悪魔の続き
静寂が心地いい。そう思えるほどに彼女の運命は苛烈で卑劣なものだった。
両手両足の自由を奪われ、暗闇の中ただ衰弱していく。
今年で丁度封印されてから300年になるが、勿論指折り数えているわけでもない彼女にとって、それは節目でも何でもない。
永遠の途中である。
お腹が空いた。喉が渇いた。身体中が痛い。寂しい。辛い。誰か助けて。
救いと希望があるから、苦痛を感じると知った100年目。
人生を振り返り、なんのために生まれ、何故自分だけこんな目にあうのかと世界を呪い続けた200年目。
薄れゆく自我の中、考えることも感じることも、救いを求めることも呪うこともやめ、静寂の中にある今が人生の中で最も幸福であることに気づいた300年目。
死ぬことは出来なくても自我を極限まで薄めて、かりそめの死を感じることは出来る。
何人殺したかなんて覚えていない。
殺したかった人を殺したことはない。
殺したかった人を殺せたことはない。
兵器として作られ、兵器として破棄されて、人として苦しみ、兵器として世界から拒まれる。
そんな悲劇の中、300年ぶりに扉を開いた者がいた。
人の匂いだけで体が勝手に飛び起きた。
心配そうにこちらに近づいてくる青年が覗き込んでくる。
「お前、繋がれてるのか…?」
壊れたマリオネットのようにのたうちまりそうになる。
-クワセロ-
(こっちにきちゃだめ!)
-オナカガスイタ-
(離れて!お願い!)
-ノドガカワイタ-
唾液がとめどなく頬を伝い顎を伝い地面に溢れいく。
心が支配されそうになる。
ヤツの声が脳に響く。
口角は引き上がり、300年ぶりの食事の気配に全身の細胞が歓喜する。
-ワチワビタ…ディナーノジカンダ-
(オ…オオ…オオオオオオナカガスイタイタイタイタイイタイイタイクルシイカワイタクワセロ!!!)
「もっとこっちにきて? 寂しいの。お話しましょう。」