き出す。童貞だが優しく缶に口づけし、流し込む。


 う、う、う、うまい。 

 生きててよかった。口に酒が含まれた瞬間に包まれる多幸感。唐揚げを頬張る。そしてその油分をまた炭酸で流し込む。 


 生きててよかった(二度目)。 


 神よ、外で2缶目を開ける罪をお許しください。謎の懺悔と共に次のストロング缶に手を伸ばした時___目に映る光景に心臓を鷲掴みにされた。


 車道を挟んだ向こう側の歩道で、女性が男に襲われている。暗がりでよく見えないが、目は青く凹み、唇が切れて血が流れているのは確かだ。

 服は破かれ、上半身は露出し、力ずくで両足を掴まれている。


 動悸が止まらない、助けなきゃ、怖い、痛そうだ、きっと困っている、ただ体は鋼鉄のように固まり動けない。呼吸が荒くなる。酔いが一気に冷めていく。 


 女性と目があった。よく見るとさっき見かけた女性だった。俺があの時、出る時間をずらしていなければ人気があるため襲われなかったかもしれない。


 懇願にも似た目を向けられる。声も出せず痛みと恐怖に耐えながら。女性の視線から男が俺に気付いた。一瞬驚いたが立ちすくむ俺の姿をみて、いやらしく口角をあげ、行為の続きへ戻る。ついに男はズボンを下ろした。


 女性の目が訴えるメッセージが、懇願から軽蔑、そして諦めと絶望に変わった。


 動け、動け、動け、動け!!! 

 ガタガタと震える膝を無理やり動かし、唐揚げが刺さっていた串を武器に道路に駆け出すと___全身に衝撃が走った。記憶が走馬灯のように巡り、視点が急回転する。何が起きたかわからずいると、もう一度全身に衝撃が走った。 


 誰かの叫び声が聞こえる。


 薄れゆく視界で男が女性から離れて走り出したのが見えた。よかった。

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