6.変化は突然に
変化はいつも唐突だ。
いや、日常生活で変化なんて、たいていは訪れない。
普通じゃないから、変化というのだ。
***
――あれからバスは怖い。
甘えていると思われてもいい。
けれど兄たちどころか友人たちでさえそれは仕方がないという。
なので、必ず誰かの送り迎えに甘えていた。大学に行けるだけでも、まだいいのかもしれない。
――今、キャンパス前。
兄の燐斗からのメールに足を急がせる。うちのキャンパスは、車通学が認められているが、正門前の停車には守衛さんがうるさい。時には、コラーと怒鳴りつけてくる。
兄に怒鳴りつける守衛がいるとは思えないが、雪花にならば可能。
そして兄がそれに怒るのは必至。
午後二時のキャンパスは閑散としている。
丸い球を中央に挟んだ左右の非対称の歪んだ鉄板のオブジェは、きっと何かの意味があるのかもしれないし、ないのかもしれない。
その下を歩いて、徒歩で七分はかかる正門まで急いでいたところだった。
何かの、視線を感じた。
正門に向かう階段下には兄がいた。どこかで車を止めてきたのだろうか。手をふって、知らせようとした瞬間だった。
真正面に、男の人がいた。
大きい、たぶん燐斗よりも。
百九十センチ以上は、あるのじゃないか。ただその体は細身、いや引き締まっているというべきか。
ぴったりとしたストレッチ素材の黒のシャツに、締まったウエスト。そして黒い髪は背後に結ばれている。
その眼光は銀色、そして頬から顎にうっすらとある傷。それを見て何かを思い出し、雪花が息をのんだ瞬間。
彼が地面に屈んで、雪花の腕をとる。
「え?」
「雪花!!」
兄が、信じられないほどのスピードで、駆けてくる。
「待って!」
兄を止める。
燐斗が来たら、この目の前の彼は殺される。
だが彼は構わず雪花の手を取り、甲に口づける。
「――ようやく見つけた」
彼の髪が後ろからの風になびく、光を浴びるそれは銀に輝く。
「雪花。――俺の番になってくれ」