二人の約束
二人は、毎晩電話をするくらいの仲になった。お互いが、孤独を忘れられる時間だった。
マリナに電話がかかってきた。
「もしもし」
「マリナちゃん?元気?」
「元気だよ!」
二人は毎晩電話をしていた。話はいつも、マリナの話だった。
「今日はね、小麦さんに、イグアナの形のパンを提案したの!」
「ははは!つくってもらえると良いね」
「うん!」
「マリナちゃん、お仕事頑張ってるね」
「あなたのおかげだよ!毎日お話聞いてくれるから」
「俺はなにもしてないよ」
「ううん!いつもお話聞いてくれてるよ」
「俺は、マリナちゃんがいつも電話してくれて嬉しいよ。ありがとうマリナちゃん」
「ありがとうって言うとき、少し、」
男がありがとうを言うとき、いつも、少し寂しそうな声だった。
「マリナちゃん、どうしたの?」
「ううん!」
「なにか言いかけたよね?なに?」
「えっと、少し、うれしいなって!」
「少しだけ?」
「あ、えっと、すごくだよ!まちがえちゃった」
マリナは、嘘をつくのが下手になった。
「ねえマリナちゃん、マリナちゃんは、俺の名前、知りたくない?」
男は唐突に、マリナに聞いてきた。マリナは、男の名前を知りたがっていた。だけど、なぜか聞いたことがなかった。
「知りたい」
「教えない」
「なんでよー!」
「ははは!カイおじさんだよ」
「カイさん?」
「うん」
「マリナちゃん忘れないかな~」
「忘れないよ!」
「約束できる?」
「もちろん!」
「マリナちゃん、今度会おう」
「え、それは、」
「デートだよ」
「デートか!いいよ!」
「ほんとに?いいの?」
「うん!カイさんと話すの、好きだもん」
「俺もだよ。今までの人のなかで、一番楽しい。」
「今まで?」
「えっとー、元カノのこと、」
「へえー」
「マリナちゃん?」
「なに?」
「じゃあ、また明日ね。おやすみ」
「もう終わり??」
「明日もお仕事でしょ?もう寝よ」
「わかった。おやすみなさい。」
マリナは、変わり者だ。マリナは、その事を、自分自身がよくわかっていた。しかし、マリナは、カイさんのほうが、自分より変わり者だと、思うことがあった。
二人の約束ができた。自分の居場所が、できたような気がした。